異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

238話 集まる罪人(?) -3-

公開日時: 2021年3月25日(木) 20:01
文字数:2,310

「おぉ、これが揚げたこ焼きか。美味しそうな香りだな。早速いただこう」

「ギルベルタ。ルシア、手ぇ使えないから食べさせてやればどうだ?」

「おぉ! たまにはいいことを言うではないか、カタクチイワシ! そうだ、食べさせてもらおう!」

「ダメですよ、ルシアさん!? 熱過ぎて死にますよ!? ヤシロはこういう場面で善意を見せることなんてないんですから!」

 

 という、エステラの妨害により、熱さにもんどり打つミノムシ(=ルシア)を拝むことは出来なかった。……残念だ。

 

 ルシアがす巻きから解放されて、軽く俺に蹴りを入れに来て、席へ戻って揚げたこ焼きを食べる。

 ……蹴んなよ。

 

「美味いな! タコの食感がいいアクセントになっている」

「絶品思う、私も、この揚げたこ焼きを……はふはふ」

「おぉ、タコと言えば」

「はふはふ……」

 

 ずっとはふはふしているギルベルタとは対照的に、熱いたこ焼きを一口でぽんぽん食っていくルシア。あいつの口の中は、熱湯に近いお茶を好んで飲む江戸っ子の爺さん並みに熱さへの耐性があるのだろう。

 

「マーたんがあとで来るそうだ」

「マーシャが?」

「うむ。カタクチイワシへのクレームを言いに来るそうだ」

「後日にしてくれ、そんなもんは」

 

 クレームは冗談で――それが、ルシアの冗談なのか、マーシャの冗談なのか判別は出来ないが――俺たちと話し合いたいことがあるのだろう。

 

 海漁ギルドが味方についてくれるなら、心強いんだが………………ん?

 んん?

 待てよ…………

 

「なぁ、エステラ。鉱山を掘ってるギルドがあるんだよな?」

「うん。四十二区のそばにはいないけどね」

「じゃあ、石の切り出しとか加工とかは誰がやってるんだ?」

「石の……誰もやってないけど? 家を建てる時には、必要な分だけ買ったり、材料調達は大工に任せているよ」

 

 そっか、近隣にはいないのか…………ってことは、多少派手なことやっても怒られないかもしれんな。怒るヤツがそばにいないなら。

 

「ベッコ。お前、彫刻は出来るよな?」

「もちろんでござる! 金銭的に経験はあまり豊富ではござらんが、拙者は本来彫刻こそが使命だと思っているでござるよ」

 

 ベッコなら、石の加工も出来るかもしれない、か。

 

「ウェンディ」

「はい」

「集光レンガって、どれくらいで実用化できる?」

「え…………っと、粉の研究はほぼ完成していまして、あとはレンガとの相性をテストしなければいけませんので…………あとひと月かふた月くらいは……」

「明日までに試作品を作ってくれ」

「えぇっ!? で、ですが、それだとセロンが……」

「大丈夫だよ、ウェンディ。英雄様の頼みとあらば、僕は寝ずにレンガを完成させるよ!」

「でも、セロン……」

「なぁ、ウェンディ。四十二区のために額に汗して働くセロン……カッコよくないか?」

「……きゅんっ!」

 

 よし、陥落。

 これで、集光レンガを一定数確保できれば……実用化はもう少し後でもいい。大々的にプレゼンが出来ればそれで…………

 

「ウーマロとロレッタは、いちいち確認取らなくてもあごで使えるとして……」

「独り言がえげつないよ、ヤシロ」

 

 エステラの茶々をするっとスルーして、残りのピースをかき集めていく。

 これが全部噛み合えば、ひっくり返せるかもしれない、くだらない『BU』のルールを。

 

「マグダ」

「……なに?」

「メドラに会いたいんだが」

「………………プロポーズ?」

「縁起でもないこと口にすんじゃねぇよ。メドラの前では冗談でも言うなよ。……あいつ、都合のいいことしか聞かねぇから」

 

 ハビエル然り、メドラ然り、この付近を職場としている連中にも確認を取らなければいけない。

 まぁ、多少無理やりにでも了承を得るつもりではあるが……最悪、何か見返りが必要になるかもしれない。

 

 で、一番文句を言いそうなのが、ルシアなんだよな…………こいつを納得させることが出来れば、あとはなんとかなりそうな気がするんだが、果たして…………

 

「なぁ、ルシア」

「なんだ、改まった顔をして」

 

 こいつは試金石だ……いっちょ試してみるか。

 

「マーシャを俺にくれねぇか?」

「なっ!?」

「えっ!?」

「はぁっ!?」

「……なんと」

「あっと驚く、私は」

 

 なんだか、ルシア以外の女子たちも驚いてしまった。

 いやいや、そういうことじゃなくてだな……

 

「四十二区に、小さな港を作りたい」

 

 そうすることで、大きく変わるんだよ、『流れ』が。

 

「……それを、私が許可するとでも思っているのか?」

「してもらう。意地でも。ついでに、三十七区の領主にも話を付けてきてくれ」

「話にならんな。血迷ったとしか思えんぞ、カタクチイワシ。海漁ギルドの港は、我が区の生命線だ。それを揺るがすような提案を、この私が受けるとでも思っ……」

「ニュータウンに、お前の別荘を建ててやる」

「…………………………………………むぅ」

「悩むんですね、ルシアさん!?」

 

 エステラが元気なツッコミを入れたところで、俺は手応えを感じていた。

 ルシアの物言いは、一見すると反発のように見えるが……あの目は聞きたがっている目だ。詳細を。勝率を。勝算を。

 

 切羽詰まった状況であることを承知し、その打開策を模索しているのはルシアも同じだ。

 痛みを伴わない改革などあり得ない。

 それを承知した上で、あいつは聞きたがっている。俺のもたらす秘策を。

 

「詳しく聞かせてもらおうか……『BU』を組み伏せる方策を」

 

 語ってやるさ。

『BU』の中の誰もが確信している勝利が、いかに脆くて、いかに見かけ倒しかということを。

 そして、その幻影を一気にかき消す作戦を。

 

 たこ焼きでも食って、しっかりと聞いてやがれ。

 

 

 

 その後、半日を使って、俺は頼れる連中に声をかけて回った。

 残された二日間でなんとしてでも仕上げなければいけないものを仕上げるために。

 

 

 

 

 

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