異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

34話 海漁ギルドとの取引 -1-

公開日時: 2020年11月2日(月) 20:01
文字数:2,584

「あ……ども…………あの……海漁ギルドの副ギルド長の……キャルビン、です……」

 

 陽だまり亭のドアをくぐり、俺たち全員の期待を裏切って登場した緑のヌメヌメヤロウは、キャルビンと名乗った。

 

「半魚人だな」

「いえ……人魚、です……これでも…………なんか、すいません」

 

「よぉ! キャルビン! 相変わらずヌメヌメしてんなぁ」

「今日もマーシャの運搬かい? ご苦労なことだね」

「あぁ、……これはこれは…………デリア様に……エステラ様…………ご無沙汰を、しており、ます……なんか、すいません……」

「謝んなよ」

「謝らなくていいよ」

 

 デリアとエステラがキャルビンと会話を交わしている。

 

「お前ら、この『動くワカメ』みたいな半魚人と知り合いなのか?」

「キャルビンは人魚だぞ、ヤシロ」

「キャルビンは人魚だよ、ヤシロ」

 

 ユニゾンで指摘された。

 でも、俺の知ってる人魚とは似ても似つかないんですが……肌の感じが完全にワカメなんですが……これは俺が納得しなければいけないことなのか?

 

「あの……なんか、すいません……」

 

 半魚人に謝られた。

 悪い半魚人ではなさそうだ。

 

「実は……表の水槽にマーシャ様をお待たせしておりまして……どなたか、手を貸していただけると助かるのですが……なんか、すいません……」

「んじゃ、あたいが行ってやるよ」

 

 デリアが言って、キャルビンと連れ立って外へと出て行く。

 その途端。

 

「きゃー! なに、デリアちゃん!? 可愛い! え、なに!? こんな格好で働いてるの!? やだ、可愛い~!」

 

 外から、スゲェきゃぴきゃぴした声が聞こえてきた。

 ……なんか、うるさそうなヤツだな。

 この世界の人魚が、日本で言うところの半魚人だったこともあり……もう全然期待が持てない。ホタテ貝とかつけて出てきたら殴ってやる。「お前じゃない!」ってな。

 

「ヤシロ……」

 

 どんなバケモノが入店してくるのかと、ハラハラした目で入り口を眺める俺に、エステラが冷ややかな視線を向けてくる。

 

「……羽目を外さないようにね」

 

 ……お前な。緑のヌメヌメした女を見て、俺が羽目を外すわけないだろう?

 

「ネフェリーのことも随分とお気に入りみたいだしさ」

 

 誰があんなニワトリ顔をっ!?

 あいつを見ていて心が和むのは、小学校の頃校庭で飼っていたニワトリのキンジローを思い出すからだ。俺は飼育委員だったからな。

 

「こら、暴れるな! この服借り物なんだからな! あんまり濡らすなよ」

「わ~い! お姫様抱っこだぁ~!」

 

 店先がやたらと賑やかだ。

 ……ジネットの制服、すぐ洗濯しなきゃヌメヌメが取れなくなりそうだな。

 

「ヤシロ~! そこの椅子、あけてくれ~!」

 

 首だけを覗かせて、ドアの向こうからデリアが言う。

 こんな奥の席に座らせなくても、手前の方の席に座ればいいのに。……ヌメヌメを掃除する手間が省けるから。

 

 とはいえ、海漁ギルドのギルド長だ。ここは丁重にもてなすべきだろう。

 取引のためにもな。

 なんとか、海魚を少量でも手に入れたい。

 定食には出来ないかもしれんが、高級食材は取り扱っておきたいのだ。いざという時のためにもな。

 売れ残ったら俺が食うから問題ない。

 

 俺はゆっくりと椅子を引き、エレガントな手つきで「こちらへどうぞ」と誘導する。

 

「んじゃ行くぞ」

「わほほ~い!」

 

 頭のネジが緩んでいそうな声を上げる人魚がその姿を現す。

 デリアにお姫様抱っこされて、まるで空中を泳ぐように優雅に入店するその姿に、俺は思わず息をのんだ。

 

 そこにいたのは、まさに絵本に出てくる人魚そのものだった。

 下半身は魚で、腰から上は人間。しかも、とびっきりの美女だ。

 おっとりとした垂れ目の脇には泣きボクロがあり、気だるげな表情は妖艶さをいかんなく発揮している。ゆるくカーブした口元は甘えん坊のようにすぼめられ、大人の色気の中に少女の可愛らしさを垣間見せる。

 しなやかなウェストのラインから視線を上げていくと、頬ずりしたくなるようなお腹……そして、指を埋めればのみ込まれてしまうであろう柔らかそうなオパーイ。爆乳だ。京都の水菓子のようなぷるぷるとした質感は見る者に幸福な気持ちを与えてくれる。

 清楚な気品を感じさせつつも、その迫力はキングサイズ。

 そんな暴れん坊バストがたった二枚のホタテガイに覆われている。左右に一枚ずつ、もちろんホタテガイなどではそのすべてを隠すなんて不可能だ!

 横から下から谷間から、豊かな乳房が顔を覗かせている。

 

「あ~、エステラだぁ~!」

「マーシャ……」

 

 デリアの腕に抱かれた人魚・マーシャはエステラを見つけるとひらひらと可愛らしく手を振った。

 

「君はまた、こんな内陸にまで遊びに来て……少しは人魚としての自覚を持って……」

「だってぇ、デリアちゃんが面白いことしてるって言うからぁ~、見たかったんだも~ん」

 

 舌足らずで鼻にかかった、聞く者の脳みそをとろけさせてしまうような甘い声だ。

 そういえばエステラは許可を取って海で魚を捕ったりしていたっけな。海で魚を捕るには漁師の知り合いが必要だろう。船に乗ったり、道具を借りたりな。

 そういう知り合いがいるようなことも、前にチラッと言っていたな。

 

「なぁ、エステラ。じゃあこの人が、お前の言ってた?」

 

 俺の問いかけに、エステラはあからさまに嫌そうな顔をしつつも、ゆっくりと頷いた。

 

「そうだよ。ボクの友人で海漁ギルドのギルド長、マーシャだ」

「なぜもっと早くこのおっぱいを紹介しなかった!?」

「そういう反応が目に見えていたからだよっ!」

 

 くっそぉ、エステラめ!

 おっぱいの独占は許されざる罪なんだぞ!?

 日本だと一発で実刑を喰らうレベルだ。

 

「すまん、ジネット! ちょっといいか!?」

「え、は、はいっ!? なんでしょうか?」

「薄着になって隣に並んでみてくれ!」

「お断りします!」

「俺のいた国の伝統で『乳くらべ』というものがあってだな……!」

「懺悔してくださいっ!」

 

 くそ、なぜだ!?

 ほんのちょっと横に並んでもらうだけでいいのに!

 それを側面から眺めたいだけなのに!

 

「いいから、少しは落ち着きなよ、ヤシロ」

「ほんの一目でいいんだ! こんなに大きいのが揃うことなんてそうそうないんだから!」

「……刺すよ?」

「あぁ……なんだか急に目が覚めた気分だよ、エステラ君。さぁ、その短刀を納めたまえ」

 

 首筋にナイフを突きつけられてはもはや逆らえない。

 ……こいつの素早さはもはや暗殺者レベルなんじゃないか? そういう家系なのか? エステラ……恐ろしい子!

 

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