「ごちそうさまでした」
「えぇぇえっ!?」
あいつっ、今っ、なんて言ったっ!?
ご馳走さまだとっ!?
「おい、ベルティーナ! まだ時間は十五分も残ってるんだぞ!? 食わなくてもいいからとにかくおかわりを頼んでおけ! 少し休んでいいから、時間いっぱいまで頑張るんだ!」
「けれど、ヤシロさん」
俺が叫ぶと、ベルティーナが舞台の上でこちらに視線を向ける。
「残すと、もったいないです」
「あとでスタッフが美味しくいただくから気にすんなぁっ!」
大会だぞ!?
何を悠長なことを言ってやがんだ!
俺の言葉を聞き、ベルティーナはこくりと頷いた。
そして、美しい所作で手を上げる。
「おかわりを、お願いします」
ベルティーナの目の前に五十一枚目の皿が運ばれてきた。
しかし、ベルティーナは一切動こうとしない。
くっ!
隣を見ると……
「なんだか知らねぇが、チャンスだ! 今のうちにっ! ガーウガウガウッ! ガーァァァァウガウガウッ!」
「私も、負けていられませんねっ! ウーッホウッホウッホ!」
ベルティーナの手が止まったことで、他の二人がペースを上げやがった。
目標の背中が見えると、人は実力以上の力を出せることがある。
今のイサークにオースティンがまさにその状態だ。
絶対強者であるベルティーナに追いつけるかもしれない。
その高揚感と使命感が、ヤツらの胃を限界以上に押し広げているのだ。
砂時計の砂は、なんだかさっきより落下速度が落ちたような気がする。
残り八分……
「おかわりだっ!」
イサークが四十二皿目に入る。
「こちらも、おかわりをお願いいたします!」
オースティンは、さっきまで休んでいたのが功を奏したのか、イサークよりも伸び率が高い。
あっという間に枚数を重ね、これで四十皿目だ。イサークに追いつきそうな勢いが出ている。
そんな中、ベルティーナは一切食べ物を口にしようとしない。
どうしたベルティーナ!? まさか、俺が『五十皿は堅い』とか言ってたのを変に解釈して、『五十皿以上食べちゃダメだ』とでも思っているのか!?
砂時計の砂は、止まっているんじゃないかと思えるほど、全然減らない。
くそっ! 早く! 早く落ちてしまえ!
このまま逃げ切るしか、俺たちに道はなさそうなんだ!
だったら早く! 砂よ、落ちろ!
「あたしも応援するです!」
と、ロレッタがぴょんぴょんとジャンプを始める。
どうやら、震動で砂の落下を早めようとしているらしいが……そんなんじゃなんの影響も出ない。むしろ、この程度で影響が出るようでは困ってしまう。
だから、ロレッタの行動はまるっきり無駄なのだが……
「よし! 俺も跳ぶ!」
「えっ! じゃ、じゃあ、ボクも!」
「……よしきた」
早く落ちろ!
それだけを願い俺たちはジャンプを続けた。
無駄なことだとは知りつつも!
「べ、べるてぃーなさぁ~ん! が、がんばって~!」
細い声を精一杯張り上げて、ミリィが声援を飛ばす。
って、おぉっ!?
ミリィがチアガールに変身している! しかも、決して長くはない髪をムリヤリ束ねたツインテールではないか!?
大きなテントウムシの髪飾りはツインテールの邪魔にならないように、チア服の腰につけられている。
「私たちが応援していますよ! さぁ、ベルティーナさん! あなたの本当の力を今こそ見せてください!」
よく通る声でナタリアが声援を飛ばす……って、えぇぇええっ!?
ナタリアまでもがチアガールに!?
「ナタリア……いつの間に?」
「先ほどです。気が付きませんでしたか、お嬢様?」
エステラもちょっと引いている。
そりゃ、自分とこのメイド長が超ミニスカートのチアガールになってりゃ驚くわな。
「ガンバレ、ガンバレ、シ~ス~タ~!」
ポンポンをバタバタ振りながら、ネフェリーがジャンプをしている。
諦めろ、お前は空を飛べない鳥なんだ!
「チアガールリーダー!」
ナタリアがノーマを呼ぶ。
……チアガールリーダーって…………
「あなたも応援をしてください!」
「ア、アタシは……だって、こんな格好で……」
「今、ベルティーナさんが四十二区のために一人で戦っているのですよ! それを応援しないで、何がチアガールですか!? 同じ区の仲間ではないですか!」
なんということだ!?
ナタリアがなんか正論っぽいことを言っている!?
「あなたのお乳はなんのために大きいんですか!? 今揺らさないで、いつ揺らすというのですか!?」
あ、うん。やっぱりナタリアはナタリアだ。
「……アタシのお乳が、大きいのは………………今、ここで揺らすためっ!?」
なんかよく分かんない説得が、功を奏してしまったようだ。
大丈夫か、ノーマ? それでいいのか、お前の人生!?
「シスターベルティーナに、勝ってもらわなきゃあ、アタシらみ~んな、困っちまうんさねぇ……よござんす! アタシの応援、とくと見るがいいさッ!」
言うや否や、ノーマがポンポンを振り乱してぴょんぴょんとジャンプをし始めた!
ばいんばいんばいん!
波打つように、そしてリズミカルに、ノーマのGカップおっぱいが盛大に跳ね、大暴れする。
なんかもう……ホント、ありがとうございますっ!
「シスターベルティーナ~! あんた、ここで頑張らなきゃ、女が廃るさね! 同じ四十二区の女として、根性見せとくれよぉ!」
「ベルティーナさん! ファイトです!」
「ガンバレー! シスター!」
「ぁ、ぁのっ! がんばってくださぁ~い!」
チアガールリーダーのノーマをはじめ、ナタリア、ネフェリー、ミリィが声を上げる。
観客席も一体となりベルティーナに声援を送る。
砂時計は…………あと、一分!
と、ここでベルティーナがフォークに手をかけた。
いくかっ!?
「ガーウガウガウッ! ガウガウガウッ!」
「ウーッホウッホウッホ! ウッホホウッホ!」
イサークは現在四十九皿目をほぼ完食している。
オースティンも四十九皿目に入った。
マズい……追いつかれる…………っ!
「おかわりだ!」
「ウッホホ! ウホホッホ! ウホッ! お、おかわりを……お、お願いいたし、おぅ……っぷ、ます!」
ついに五十皿……
こいつを完食されると……並ぶっ!
「……すぅぅ……………………はぁぁぁ……」
ベルティーナが、ゆっくりと深呼吸をする。
そして、小さく頷いた。
……あれ? あいつ、もしかして…………
「ガウッ…………ガ、ガウッ……!」
「ウ……ップ…………ホホ、ウッホ…………」
イサークはあとハンバーグ半分。
オースティンはソーセージとナポリタンを残している。
「負け……る…………かぁ!」
「私も…………まだ、食べられま…………」
――カンカンカンカーン!
そこで、終了の鐘が打ち鳴らされた。
結果は――
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