「大体、大通りはイベントを誘致しなくても繁盛してんだろ?」
「……街道が出来てから、客足、減ったもん」
おぉ……っと。
マジか?
え、それって俺のせい?
そういえばパウラ、ここ最近結構頻繁に手伝いに来てくれるようになったよなぁ……以前は忙しくて店から離れられなかったのに。…………えぇ、マジか。
「あ~……じゃあ、仮装パレードとかヨサコイ的な何かでもやるか、そのうち」
「何それ!? 詳しく聞かせて!」
うわぁ……食いついちゃった。
「仮装パレードってのはな……俺の故郷にはハロウィンってイベントがあってな、モンスターに仮装した子供が『オヤツくれないとイタズラするぞ!』って大人を脅してオヤツを奪い取る遊びがあるんだ」
「かっ、可愛いですね、それ!」
脅されてみたい感満載で、ジネットが瞳をきらきらさせている。
「うむ! お菓子もあげたいし、イタズラもされたい!」
「あら、見ず知らずの変質者が紛れ込んでいますわね。通報いたしましょうかしら」
ハビエルが危ない笑みを浮かべ、イメルダが危ない冷笑を浮かべる。
イメルダの『危ない』は、『とある特定の人物の命が』って枕詞が付くけどな。
ハビエルは、領主会談の結果を聞くために昨日のうちにイメルダのところに来て、そのまま泊まったらしい。
だからって、ここにまで参加しなくていいのに。
「ねぇ、ヤシロ。それって大人は参加できないの?」
パウラがマジだ。
マジで仮装パレードを取り入れようとしている。
「むしろ、大人の方がノリノリで仮装してたぞ。本格派から、可愛らしさ重視、面白さ重視と、個性溢れる仮装をみんなでして街を練り歩くんだ」
「練り歩いて、どうするんだい?」
エステラも興味を引かれたようだ。
お前が仮装するなら、ぴったりの妖怪を紹介してやるからな。
なぁ~に、その妖怪を知らなくても、お前ならなりきれるさ――『ぬりかべ』に。
「ふざけた格好して、みんなで一緒になってはしゃぐのは楽しいじゃねぇか」
「楽しい……かな?」
「普段着ないような服を着たら、誰かに見せたくならないか?」
「あぁ……そんな感じなんだね。うん。なんとなく理解したよ」
エステラにもそんな経験があるのか、くすぐったそうな笑みを漏らして頷いていた。
ただまぁ、街中を巻き込んでのハロウィン大会なんかやろうものなら……ウクリネスが過労死するだろうけどな。
「あらあら、私を心配してくれているんですか、ヤシロちゃん。優しいですねぇ」
俺の視線の意味を汲み取ったのか、「今度のイベントではどんな服を作ればいいんです?」と、鼻息荒くミーティングに参加していたウクリネスがニコニコと微笑む。
こいつも、何かある度に服を作ってくれて、大いに助かってはいるんだが……いろいろ教え過ぎて、この街の文化を浸食してんじゃないかと怖くなる時があるんだよな。
「私なら大丈夫ですよ。ハムっ子のお姉ちゃん組たちが仕事を手伝ってくれるようになりましたからね」
「あいつら、裁縫まで始めたのか!?」
「年長組の妹がウクリネスさんに鍛えられて覚えたです。小さい妹たちの間ではあこがれの職業の一つです」
いつの間にか仕事先が増えていた。
ハムっ子、マジで四十二区に欠かせない存在になっちまったよな。
「で、で!? ヨサコイって!?」
尻尾ぶんぶん、テンションマックスのパウラ。
ヨサコイを正確に説明するのは骨が折れるな……伝統とかルーツとか…………まぁ、ざっくりでいいか。
「十人から数十人でチームを作って、踊りながらパレードするんだよ。一糸乱れぬ団体の踊りは壮観なんだ。見物客は大いに盛り上がるぞ」
「踊りかぁ……うん! 確かに楽しそう!」
「ちょっと、ヤシロ!」
ぱっと笑顔を咲かせるパウラを押しのけて、ネフェリーが泣きそうな顔で俺に詰め寄ってくる。
なんでそんな必死に……!?
「パウラばっかりズルい! 私も……東側にも何か考えてよぉ!」
なんで俺が……
「…………くすん」
…………あぁ、もう。
「分かった。ちょっと考えてみるから、泣くな」
「ほんと? わぁ、嬉しい!」
……卑怯な技を使いやがって。
「……むぅ。ヤシロはやはり」
「ネフェリーさんには妙に優しいです」
え、なんで?
なんでネフェリーの時だけそういう意見が出てくるの?
お前らの中の先入観のせいなんじゃねぇの? なぁ、マグダ、ロレッタ?
パウラにもめっちゃアドバイスしたじゃん、俺。
「東側っていうと……レジーナとウェンディがいるから…………お化け屋敷でもやれば?」
ウェンディも、最初は幽霊疑惑あったし。
レジーナはもう半分妖怪だし。
あ、もしお化け屋敷やるなら、エステラには打ってつけの妖怪を紹介してやろう。
エステラなら、見事に演じきってくれるはずだ。『ぬりかべ』を!
「ねぇ、ヤシロ。さっきから何回か殴りたくなってるんだけど……心当たり、ない?」
「ノーコメントで」
どうせなら、殴る時に「ぬり~」って言ってくれると雰囲気出るんだけどな。
「……どうせ、東側は地味だもん……気にしてるのに……ヤシロの……ばかっ」
あ、ネフェリーがいじけた。
なんか、めっちゃ俺が悪者扱いされてんだけど……
「おぉい、あんちゃん! ネフェリーさんを泣かせるとはどーゆー了見だぁ! 返答次第じゃ、あっつあつに熱したどろどろの砂糖を頭からぶっかけっぞ、マジで!?」
「やめろ! 大火傷じゃ済まねぇから、それ!」
熱で溶けた砂糖はシャレにならない。
ヤツはとても熱く、そしてくっついたら離れないのだ。
キャラメリゼで何度火傷をしたことか……つか、お前はマジで呼んでねぇぞ、パーシー。
「ウチらがおる東側やさかいに……セクシ~なイベントにしてみたらどないやろ?」
「セクシーほこり展かい?」
「……引きこもりセクシー対決」
「セクシー独りしりとり大会です!」
「領主はんも虎の娘はんも普通はんも、冗談キツいなぁ」
「「「え、違うの?」」」
「なるほど~、本気やったんやねぇ。ウチ、街の人らぁによぉ理解されてて嬉しいわ~」
レジーナは、ネガティブぶった最強ポジティブだからな。
その程度ではへこたれない。むしろ「おいしい」と思ってしまう残念な人種なのだ。
本気でセクシーを目指せば、そこそこいい線行きそうなんだけどな、レジーナも。
……スク水とか、ブルマとか、マニアックなセクシーさに走りそうだな、こいつの場合。
…………ブルマ、か。
「じゃあ、区民運動会でもしてみるか」
東側には牧場などが多くあり、土地はたくさん余っている。
水害の際に行った水を逃がすための貯水池拡張も、有り余る土地のおかげでやりやすかった。
運動会をするには打ってつけだろう。
「運動会ってなに? なんだか、すごく楽しそうな言葉ね」
ネフェリーの機嫌が戻ってきた。
そうか。こっちの連中は学校に通ってないから運動会なんか知らないんだ。
そんなことをしている暇もなかったろうしな。
「区画ごとにチーム分けして、いくつかの競技で点数を競い合うんだ」
「区画って、東西と中央で三つ?」
その分け方だと……
西にはマグダとデリア。
中央にはノーマとパウラ。
東にはネフェリーとエステラ、それにナタリアか。
パワーバランスはそこまで悪くないか。
「中央が不利じゃない、それ?」
「そんなことないさね。中央にはアタシと金物ギルドがいるさね。養鶏場ごときに後れを取ることはないさね」
「むぅ! 確かに私は、そこまで運動が得意じゃないけど……でも、東には狩猟ギルドがいるからね! 負けないわよ!」
「それに東といえばボクたちの館もある。ボクのところの給仕たちも、運動神経にはちょっと自信があるからね、いい勝負になると思うよ。ね、ナタリア」
「はい。私自らが鍛えておりますので」
「はっはっはーっ! 甘いぞ、お前たち! あたいたち川漁ギルドがいる西が最強だ!」
「木こりギルドもおりますわよ」
「ウチの弟妹も加勢するです!」
「「西はズルいので、勢力を分散するように!」」
「なんでだよぉ!?」
「理不尽です!」
なんだかんだと賑やかに、新しいイベントに興味津々な一同。
……この中のいくつくらい、俺の不参加が許されるのだろうか。全部に出るとか、しんど過ぎるんだが。
「ヤシロさんは、本当に、みなさんを楽しませる天才ですね」
「既成事実作るのやめてくれる?」
くすくすと笑うジネット。
こいつは最近、俺の不幸を喜ぶようになってきた。
俺が面倒に巻き込まれる度に嬉しそうな顔しやがって。よくない傾向だ。
「それよりもヤシロさん、『宴in四十二区』の話を進めないと、準備が終わらないッスよ」
「うわぁ、ウーマロが正論吐いたぁ……」
「なんでそんな顔するんッスか!?」
「反論の余地がないこと言うなよぉ」
「いやいや、しかしながら。拙者も、ウーマロ氏に賛成でござる。本音を言えば、すぐにでも通路の仕上げ作業に戻りたいでござる故、別件の話はまたの機会にしてほしいでござる」
「黙れベッコ、正論を吐くなんざ十年早いんだよ、メガネを叩き割るぞ」
「明らかに扱いがウーマロ氏よりも下でござる!? これは、是が非でも活躍して拙者の重要度を上げる必要があるでござるな!」
ベッコが妙な意欲に燃え始める。
確かに、通路を完成させるのが最優先だからな。
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