あっという間に噂は広まり、街はまた蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。
「イメルダさん、見つけた! みんなー、いたわよ、イメルダさん!」
「よかった! あのね、私たちイメルダさんにお願いがあるの!」
「「「メイクを教えてください!」」」
「いえ、あの、ワタクシ、今お食事中で……」
「「「「「「お願いシャッス!」」」」」」
「え~っと…………ヤシロさん」
「俺に言わないでくれ……」
まさか、こんなに女子たちの目が血走る事態になるとは想像もつかなかったんだ……
「仕方ありませんわね。ウチにお越しくださいまし」
「「「「「「あざーーーーーっす!」」」」」」
「まずはその口調をなんとかなさいましっ!」
『綺麗』に飢えた女子たちを引き連れて、イメルダが陽だまり亭を出ていく。
入れ替わりに、甲冑姿のノーマが店に入ってきた。……甲冑!?
「見ておくれな、ヤシロ!」
「……何事だ、ノーマ?」
「このドレスはね――」
「え、待って……ドレス?」
「ドレスさね」
いや、甲冑じゃね?
全身メタリックなんですけど?
歩く度に「かしゃん、かしゃん」いってるんですけど?
「真上から光が当たると、アタシの周りに花の妖精の影がばっと広がるシャドーアートドレスなんさよ! ロマンチックだろぅ?」
「妖精に囲まれてるのが全身メタリックじゃなきゃな……」
シャドーアートの数を増やそうとした結果、肌の露出はなくなり、顏すら覆い隠されている。
まさに甲冑だ。
「アタシ、これでミスコンに出場しようと思ってるんだけど、ダメかぃね?」
「顏すら見えねぇじゃねぇか。ダメだよ、そんなもん」
谷間も見えないし、太ももも見えてない。
「いつもの格好の方が何千倍も魅力的だ」
「そっ、……そんなに、かぃ?」
「あぁ。ノーマは素顔、素肌、素っ裸が一番魅力的なんだから」
「じゃ、じゃあ、アタシ、素っ裸で参加するさね!」
「待ってですノーマさん! そこまで行くと『チョロい』を通り越してただの『アホの娘』です!」
ロレッタの余計な進言により、『そこそこオシャレして』大会に臨むことにしたらしいノーマ。素っ裸は却下となった。
「ヤシロ~、ちょっと時間いいか?」
ノーマが出て行って間もなく、今度はデリアがやって来た。
こいつも、ミスコンの対策でも講じに来たのだろうか。
「今晩、夜釣りどうだ? ほら、前に約束しただろう?」
「ミスコンの話じゃないのかよ!?」
「ミスコン? あぁ、なんか女たちが盛り上がってるよなぁ、最近」
興味なさそうな顔で、俺の前の席に腰掛けるデリア。
視線が壁のメニューに向けられる。その中でもデザートの辺りに。
「綺麗さとか可愛さとか競うんだろ、アレ? あたいが出ても意味ないもんなぁ」
「そんなことないだろう」
「…………え?」
マッスル部門もあるし。
いや、あるんだよ、マッスル部門。戦う女子が多いからな、この街は。特に四十一区主催ってことでマッスル部門には殊更力が入っているようだ。
まぁ、そこじゃないにしたって。
「デリアは可愛いから、いい線行くんじゃないか?」
「かゎっ!? …………可愛い、のか? あたい? ヤシロは、可愛いと思うのか!?」
「おう」
一見すれば怖そうに見えるデリア。デカいし、目つきは鋭いし、何より鋼の肉体を惜しみなく見せつけてくるし。
しかし、一言二言言葉を交わせば、デリアの中に悪意がないことはすぐに分かる。というか、こいつの純粋さが少女並みだってことがな。
そうやって見ると、デリアの言動は可愛らしいものが多い。
ついついデザートに目が行ってしまうところとか、ちょっと褒められるとすごく嬉しそうに目をきらきら輝かせるところとか。
「デリアは可愛いし、オシャレをすれば美人にだってなれると思うぞ」
「マグダより可愛いか!?」
「お前は……常に強敵に挑まないと気が済まない性質なのか?」
可愛いカテゴリーでマグダに挑むって……ゲームスタート直後にラストダンジョンに挑む並みのチャレンジャー精神だな。
「ヤシロ、ごめん! 夜釣りはまた今度な! あたい、ちょっとミリィのところに行ってくる!」
「なんでミリィ!?」
「こういうのは、親友に相談するもんだろ! じゃあな!」
親友、だったのか。
デリアのヤツ、マジでマグダと張り合う気なんだな、ミリィにアドバイスを求めるってことは。
ちゃんと自分に合ったステージで勝負すればいい線行くのは確実なんだが…………あと一歩のところで残念な娘だからな、デリアも。
「みなさん、楽しそうですね」
「うふふ」と笑って、開けっ放しのドアを見つめるジネット。
閉めに行かなきゃなぁと思っていると、マグダがすすすっと近付いてドアを閉めた。さすが、よく見てる。
「ヤシロさんは、当日どうされるんですか?」
「『強制参加だ』ってエステラに言われてるからなぁ。たぶん、審査員とかやらされんじゃないかな?」
「そうなんですか」
「ジネット。ビキニを着て参加すれば高得点をつけてやるぞ」
「身内贔屓はダメですよ。公平に、公正にお願いします」
「公平に、巨乳ビキニには高得点をつける予定だ!」
「もう……、ダメですよ」
料理美人コンテストがあるので、ジネットも参加する予定だ。
もっとも、ジネットの場合は優勝を目指すというより、そういう場所で料理がしてみたいという感覚なのだろうけどな。
「裸エプロンなら間違いなく優勝――」
「ヤシロさん。……めっ」
怒られた。
まぁ、そうだよな。裸エプロンは自宅でやるべきものだしな。うんうん。
「料理美人コンテストなら、絶対店長さんが優勝です! 間違いなしです!」
「いえ、そんなことないですよ。オシナさんも参加されるそうですし」
オシナかぁ……
四十一区のオーガニックな食事処『サワーブ』の店長にして、無限の色香を全身に纏うはんなり美魔女オシナ。
あいつは手強い相手だな。
料理の腕はもちろんのこと、人好きする笑顔も、ジネットと種類は違えど勝るとも劣らない。好みの差というところだ。
ただし、オシナにはジネットにはない大人の魅力がある。有り余っている。あふれ出している。
審査員の年齢によっては、ジネットは相当な苦戦を強いられるだろう。
オシナは手強い……おっぱいこそCカップだが……
「ジネット。やっぱりビキニで――」
「懺悔してください」
その最強の武器を使わずにあの強敵に立ち向かうつもりなのか!?
危険過ぎる!
もっとおっぱいをさらけ出せ!
……そっちの方が危険じゃねぇーか!?
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