異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

挿話15 陽だまり亭の年末年始 -1-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:1,628

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「シスター。準備が出来ました」

「ベルティーナさん、もち米、すっごいほっかほかです!」

「……子供たち、手伝えー」

「「「ぅわ~い!」」」

 

 ジネットをはじめ、陽だまり亭のみなさんが教会に来て、また面白いことを始めました。

 

「いいかガキ共! 働かざる者食うべからず! ちゃんと手伝いをしねぇヤツには一つも食わせねぇからな! 分かったか!?」

「「「はぁ~い!」」」

 

 今回も、ヤシロさんが発起人となり、子供たちを喜ばせるために企画してくださったのだとか。本当に、面倒見のいい方です。

 

「じゃあ、今言ったことをあそこの働かないのに人一倍食うシスターに言ってきてくれ」

「「「シスター! 働かざる者食うべからずだってー」」」

 

 ヤシロさん……子供たちを使って牽制してくるとは…………これはきっと、よほど美味しい物なのでしょう。わくわくが止まりません。

 

「ヤシロさん、臼と杵の具合はどうッスか? 一応、言われた寸法で作ったッスけど」

「あぁ、バッチリだ。それからミリィ、ケヤキの木ありがとな」

「ぁ……ううん。クリスマス、楽しかったから……」

「いい娘だなぁ、ミリィは…………それに比べてどこかの木こりギルドは!?」

「仕方ないではありませんか!? 木こりギルドの支部はいまだ住居しか存在しないのですから! ウーマロさんの怠慢ですわ!」

「ちょっと待ってッス! オイラ今、街門の工事で滅茶苦茶頑張ってるッスよ!?」

「ヤシロ。早く始めようよ。もち米を持ち続けてるロレッタが涙目だよ?」

「あ、熱いです! 早く次の指示が欲しいです!」

 

 生花ギルドのミリィさんが森から木を持ってきて、それをトルベック工務店のウーマロさんが加工した『臼』と『杵』というものを使って、今日は『餅つき』ということをするのだそうです。

 これから何が起こるのか、子供たちがわくわくとヤシロさんの周りに集まっています。

 

「よし! じゃあ、最初は俺が手本を見せるからな。餅を搗くタイミングで『ぺったん、ぺったん』って掛け声があると盛り上がるんでよろしく!」

「「「はーい!」」」

「じゃあ、みんなが言いやすいように、エステラ、前へ」

「うん、言うと思ったよ!」

 

 いつも賑やかで、彼がいると子供たちが生き生きとしています。本当に……不思議な方ですね。

 

 それから、盛大な掛け声を上げて餅つきが始まりました。

 最初はヤシロさんが搗いていたのですが、もち米を混ぜる方のタイミングが難しいらしく、ジネットが苦戦をしていました。そこで選手交代をし、ヤシロさんが混ぜ手を、そして搗き手はマグダさんです。

 

「…………一撃で仕留めるっ」

「加減しろよ!? 臼、これしかないんだからな!?」

「……善処する」

「んじゃ、せーのぉ!」

「「「ぺーったん! ぺーったん!」」」

 

 今度はテンポよく餅が搗かれていきます。

 これは見ていて楽しいですね。子供たちも大喜びです。

 

「ボクにもやらせて!」

「……では、選手交代」

「んじゃ、エステラ。行くぞ」

「いいよ! せーの!」

「「「………………」」」

「ちょっと、みんな! 掛け声は!?」

「バカ、……子供に気ぃ遣わせんなよ」

「言っていいから! 『ぺったんぺったん』言っていいから! むしろ言われない方が傷付くから!」

 

 最近、ウチの子供たちはヤシロさんに似てきた気がします。

 うふふ……面白い大人になってくれると嬉しいですね。

 

 それから、子供たちも交えて何度も何度も餅米が搗かれ……やがてそれはお餅へと変わりました。

 

「ヤシロさん。あんこときな粉の準備が出来ました」

「じゃあ、餅を小さく切って味を付けてくれ」

「ヤシロさん」

「あぁ、ベルティーナさんも手伝って……」

「はい。とても美味しいです」

「もう食ってんのかよ!?」

 

 一番乗りです。よく伸びます。美味しいです。

 これは、夢中になる美味しさです。

 これは、早目に言っておいた方がよさそうですね……

 

「おかわり」

「今、出来たとこだろうが!?」

 

 私は、それからの数十分間、無心で食べ続けました。これは、年が明けても是非やりましょう! そうしましょう。

 

 

 

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