「ロレッタ」
「は、はいです!」
「頑張れ!」
「普通です! いや、普通未満の手抜きです!」
だってさぁ、いちいち持ち上げるの、結構大変なんだぞ?
もうお前はいいじゃん。普通でさぁ。
「信じてるぜ☆」
「使い回し感満載です! それさっき給仕長ズに言ったヤツです!」
「可愛いぞ☆」
「使い回しです! 今さっき聞いたです!」
「『マジ天使ッスー』」
「それは言ってないです! というか、それウーマロさんのです!」
「普通」
「悪口ですか!?」
あぁ、もう。
気難しい年頃め。
へいへい。オリジナリティがあればいいんだろう。……ったく。
「ロレッタ」
名を呼ぶと、ロレッタは腰を落として身構える。
……ツッコミ入れる気満々じゃねぇかよ、お前も。
「期待してるぞ」
「へ…………、あ、は、はいです!」
おデコをぽんと叩いてやると、そこを押さえて元気な返事を寄越してきた。
ロレッタは足が速いから、期待は十分に出来る。デリアにだってノーマにだって負けはしない。
「自分が輝ける場所で、盛大に活躍してくれ」
「自分が輝ける…………『可愛い対決』ですね!?」
……ただ、ちょ~っとアホの娘なんだよなぁ。
あぁ、残念だ。あぁ、ポンコツだ。
「ニッカとカールもよろしくな」
「ふん! やる以上、全力は尽くすデスヨ。負けるのは、好きではないデスカラネ!」
「オレも、ニッカのために頑張るダゾ!」
この二人は、口はともかく協力はしてくれるんだよな。
結婚式のあれやこれやで、そこんところは理解している。
「マーシャとモコカ、あとオッサンらもよろしくな」
「は~い☆ 走るのは無理だけどねぇ~☆」
「合点承知の助だぜです!」
「任せてくれよ、兄ちゃん!」
「やる気満々ですから!」
ここら辺はもともと協力的なので助かるよ。
「……で、バーサは大人しくしててくれ」
「あなたがそれを望・む・な・ら☆」
あんまうろちょろしないでくれな。士気が下がるから。
と、一通り声をかけ終わったかなぁ~と思っていると、バルバラが俺の背中を小突いた。またグーで……痛いつってんだろ!
「おい、英雄! アーシにもなんか言えよ!」
「……お前は俺に何か言われても士気上がんないだろうが」
「いいから言えよ! テレサに『アーシが期待されてない』と思われるだろう!?」
思わねぇよ……お前とは違って、テレサは良識があるし。
……っとに。
「テレサにカッコいいところ見せてやれ。『お前の姉ちゃんは最高だ』ってところな」
「おう! 任せとけ!」
……じゃあまぁ、残った獣人族にも一応言葉を送っておくか。
振り返って、モーマットとウーマロに告げる。
「死ぬ気で頑張れ、頑張れないなら死ね」
「ヤシロ、お前なぁ……」
「オイラ達には激励とか、もういらないッスから……」
モーマットとウーマロが疲れ切った顔をさらしている。
まだ始まったばかりだってのに。
「くすくす……」
と、一歩引いたところで俺たちを眺めていたジネット。
口元を隠して肩を震わせている。
目が合うと、申し訳なさそうな笑みを俺に向けた。
「ヤシロさんは、きっといいお父さんになりますね」
「……縁起でもないこと言うんじゃねぇよ」
俺はガキが嫌いだっつってんだろうが。
自分そっくりなガキとか……鍛えようとかいう裏の意味とか一切なく千尋の谷に突き落としそうだよ。不気味過ぎて。
だいたい、俺のガキってことは、俺の嫁のおっぱいを横取りするにっくき敵だろ?
戦争じゃねぇか、そんなもん。
「嫁のおっぱいは俺のものだ」
「あの……ヤシロさん……張り合わないでください、ね?」
心底不安そうにジネットが表情を曇らせる。
俺がおっぱいを独占する様でも想像したのだろう。
なぁに、特に決まった相手もいないんだ。
そんな心配は必要ない。
「ヤシロさんとご結婚される方は、かなりの子供好きでないと務まりませんね」
とことこと近付いてきて、俺の鼻頭をぷにんと押す。
「自分の子供と、こ~んなに大きな子供の面倒を一緒に見ないといけないんですから」
そして、くすくすと笑う。
ジネットは気付いていないのだろうな……
……お前、それ自分にも返ってくる可能性がある『諸刃の弄り』なんだぞってことに。
「じゃあ毎日おっぱいをおねだりしても問題ないな!」
「懺悔してください」
……ちっ。
俺がそうでも言わなきゃ変な空気になってたんだっつの。
ただでさえ、向こうの方で妙に張り切ってる人間がいるってのに…………あぁ、メドラが見切れる。無視だ無視!
くっそ、バーサがうろちょろしてる! 無視だ無視!
「とにかく、心を一つにして勝利を手繰り寄せるぞ」
「そうです! お兄ちゃんいいこと言ったです!」
「お前ら! 英雄の言ったように団結して、アーシの見せ場を作れよ!」
「見せ場を作るなら、リベカのです!」
「わし、い~っぱい頑張るのじゃ!」
「参加するからには、給仕長として武勲を挙げなければいけません」
「手柄は、早い者勝ちということ、ですね?」
「ねぇねぇ、ヤシロくぅ~ん☆ 私、参加できる競技あるのかなぁ?」
「あ、そうだ。昼飯は絶対ヤシぴっぴと一緒がいいってウチの大将が言ってたぜですよ」
「カブさん! 大玉転がしとかあるんだそうですよ!」
「はっはぁー! そりゃあ、投げ応えがありそうだな!」
「あ、あの、みなさん……心を一つに……あのっ!」
「おぅおぅ、ダメじゃねぇのか、これ……」
「てんでバラバラッスね……」
バルバラ辺りからおかしくなって、ジネットがハラハラ顔だ。モーマットとウーマロも呆れている。
「……ヤシロ。助っ人チームの団結力が弱い。なんとかまとめて」
「しゃーねぇーなぁ……」
チームリーダーからのお達しなら仕方ない。
好き勝手言って、あちらこちらに意識が飛んでいる寄せ集めの助っ人どもの心を一つにする魔法の言葉を、俺は唱えた。
「お前らのブルマ、エッロいな☆」
一瞬にして、みんなの心が一つになった。
イネスやソフィーやニッカやカールは殺気のこもった視線を俺に向け、デボラやリベカは少し照れた顔を見せ、マーシャとモコカは「しょうがないなぁ、もう」みたいな苦笑を漏らし、カブリエルとマルクスとモーマットはついつい視線がまぶしい太ももへ……と、全員の心が『ブルマ』という一つのキーワードに収束された。
すげぇなブルマ!
最高だねっ!
「もう、ヤシロさん……」
「お兄ちゃん……」
「……ヤシロだから仕方ない」
陽だまり亭のメンバーは困ったような呆れたような顔で俺を見て――
「懺悔してください」
「懺悔してです」
「……懺悔するべき」
そんな言葉を同時に口にした。
……つか。ウーマロ、混ざってこいよ。面識のあまりない女子が多いからって……ったく。
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