異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

136話 第一試合 大食いの理由 -3-

公開日時: 2021年2月13日(土) 20:01
文字数:2,633

「ごちそうさまでした」

「えぇぇえっ!?」

 

 あいつっ、今っ、なんて言ったっ!?

 ご馳走さまだとっ!?

 

「おい、ベルティーナ! まだ時間は十五分も残ってるんだぞ!? 食わなくてもいいからとにかくおかわりを頼んでおけ! 少し休んでいいから、時間いっぱいまで頑張るんだ!」

「けれど、ヤシロさん」

 

 俺が叫ぶと、ベルティーナが舞台の上でこちらに視線を向ける。

 

「残すと、もったいないです」

「あとでスタッフが美味しくいただくから気にすんなぁっ!」

 

 大会だぞ!? 

 何を悠長なことを言ってやがんだ!

 

 俺の言葉を聞き、ベルティーナはこくりと頷いた。

 そして、美しい所作で手を上げる。

 

「おかわりを、お願いします」

 

 ベルティーナの目の前に五十一枚目の皿が運ばれてきた。

 しかし、ベルティーナは一切動こうとしない。

 

 くっ!

 隣を見ると……

 

「なんだか知らねぇが、チャンスだ! 今のうちにっ! ガーウガウガウッ! ガーァァァァウガウガウッ!」

「私も、負けていられませんねっ! ウーッホウッホウッホ!」

 

 ベルティーナの手が止まったことで、他の二人がペースを上げやがった。

 目標の背中が見えると、人は実力以上の力を出せることがある。

 

 今のイサークにオースティンがまさにその状態だ。

 絶対強者であるベルティーナに追いつけるかもしれない。

 その高揚感と使命感が、ヤツらの胃を限界以上に押し広げているのだ。

 

 砂時計の砂は、なんだかさっきより落下速度が落ちたような気がする。

 残り八分……

 

「おかわりだっ!」

 

 イサークが四十二皿目に入る。

 

「こちらも、おかわりをお願いいたします!」

 

 オースティンは、さっきまで休んでいたのが功を奏したのか、イサークよりも伸び率が高い。

 あっという間に枚数を重ね、これで四十皿目だ。イサークに追いつきそうな勢いが出ている。

 

 そんな中、ベルティーナは一切食べ物を口にしようとしない。

 どうしたベルティーナ!? まさか、俺が『五十皿は堅い』とか言ってたのを変に解釈して、『五十皿以上食べちゃダメだ』とでも思っているのか!?

 

 砂時計の砂は、止まっているんじゃないかと思えるほど、全然減らない。

 くそっ! 早く! 早く落ちてしまえ!

 このまま逃げ切るしか、俺たちに道はなさそうなんだ!

 だったら早く! 砂よ、落ちろ!

 

「あたしも応援するです!」

 

 と、ロレッタがぴょんぴょんとジャンプを始める。

 どうやら、震動で砂の落下を早めようとしているらしいが……そんなんじゃなんの影響も出ない。むしろ、この程度で影響が出るようでは困ってしまう。

 だから、ロレッタの行動はまるっきり無駄なのだが……

 

「よし! 俺も跳ぶ!」

「えっ! じゃ、じゃあ、ボクも!」

「……よしきた」

 

 早く落ちろ! 

 それだけを願い俺たちはジャンプを続けた。

 無駄なことだとは知りつつも!

 

「べ、べるてぃーなさぁ~ん! が、がんばって~!」

 

 細い声を精一杯張り上げて、ミリィが声援を飛ばす。

 って、おぉっ!? 

 ミリィがチアガールに変身している! しかも、決して長くはない髪をムリヤリ束ねたツインテールではないか!?

 大きなテントウムシの髪飾りはツインテールの邪魔にならないように、チア服の腰につけられている。

 

「私たちが応援していますよ! さぁ、ベルティーナさん! あなたの本当の力を今こそ見せてください!」

 

 よく通る声でナタリアが声援を飛ばす……って、えぇぇええっ!?

 ナタリアまでもがチアガールに!?

 

「ナタリア……いつの間に?」

「先ほどです。気が付きませんでしたか、お嬢様?」

 

 エステラもちょっと引いている。

 そりゃ、自分とこのメイド長が超ミニスカートのチアガールになってりゃ驚くわな。

 

「ガンバレ、ガンバレ、シ~ス~タ~!」

 

 ポンポンをバタバタ振りながら、ネフェリーがジャンプをしている。

 諦めろ、お前は空を飛べない鳥なんだ!

 

「チアガールリーダー!」

 

 ナタリアがノーマを呼ぶ。

 ……チアガールリーダーって…………

 

「あなたも応援をしてください!」

「ア、アタシは……だって、こんな格好で……」

「今、ベルティーナさんが四十二区のために一人で戦っているのですよ! それを応援しないで、何がチアガールですか!? 同じ区の仲間ではないですか!」

 

 なんということだ!?

 ナタリアがなんか正論っぽいことを言っている!?

 

「あなたのお乳はなんのために大きいんですか!? 今揺らさないで、いつ揺らすというのですか!?」

 

 あ、うん。やっぱりナタリアはナタリアだ。

 

「……アタシのお乳が、大きいのは………………今、ここで揺らすためっ!?」

 

 なんかよく分かんない説得が、功を奏してしまったようだ。

 大丈夫か、ノーマ? それでいいのか、お前の人生!?

 

「シスターベルティーナに、勝ってもらわなきゃあ、アタシらみ~んな、困っちまうんさねぇ……よござんす! アタシの応援、とくと見るがいいさッ!」

 

 言うや否や、ノーマがポンポンを振り乱してぴょんぴょんとジャンプをし始めた!

 ばいんばいんばいん!

 波打つように、そしてリズミカルに、ノーマのGカップおっぱいが盛大に跳ね、大暴れする。

 なんかもう……ホント、ありがとうございますっ!

 

「シスターベルティーナ~! あんた、ここで頑張らなきゃ、女が廃るさね! 同じ四十二区の女として、根性見せとくれよぉ!」

「ベルティーナさん! ファイトです!」

「ガンバレー! シスター!」

「ぁ、ぁのっ! がんばってくださぁ~い!」

 

 チアガールリーダーのノーマをはじめ、ナタリア、ネフェリー、ミリィが声を上げる。

 観客席も一体となりベルティーナに声援を送る。

 

 砂時計は…………あと、一分!

 と、ここでベルティーナがフォークに手をかけた。

 いくかっ!?

 

「ガーウガウガウッ! ガウガウガウッ!」

「ウーッホウッホウッホ! ウッホホウッホ!」

 

 イサークは現在四十九皿目をほぼ完食している。

 オースティンも四十九皿目に入った。

 

 マズい……追いつかれる…………っ!

 

「おかわりだ!」

「ウッホホ! ウホホッホ! ウホッ! お、おかわりを……お、お願いいたし、おぅ……っぷ、ます!」

 

 ついに五十皿……

 こいつを完食されると……並ぶっ!

 

「……すぅぅ……………………はぁぁぁ……」

 

 ベルティーナが、ゆっくりと深呼吸をする。 

 そして、小さく頷いた。

 

 ……あれ? あいつ、もしかして…………

 

「ガウッ…………ガ、ガウッ……!」

「ウ……ップ…………ホホ、ウッホ…………」

 

 イサークはあとハンバーグ半分。

 オースティンはソーセージとナポリタンを残している。

 

「負け……る…………かぁ!」

「私も…………まだ、食べられま…………」

 

 

 ――カンカンカンカーン!

 

 

 そこで、終了の鐘が打ち鳴らされた。

 結果は――

 

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