異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加37話 領主はいろいろ、給仕長もいろいろ -1-

公開日時: 2021年3月31日(水) 20:01
文字数:2,536

「よぉし、野郎ども! ここからは俺がテメェらの強力な助っ人として加入してやる! 現在最下位だろうが、そんなもんは関係ねぇ……絶対に優勝するぞ、オラァ!」

 

 と、一人で拳を突き上げるリカルド。

 どこで手に入れてきたのか、ジジイの執事共々額に白い鉢巻を結んでやがる。

 

「え~っと、リカルド。迷子になったんなら本部に行って保護者を呼び出してもらえ」

「誰が迷子だ!?」

 

 いや、帰る場所間違えてるからよ。

 

「……リカルド。一般観客席はあっち」

「さりげに追い返そうとしてんじゃねぇよ、トラの娘! あと呼び捨てにするな、俺は領主でお前よりもずっと偉い……って、貴賓席を指差せよせめて!? なんで一般観客席だ!?」

「ツッコミを欲張るなよ、リカルド」

「お前がトラの娘をしっかりしつけてねぇからだろうが!」

 

 いやいや。マグダほどしっかり躾の行き届いたヤツはいないだろう。

 どこに出してもしっかりと面白い受け答えをしてくれるぞ。

 

「何を騒いでいるのさ、リカルド……」

 

 片頭痛をアピールするように頭を押さえてエステラがやって来る。

 リカルドの前に立つや否や盛大なため息を漏らす。

 

「……ボクはね、日頃の行いなんかを鑑みてヤシロはもっと苦労や面倒くさいことに巻き込まれても自業自得だし、むしろそういう目に遭って少しは自分の行いを反省すればいいと思っているんだけれど……」

 

 好き勝手なことを抜かすエステラ。

 俺に覆いかぶさってきた面倒ごとは、そっくりそのままお前に突き返してやるからな。

 

「そういうことを前提に聞いてほしいんだけどね、リカルド――」

「お、おう……なんだよ?」

「――ヤシロに迷惑をかけないでくれるかい?」

「オオバよりも随分と低く見積もってくれてるようだなぁ、このやろう!?」

「あはは、当然だよ。誤解を恐れずに宣言しよう。君よりヤシロの方が大事だ」

「清々しいまでにムカつくな、テメェは!?」

 

 エステラが俺の肩を持ってくれている?

 いいや、違うぞ。

 あれは単純に、どこまでもリカルドを突き放しているだけだ。

 

「そもそも、なんでそんなに混ざりたいのさ? 『四十二区の』区民運動会に」

「四十二区の住人じゃねぇヤツがすでにゴロゴロ参加してんだろうが!」

「寂しがらないでよ、いい歳して」

「違っ!? そんなんじゃねぇよ!」

 

 惜しいな、リカルド。

 こういう場面で「そんなんじゃない」と口にしたヤツが「そんなんじゃなかった」ことなど一度もないんだよ。

 

「客観的に見て、このチーム分けは不公平だと思ったわけだ。白組だけが明らかに戦力的に落ちる。その要因を作り出しているのが、四十一区のメドラや、三十五区の領主たちだ」

「ふん。我々は事前に許可を得てこの日に臨んでおるのだ。不当な非難はやめてもらおうか」

 

 騒ぐリカルドの前に、ルシアが立ちはだかる。

 ……なにを、さも「平和的に約束された」みたいな顔してやがんだ。無理やりねじ込んだくせに。

 

「そのとおりだよ、リカルド。それに、白組が戦力的に劣るということはないんじゃないのかい?」

 

 メドラが太い腕を組んでリカルドの背後に立つ。

 前面にルシア、背後にメドラ。

 普通の人間なら失神してもおかしくないような状況だな。「重圧のサンドイッチやー」てなもんだ。

 

「はむまろ?」

「言ってねぇよ。今出てくんな。ややこしくなるから、な?」

「うんー!」

 

 何に反応したのか、ハム摩呂が俺のもとへやって来て、そして元気よく去っていった。

 ……あいつら、たまに人の心の声が聞こえてんじゃないかって反応するよな。

 

「白組は、他区からの助っ人が一番多いんだ。領主付きの給仕長が二人もいるし、ウチのマグダもいる。戦力が不足しているというなら、青組なんじゃないのかい?」

「いえ、メドラさん。ボクのチームにこれ以上筋肉は必要ないので」

 

 青組は、目立った選手こそいないものの、狩猟ギルドや牛飼いが多いせいで物凄いムキムキ率なのだ。ぱっと見で戦力不足には見えない。

 

「エステラが、自軍に俺を引き込みたいという気持ちはよく分かる」

「言ってないけどね、そんなこと。一言も」

「だが、運がなかったな。さっきの競技で俺に助けを求めたのは白組の普通っ娘だ。だから俺は、白組の助っ人をやる!」

 

 あれ、こいつもしかして……なかなか選んでもらえなくてちょっと傷付いていたのか?

 いや、まぁ……みんなが楽しそうにしている輪の中に入れてもらえないのは寂しいというか、悲しいというか、そういうのは分からんではないが……え? もしかしてリカルド、泣きそうだったの?

 

「普通っ娘! お前は実にいい働きをしたぞ! 胸を張るがいい!」

「お兄ちゃん、どうしようです!? なんかすごくぐいぐいくるです!?」

 

 懐かれちゃったなぁ、ロレッタ。

 よほど寂しかったんだな、こいつ…………子供か。自区でやりゃあいいだろうに……ったく。

 

「エステラ。もういいから混ぜてやろうぜ」

「ヤシロ……いいのかい? 君が一番嫌がりそうなのに。面倒くさいよ、リカルド?」

 

 まぁ、確かに面倒くさいんだが……

 

「なに。『素敵きやんアベニュー』の件もあるし、お隣さんとは仲良くしておいた方が何かと都合がいいだろう?」

「ふふん。さすがはオオバだ。外交というものをよく理解しているじゃないか」

 

 ……お前が外交を語るな。この、わがまま筋肉め。

 

「それにだ。ここであまりねばると、今度はゲラーシーあたりが『俺も混ぜろ』と言い出しかねない」

「うむ、ありそうな話だな」

「……想像に難くないね」

「二十九区の領主か……ったく、寂しがるんじゃねぇよ、いい大人が」

 

 と、ルシア、エステラ、リカルドがそれぞれに言う。

 いや、リカルド。お前が言うなよ。いいから一回鏡見てみろ。

 

「とにかく、他のチームから文句が出ないのであればウチで引き取るが、どうだ?」

「あたいらは別にいいぞ。そいつが来ると子供らが怯えるからな」

「ボクも異論はないよ。こちらに迷惑を掛けないならね」

 

 赤組青組ともに文句はないという。

 で、黄組はというと。

 

「どうするんだい、パウラ。チームリーダーのあんたが決めな」

「え? あたしが…………ん~、じゃあ、別にいいかな? メドラさんがいれば負けないだろうし」

「まぁ、そうだね! リカルドの一人や二人、アタシが軽くしてやるよ!」

 

 というわけで、全チーム異論がなかったのでリカルドが白組に加入することになった。

 

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