畑を出て、俺は荷車を引きながら教会を目指した。
教会はモーマットの畑からすぐの場所にあった。……の、だが。
「…………教、会?」
お化け屋敷かと思った。
木製の、今にも傾きそうなおんぼろな建物がそこにはあった。
一応屋根が尖っており、教会の目印なのか、十字架に円がくっついたようなマークがその先端に取り付けられている。
四十二区の建物はこんなのばっかりか……
何を警戒しているのか知らんが、一丁前に木製の塀がぐるりと敷地を囲んでおり、門なんてものまである。……誰が何を盗るんだよ、こんなボロ教会から。人件費で足が出るわ。
それとも、他宗教からの攻撃でもあるのか? だとしたら、無駄な労力は割くなと教えてやりたいね。放っておいても後二、三年で倒壊するだろうよ、この教会は。
なんか、この教会に塀とか門があるのは、電車の向かいの席に座った「テメェのは頼まれても見ねぇよ!」級の女がスカートの裾を押さえてこっちを睨んでくるくらいの不快感があるな。
この傾いた塀なんか、蹴り一発で倒壊しそうだ。
「ごめんくださ~い!」
門に着くなり、ジネットが大声で呼びかける。
すると…………うわぁ……
教会の中から小さいガキどもがわらわらと溢れ出てきやがった。
どいつもこいつも嬉しそうににこにこして、門へと猛ダッシュしてきやがる。
「ジネットネーチャン!」
「お姉ちゃ~ん!」
ジネットに群がるガキども……俺は少し離れた場所でちょっと引き気味にその光景を眺める。
……いや、子供とか、苦手。だってあいつら、理屈通じないんだもん。
「あー!?」
と、一人の男児が俺を見つけるや、指をさして大声を上げやがった。
おい。人を指さすなって教わらなかったか? その指、曲がらない方向に曲げるぞ、コラ?
「男の人だぁー!」
「ホントーだぁ! ジネットネーチャンが男の人連れてきたぁー!」
「シスター! ジネットネーチャンがぁー!」
「あ、あの! みなさん! 落ち着いて! ヤシロさんはウチでお手伝いをしてくださることになった方で、決してそういう関係では……」
「結婚するのー?」
「ふっぇええ!? し、しませんよ! ……たぶん」
「え~!」
「つま~んな~い!」
「いえ、つまらないと言われましても……」
なんだか盛り上がっている。
が、関わりたくないので無視だ。
俺はガキどもが視界に入らないように背を向けた。
目を合わせると寄ってくるからな。
……と、思っていたのだが。
「とぉ!」
「痛っ!?」
目を合わせなくてもガキは寄ってくるものなのだ。
ケツに蹴りを入れられた。
「『いたぁっ!』だってぇ! きゃきゃきゃきゃ!」
「きゃっきゃっきゃっ!」
こまっしゃくれたガキが二匹。片方は人間の顔をしていて、もう一方はキツネっぽい顔だ。……どっちも男だよな?
よし、手加減は無用だ。
「クソガキィ!」
「うわー!」
「男が怒ったー!」
「待てコラァ!」
逃げるガキを両脇に抱え、その場で思いっきり回転を始める。
「ギャー!」
「怖ーーーーーーーーーーーーーーいっ!」
ガキが叫ぶ。
どうだ! 大人の恐ろしさを思い知ったか!
が……
「きゃはははは! 怖ーーい!」
「きゃっきゃっきゃっ!」
その声はすぐに笑いへと変わった。
……くそ、かなり疲れるのにダメージを与えられていない……
「あぁ、もう疲れた。終わり」
「えぇー!」
「もっとぉ!」
うっせぇ!
こちとら、体が若返ってまだ四日目なんだよ!
気分的にはオッサンなの!
と、ガキどもを下ろして顔を上げると…………列が出来ていた。
「え……なに、これ?」
「順番待ちだそうですよ、ヤシロさん」
「は?」
列を作る子供たちは、みんなキラキラした瞳で俺を見上げている。
…………マジか?
列を作るガキどもを数えてみる。…………八人。
あと、四回?
え、死ぬよ、俺?
「さぁ、ジネット。飯の準備をしようじゃないか。みんな腹減っただろう?」
さっさと退散しよう。
今日作った分までは振る舞ってやる。だから、散れ、ガキども。解散だ。
なのに。
ガキどもは列を崩さない。
そればかりか、先頭の幼女(推定四歳・ネコ耳美少女)は瞳をウルウルさせ始めやがった。
「あの、ヤシロさん」
「……なんだよ」
ジネットが俺に近付き、耳打ちをしてくる。
「一度ずつだけでも……」
……お前は、鬼か?
「…………わ~かったよ! 怖くても小便ちびんじゃねぇぞガキども!」
もう自棄だ。
勢いに任せてネコ耳幼女とその次のヤギ顔少女を抱え上げ、俺はその場で回転を始める。
あぁ、くそ! 幼女なんか抱えても全然楽しくない! どっこも柔らかくない!
俺の腕に抱えられ、二人の少女が「きゃっきゃっ」と笑う。
……これ、マジで全員やるんだろうな。
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