異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

Extra~救い~ヤシロが示した生きる道

公開日時: 2022年6月13日(月) 20:01
文字数:7,172

 裁判当日。

 エステラのもとへ届けられたのは、『裁判は滞りなく執り行われるであろう』という、エステラの出廷を拒む通知だった。

 

「どういうことなんだろうね」

 

 昨日一日、裁判所での立ち回りを懸命にシミュレーションしていたエステラは、盛大な肩すかしを食らった格好だ。

 

「提出した書類に不備がなく完璧だったから、もう聞くことないんじゃねぇか?」

「そんなわけないだろう」

 

 俺の予測に、エステラは不服顔だ。

 

 ……本当に分かってないわけではないだろうに。

 分かったよ。じゃあわざわざ言葉にして聞かせてやるよ。

 

「ウィシャートの話を聞かれるとマズい『偉いさん』がいるんだろ」

「……やっぱり、そうだよね」

 

 裁判などを開いてウィシャートに尋問をすれば、その口から一体どんな爆弾がもたらされるか分かったもんじゃない。

 もしかしたら、その場にいる裁判官や陪審員の中にも、ウィシャートの『ご贔屓さん』がいたかもしれない。

 

「会話を聞いたすべての人間の『会話記録カンバセーション・レコード』に過去の悪事の暴露話が記載されたら、もう一生揉み消せないからな。なら、最初からヤバい橋は渡らないってのが『お偉い貴族様』の出した答えなんだろ」

「ん~……その通りなんだろうけど……なんか、釈然としないなぁ」

 

 エステラは、相当裁判に出たかったようだ。

 意気込んでいたからなぁ。晴れ舞台を潰されたような気にでもなっているのだろうか。

 

「だって、ボクがお金出したんだよ? なんでボクが除け者なのさ!」

「……そこかよ」

「そこが重要なんだよ! 高かったんだよ、申請用紙と手数料! ボクの初めての裁判が、こんな形で終わるなんてさぁ……」

「なら、『統括裁判所の裁判なんてもんはこんなもんだ』ってことが分かってよかったと思うしかないだろうな。高い授業料だったな」

「むぅ……。まぁ、通知には『四十二区の要望はなるべく汲み取る所存である』って書いてあったから、信じて結果を待つよ」

 

 裁判には呼ばず、それでもこちらの要望はなるべく汲み取るなんて――

 

 

 

『便宜を図ってやるから、これ以上はもう首を突っ込むな』

 

 

 

 ――って警告にしか聞こえねぇっつーの。

 

「四十二区の要望が飲まれるなら、三十区の領主交代や、領主の館の建て替えもスムーズに行われるってことか」

「それはどうだろうね? それを決めるのは国王様だから。統括裁判所は口添えする程度じゃないかな」

「さっさと決断しないと国が荒れるぞって、ケツをぱたいてこいよ」

「出来るわけないだろう!?」

 

 俺の発言に、エステラがきょろきょろと辺りを見渡す。

 誰もいるわけないだろう。

 ここはお前の執務室だぞ?

 しかも早朝だ。

 

 ……なんでそんなとこに男を入れてんだっつー話なんだけどな。

 お前、『醜聞』って言葉聞いたことない?

 

 

「……なんか、裁判に行かずに済んでよかったって気になってきたよ。君を連れて行くと、いつ不敬発言が飛び出すか分かったもんじゃない」

「王族の前に連れて行っても大丈夫だぞ。王女様に『よっ、ナイスおっぱい!』って気遣いもちゃんと出来る」

「それのどこが気遣いさ!? 不敬だよ! 不敬の見本市だね、君は!」

 

 エステラがげんなりとした顔でため息を吐く。

 

「気分を変えて、今日はゆっくりするんだな。どうせ昨日、ほとんど寝てないんだろ?」

「……分かる?」

「プレッシャーに弱そうだもんな、お前」

「ホント……胸が潰れる思……いや、待って。今の発言無し!」

「本当だ!? 一大事だ!」

「取り消したじゃないか! 絶対言われると思ったよ!」

 

 口をへの字に曲げて、統括裁判所からの通達を投げつけてくるエステラ。

 ぞんざいに扱うなよ。

 これも高い紙なんだろ?

 文字のとこだけうす~く削り取ったら再利用できるかもしれないだろうに。

 

「気になることが一点あってね」

 

 言って、エステラが通達の中の一文を指さす。

 

「ウィシャート家の敷地内でグレイゴンを拘束したって。……何を企んでたと思う?」

「さぁな。逆恨みが限界突破して捨て身の突撃でもかましたんじゃないか?」

「単身で乗り込むなんて無謀過ぎるだろう? 統括裁判所に告訴したってことは、一般に向けても公表したのに…………え、まさかそれで?」

「チャンスだと思っちゃったのかもな」

「あり得ない……けど、あり得そう…………」

 

 本来、統括裁判所へ告訴すると、被告や被疑者の身柄は統括裁判所の管理下に置かれる。

 たとえ自区の牢屋に閉じ込めていようと、統括裁判所の管轄となり、貴族だろうと王族だろうと被疑者を害したり逃がしたりということが出来なくなる。

 違反すれば即拘束、の後、極刑だ。

 

 それがこの街の法なのだ。

 

 ……ま、貴族や王族には『お目こぼし』がぼろぼろありそうだけどな。

 

 

「敷地内で拘束したって書いてあるけど、抜け道の鍵は全部付け替えたし、一体どこから入ったんだろう?」

「知るか」

「もしかして、ボクたちが見つけられなかった秘密の通路がまだあったのかな?」

「…………かもな」

 

 エステラには、地下牢の抜け道のことを教えていない。

 あの抜け道を知っているのは、ウィシャートの関係者を除けば、俺とノルベールとゴッフレードだけだ。

 ノルベールとゴッフレードは、もう二度とこの街にはやって来ない。

 つまり、俺さえ口を閉ざせばその存在をこいつらが知ることは一生ない。

 

 知らなくていいことは、人生の中で割とたくさんある。

 そんなことよりも、もっと有意義なものに頭の容量を割くべきだからな。

 

「案外、近くにいたからついでに捕らえただけかもしれねぇぞ」

「統括裁判所がかい?」

「ウィシャートと裏で繋がっていたんだから、いろいろマズいことも知っちゃってるだろうし……封じる口は一つでも多い方が安心じゃねぇか」

「……くっ、否定しきれない自分が悔しいよ」


 もしくは、どうしても見逃せない『何か』があったか、だな。

 

「ん~、でも、なんか引っかかるんだよなぁ~」

「答えの出ないことをぐだぐだ考えるくらいなら、港にでも顔を出してやれよ。領主様直々の激励なんて、大工どもが泣いて喜ぶぞ」

「えぇ……最近、普通にイジられてるんだけど、ボク?」

「乳を?」

「それを面と向かってボクに言う男は君だけだよ!」

「じゃあ、どんなことでイジられてんだよ?」

「そ、それは…………だから、その……『ルシアさんに負けるな~』とか……と、とにかく、くだらないことでだよ!」

 

 頬を姫リンゴみたいに赤くしてぷっくりと膨らませる。

 色白なエステラには朱色がよく映える。

 

 ……そうやって素直に照れたりするからイジられるんだっつの。

 醜聞が留まるところを知らねぇな、お前は。

 お前とルシアは、もうデミリーやドニスばりに器のデカい男でなきゃ結婚相手が務まらねぇぞ。

 過去の醜聞を笑って流せるくらいの度量がないとな。

 

「エステラ。頭皮は好きか?」

「オジ様に失礼な発言は控えるように」

 

 なんの話とも言ってないのに『頭皮』だけでデミリーのことだと決めつけるお前もなかなか失礼だぞ?

 俺は、半分はドニスのことだったけど、エステラは100%混じりっけなしのデミリーだったよな?

 

「でも、そうだね。折角天気もいいんだし、港の工事を見学に行こうかな。いよいよ明日だもんね、完成」

 

 ウーマロたちの頑張りによって、ついに港が完成する。

 今日一日、最終チェックと細かい補修を行い、明日、船着き場に最後のレンガを埋め込めば港は完成する。

 

 着想から考えると、随分と長かった。

 

 魔獣が跋扈する森に囲まれた四十二区に港が出来るだなんて、二年前――いや、一年前にだって誰が考えられただろうか。

 絶対実現させてやると思っていたのは、俺とマーシャくらいじゃないか?

 で、ウーマロあたりは「あ~。きっといつかやらされるんだろうなぁ~」くらいの心構えはしていたに違いない。

 

「ボクはずっと信じていたからね」

「ん?」

「君が言い出した時からさ、『四十二区に港は絶対出来る』って」

「……そうかい」

「うん。ヤシロとウーマロがなんとかしてくれるだろうな~って」

「この他力本願領主」

「指示を出すまでがボクの仕事だからね。現場はウーマロに任せるし、計画は『有能な参謀』に任せるのが当然だろう?」

「言ってろ……」

 

 エステラの顔に笑顔が戻った。

 朝からもやもやと思い悩んでいたことは、ある程度すっきりと整理できたようだ。

 

「それじゃあ、ジネットちゃんを誘って港に行ってみるかい?」

「残念ながら、陽だまり亭は現在、にぎり寿司と軍艦巻きの猛特訓中だ。どいつもこいつも遊んでるヒマはねぇよ」

「君はいいのかい?」

「ま、裁判があるはずだったからな。俺は免除だ」

「でもなくなったよ?」

「マグダとロレッタが、俺が帰るまでに完璧にマスターしてみせるって意気込んでたからよぉ」

「それじゃあ、あまり早く帰ると可哀想だね。マグダたちに嘘を吐かせるわけにはいかないし」

 

 それでも裁判がなくなったことは伝えておいた方がいいだろう。

 その上で、いろいろと仕事を片付けてから帰ると言っておこう。

 ついでに「練習の成果を期待している」とも。

 

「ナタリアー!」

「お呼びですか、エステラ様」

 

 エステラが声をかけると、すぐさまナタリアが執務室へと入ってくる。

 

「これから港を見てくるよ」

「ご一緒いたしましょう」

「でも、明日のイベントの準備は?」

「そんなものはとうの昔に、です」

 

 港の工事が完成する日はもう分かっていた。

 デキる給仕長のナタリアは、ウィシャートぶっ潰し計画と同時進行で港の完成記念イベントの準備も抜かりなく進めていたようだ。

 

「さすがだな」

「お褒めにあずかり光栄です。ご褒美をください」

「……そういうとこを直せば完璧だと、ボクも称賛してあげるんだけどね」

 

 ふわりとスカートの裾を舞い上がらせてターンを決めつつおねだりを寄越してくるナタリア。

 ご褒美か……ふむ。

 

「ヤシロ。今、とっても美味しい料理を考えていたのかもしれないけど……それを公表すると、ジネットちゃん、倒れない?」

「……寝込むかもな」

 

 ただでさえ、今はにぎり寿司でいっぱいいっぱいなのだ。

 もう少し間隔をあけた方が賢明か。

 

「じゃあ、また今度だな」

「時にさ、ヤシロ」

 

 すすすっと、エステラが寄ってきて耳打ちをする。

 

「その料理、ここだけでこっそり先行発表とか、出来ないかな?」

「お前はどうしてそう、しょーもないところでばっかり狡賢いんだよ」

 

 こすいなぁ、この区の領主は。

 もっとどーんと利益になるような時に発揮しろよ、狡賢さは。

 なんだよ、「誰より先に食べたい」って。子供か。

 

「今回、ボクもナタリアもすごく頑張ったと思う!」

「珍しくエステラ様と意見が合いました。私も同意です!」

「そこが珍しいのはダメだろ、そこの面白主従」

 

 ぐいぐい来るなぁ……

 

「しょうーがねぇな」

「「やったぁー!」」

 

 面白主従が抱き合って喜声を上げる。

 じゃ~ちゃちゃ~っと厨房を借りて試しに作ってみるかな~っと思ったのだが……

 

「ここの厨房、道具なさ過ぎ」

 

 エステラがいっつもいっつも陽だまり亭で飯を食うため、この館の厨房はひじょ~にお粗末な状態になっていた。

 先代がいたころはきちんと料理人もいて、機材も食材も揃っていたらしいのだが……

 

「滅多に食べていただけない上に、たまに食べても『すーん』な表情で……料理人は泣きながら先代様の後を追って行ってしまったのです」

 

 と、涙ながらに現在の厨房担当(給仕兼任)が語ってくれた。

 ……エステラ、お前さぁ。もう少し思いやりとか配慮ってもんがさぁ。

 

「……どーせ、店長さんやヤシロ様には遠く及びませんし……『ないよりマシ』レベルの料理しか作れませんし!」

「悪かった! 今後はもう少しウチで食べるようにするから!」

「いえ、それはそれで困ります。もはや、当館に料理上手は一人もおりませんので」

「一人も!?」

「磨くだけ無駄なスキルですので」

「そんなことなくないかなぁ!?」

「給仕一同、エステラ様のお役に立てるスキルを最優先で磨いております」

「え、豊胸体操?」

「ヤシロ、うるさい」

「それは一通り」

「ちょっと、給仕たち集合! 主人として君たちに話がある!」

 

 エステラが呼びかけるが、厨房付近にいた給仕たちは『すーん』と、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 うん。ナタリアの躾が行き届いているな。

 

「じゃあ、あとで陽だまり亭で作ってやるよ」

「大丈夫かなぁ、ジネットちゃん」

「まぁ、明日のイベントが終われば、当分寿司を握る機会もないだろうしな」

「えっ!? 陽だまり亭のメニューに載らないの!?」

「手巻き寿司も載ってねぇだろうが」

「じゃあ、どうやったら食べられるのさ!?」

「港に寿司屋を作るんだろ? その完成を待てよ」

「ヤシロレベルになるのにどれだけかかるのさ!?」

 

 そんなもんは知らん。

 港の寿司屋は、四十二区と海漁ギルドの共同出資で建設される。

 職人の教育はそっちでしっかりとやってくれ。

 

「食べたくなったら、おねだりするからね」

「何か見返りを寄越せ」

「エステラ様のパンツですね? 承知しました」

「承知しないで! 了承しないから!」

 

 歩き出そうとするナタリアの腕をエステラががっしり捕まえる。

 

「ここにいると危険だ。もう港に行こう」

「あ、俺はその前に教会寄るから、先に行っててくれ」

「何か用事かい?」

「ベルティーナに言わなきゃいけないことがあってな」

「明日は待ちに待ったイベントだから、きっとうきうきしてるだろうね」

「……どうかねぇ」

 

 おそらくはそんなことはない。

 ないから、会いに行かないといけないのだ。

 

 

 

 エステラの館を出発して、陽だまり亭への事情説明はナタリアとエステラに行ってもらって、俺は一人で教会へ向かった。

 

 教会の前を、ベルティーナが竹箒で掃除していた。

 

「ベルティーナ」

「ヤシロさん」

 

 声をかければ、竹箒を置いて、俺の前へとやって来る。

 何かをしながら話を聞くということを、ベルティーナはしない。

 

 ……『食べながら』を除けば。

 

「今日はよいお天気ですね」

「あぁ。明日も晴れるって、ナタリアが言ってたぞ」

「それはよかったです。明日はみなさんが楽しみにされている日ですからね」

「お前は楽しみじゃないのか?」

「楽しみですよ。また美味しいお寿司をお願いしますね」

「あぁ」

 

 笑顔で交わす言葉はどこか軽く、その奥に拭いきれない屈託が感じられた。

 

「昨日はありがとうな。教会の代表として、行ってくれたんだろ?」

 

 ベルティーナは昨日、ウィシャートたちに『罪と向き合い償え』という説教をしに行ってくれた。

 目を逸らさず、前を向いて、生まれ変わったつもりで明日からを生きるようにと。

 

 それは、俺がヤツらにした最後の忠告と同じものであり、裁判の決定を報告しに行ってくれたイメルダが伝えた言葉でもある。

 

「私の言葉が、きちんと届いていればよいのですけれど……」

 

 おそらく、届いてはいない。

 どんなに素晴らしい言葉も、耳を塞いだ者には聞こえない。

 

 それでも、ベルティーナはヤツらに『機会』を与えに行った。

 もう一度やり直すためのチャンスを。

 

 それを棒に振ったのだとすれば、それは連中の選択だ。どのような結末になろうと自業自得。

 ベルティーナが思い悩む必要のないことだ。

 

「結果は裁判で出るさ」

「……そうですね。どうか、誰もが笑って過ごせる未来が訪れますように」

 

 ベルティーナは精霊神に祈りを捧げる。

 

 けれどきっと、精霊神は知っているのだろう。

 

 

 

 

 連中が辿ることになった、悲惨な結末を。

 

 

 

 

 俺は知っていた。

 あの地下牢に抜け道があることを。

 

 それを知った上で、連中に忠告をした。

 

 

「お前らご自慢の抜け道は、すべて把握している。もう逃げ出そうなんて考えずに裁判が始まるまで地下牢で大人しくしておくんだな。これが、俺から言える最後の忠告だ」

 

 

 そうすれば、お前らにも『生きる』道があるだろうと。

 

 だが、そうはならない。

 なるはずがない。

 

 それを知った上で、俺はエステラに提訴の要項を公示させた。

 一般人にも、貴族の耳にも、その内容がしっかりと伝わるように。

 

 裁判が行われれば、どのような証言が出てくるか――いまだ身を潜める当事者どもにもしっかりと伝わるように。

 

 そうなれば、スネに傷を持つ貴族が動き出すことを理解した上で。

 そんな貴族が動き出した後で、ウィシャートたちがまんまと逃げ出すであろうことを、十二分に理解した上で、だ。

 

 ウィシャートに恨みを抱き、虎視眈々とその首を狙っている誰かが、あの館のすぐそばに息を殺して潜んでいるかもしれないと知りながら……

 

 

 

「逃げ出さなければ、未来が開かれることもある」

 

 俺の呟きに、ベルティーナは微かに目を見張り、緩く、優しく微笑んだ。

 

「そうですね。本当に、その通りだと思います」

 

 俺の言葉を、最大限に良い解釈をして。

 

「それでも、ヤシロさんは『機会』を与えたいと思ったのでしょう? その先の選択は、やはりご本人の意思であると思います」

 

 胸の前で手を組み、まぶたを閉じてベルティーナは囁く。

 

 

「第三者たる我々は、幸せな未来へ足を踏み出してくださることを祈ることしか出来ません」

 

 

 そして、もう一度精霊神へ祈りを捧げる。

 

 

「どうか、誰の身にも、幸福な未来が訪れますように」

 

 

 

 その祈りは風に乗って空高く昇っていく。

 

 

 ベルティーナと一緒に見上げた空はとても青く澄んでいて――

 

 

 俺は勝手に救われたような気持ちになっていた。

 

 

「ヤシロさん。ありがとうございます」

 

 心当たりのない感謝にベルティーナの顔を見れば、屈託のない笑顔が向けられる。

 

「私の屈託を晴らしに来てくださったのでしょう?」

 

 それもある。

 あるが……

 

「……いや。ちょっと甘えたかっただけだ」

 

 きっと、それが俺の本心だろう。

 

「そうなんですか」

 

 

 言って、ベルティーナの手が俺の髪を撫でる。

 

「大歓迎です」

 

 

 

 

 

 俺はやっぱり悪党なのだろう。

 どこまで行っても、ジネットやベルティーナのような善人にはなれない。

 

 それでも……

 

 俺にしか出来ないことがあると思っている。

 

 いらないモノを排除する、スイーパーのような、役割が。

 

 

 俺は、そいつを存外『悪くない』と感じているらしいな。どうやら。

 

 

 

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート