異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

6話 農家のワニとシスターベルティーナ -3-

公開日時: 2020年10月7日(水) 20:01
文字数:1,856

 畑を出て、俺は荷車を引きながら教会を目指した。

 教会はモーマットの畑からすぐの場所にあった。……の、だが。

 

「…………教、会?」

 

 お化け屋敷かと思った。

 木製の、今にも傾きそうなおんぼろな建物がそこにはあった。

 一応屋根が尖っており、教会の目印なのか、十字架に円がくっついたようなマークがその先端に取り付けられている。

 

 四十二区の建物はこんなのばっかりか……

 

 何を警戒しているのか知らんが、一丁前に木製の塀がぐるりと敷地を囲んでおり、門なんてものまである。……誰が何を盗るんだよ、こんなボロ教会から。人件費で足が出るわ。

 それとも、他宗教からの攻撃でもあるのか? だとしたら、無駄な労力は割くなと教えてやりたいね。放っておいても後二、三年で倒壊するだろうよ、この教会は。

 

 なんか、この教会に塀とか門があるのは、電車の向かいの席に座った「テメェのは頼まれても見ねぇよ!」級の女がスカートの裾を押さえてこっちを睨んでくるくらいの不快感があるな。

 この傾いた塀なんか、蹴り一発で倒壊しそうだ。

 

「ごめんくださ~い!」

 

 門に着くなり、ジネットが大声で呼びかける。

 すると…………うわぁ……

 

 教会の中から小さいガキどもがわらわらと溢れ出てきやがった。

 どいつもこいつも嬉しそうににこにこして、門へと猛ダッシュしてきやがる。

 

「ジネットネーチャン!」

「お姉ちゃ~ん!」

 

 ジネットに群がるガキども……俺は少し離れた場所でちょっと引き気味にその光景を眺める。

 ……いや、子供とか、苦手。だってあいつら、理屈通じないんだもん。

 

「あー!?」

 

 と、一人の男児が俺を見つけるや、指をさして大声を上げやがった。

 おい。人を指さすなって教わらなかったか? その指、曲がらない方向に曲げるぞ、コラ?

 

「男の人だぁー!」

「ホントーだぁ! ジネットネーチャンが男の人連れてきたぁー!」

「シスター! ジネットネーチャンがぁー!」

「あ、あの! みなさん! 落ち着いて! ヤシロさんはウチでお手伝いをしてくださることになった方で、決してそういう関係では……」

「結婚するのー?」

「ふっぇええ!? し、しませんよ! ……たぶん」

「え~!」

「つま~んな~い!」

「いえ、つまらないと言われましても……」

 

 なんだか盛り上がっている。

 が、関わりたくないので無視だ。

 俺はガキどもが視界に入らないように背を向けた。

 目を合わせると寄ってくるからな。

 ……と、思っていたのだが。

 

「とぉ!」

「痛っ!?」

 

 目を合わせなくてもガキは寄ってくるものなのだ。

 ケツに蹴りを入れられた。

 

「『いたぁっ!』だってぇ! きゃきゃきゃきゃ!」

「きゃっきゃっきゃっ!」

 

 こまっしゃくれたガキが二匹。片方は人間の顔をしていて、もう一方はキツネっぽい顔だ。……どっちも男だよな?

 よし、手加減は無用だ。

 

「クソガキィ!」

「うわー!」

「男が怒ったー!」

「待てコラァ!」

 

 逃げるガキを両脇に抱え、その場で思いっきり回転を始める。

 

「ギャー!」

「怖ーーーーーーーーーーーーーーいっ!」

 

 ガキが叫ぶ。

 どうだ! 大人の恐ろしさを思い知ったか!

 が……

 

「きゃはははは! 怖ーーい!」

「きゃっきゃっきゃっ!」

 

 その声はすぐに笑いへと変わった。

 ……くそ、かなり疲れるのにダメージを与えられていない……

 

「あぁ、もう疲れた。終わり」

「えぇー!」

「もっとぉ!」

 

 うっせぇ!

 こちとら、体が若返ってまだ四日目なんだよ!

 気分的にはオッサンなの!

 

 と、ガキどもを下ろして顔を上げると…………列が出来ていた。

 

「え……なに、これ?」

「順番待ちだそうですよ、ヤシロさん」

「は?」

 

 列を作る子供たちは、みんなキラキラした瞳で俺を見上げている。

 …………マジか?

 

 列を作るガキどもを数えてみる。…………八人。

 あと、四回?

 え、死ぬよ、俺?

 

「さぁ、ジネット。飯の準備をしようじゃないか。みんな腹減っただろう?」

 

 さっさと退散しよう。

 今日作った分までは振る舞ってやる。だから、散れ、ガキども。解散だ。

 

 なのに。

 ガキどもは列を崩さない。

 そればかりか、先頭の幼女(推定四歳・ネコ耳美少女)は瞳をウルウルさせ始めやがった。

 

「あの、ヤシロさん」

「……なんだよ」

 

 ジネットが俺に近付き、耳打ちをしてくる。

 

「一度ずつだけでも……」

 

 ……お前は、鬼か?

 

「…………わ~かったよ! 怖くても小便ちびんじゃねぇぞガキども!」

 

 もう自棄だ。

 勢いに任せてネコ耳幼女とその次のヤギ顔少女を抱え上げ、俺はその場で回転を始める。

 あぁ、くそ! 幼女なんか抱えても全然楽しくない! どっこも柔らかくない!

 

 俺の腕に抱えられ、二人の少女が「きゃっきゃっ」と笑う。

 ……これ、マジで全員やるんだろうな。

 

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