「ネフェリーさん、二着おめでとうございます!」
「ありがとう、パーシー君。でも最後で抜けなかった」
「いや、むしろよくあそこまで追い上げたって感じですよ、マジで! いやぁ、輝いてたなぁネフェリーさん!」
「もう。大袈裟」
「(って、笑う顔もマジまぶぃぃいいい!)」
肝心なところが言葉になってないぞ、パーシー。
まぁ、顔を見れば何を考えているのかくらい一目瞭然だが。……ネフェリー以外には。
「なぁ、タヌキ。なんで褒めてんだよ? 一番じゃないんだろ? 負けてんじゃねぇか」
「ばっ!? バカか、あんた!」
空気を読まないバルバラを、パーシーが引き摺っていく。
「結果は二番でも、そこに至るまでの過程があんだろ!? 努力することって美しいじゃねぇか! オレは、その美しい努力こそを褒め称えたいんだよ! 結果とか、正直どーでもいーし!」
「いや、結果は必要だろ!?」
「一番結果を出したかったのはネフェリーさん自身だっつの! 悔しい思いしてるに決まってんだろ!? けどな、だからってネフェリーさんの努力が無駄だったってことにはならねーの、分かる!? うまくいかなかった時でも、ちゃんと見ててくれた人がいるって思えたら嬉しーべ、あんたも!」
「ん~……そんなもんかなぁ……」
「頑張った時に『頑張ったね』って言われたら誰だって嬉しいもんなんだよ! それこそ……こ、恋とか、始まっちゃったりするかもしれなくもないくらいにはな! なはは!」
「あ~。んじゃあ、あんたは恋を始めようとして努力してんのか」
「なっ!? ばっ、ち、ちげーし! そ、そそ、そんなんじゃねーし! ア、アドバイスだよ、あんたに対する! 恋、始めたいんだろ!?」
「なんだ! そうなのか! やっぱいいヤツだな、タヌキ!」
「そう思うなら名前くらい覚えろし! パーシーっつうの、オレ!」
「おう! 覚えたぞ、パーシー!」
ばっしばしとパーシーの背中を叩き、上機嫌のバルバラ。
その後、何を思ったのかネフェリーのもとへと駆けていく。
「ネフェリー! パーシーっていいヤツだぞ」
「う、うん。基本はね」
「恋のこと、すっげー詳しいんだ!」
「え……でも、恋人とかいない、よね?」
「恋人もいないのに恋に詳しいのか!? すっげぇ!」
「すごい……かな?」
「なんで恋人もいないんだろうな? いいヤツなのに」
「さ、さぁ……それを私に聞かれても」
パーシーが「あぁ! あんま余計なこと言うなし! 微妙なバランスが……でももうちょっといいヤツアピールはしてほしいし……あぁでも!?」みたいに面白い感じでハラハラしてる。
うん。やっぱり他人に押しつけると楽しいな、バルバラは。
自分の陣地にさえいなければ。
「あのまま、他所の子になってくれますように」
「……ヤシロ、神頼みをするなら教会の方を向くべき。そっちにいるのは店長だけ」
「ほら、俺、乳神信仰してるから」
「……ヤシロが、もう少しだけまともな人になりますように」
俺の隣で手を合わせるマグダ。
俺と同じ方向を向いている。ってことはやっぱり乳神様にお願いしてんじゃねぇか。
まぁ、ご利益があるかは分からんが、拝みたくなる衝動は湧いてくる。
「ヤシロさ~ん! マグダさ~ん! 頑張ってくださ~い!」
俺たちが手を合わせているのをどう捉えたのか、ジネットが大きく手を振って声援を寄越してくれる。
そう。いよいよ俺たちのレースが始まるのだ。
スタート地点に立つと、いつも思うことがある。
「このレースだけクラウチングスタートにしねぇ?」
「アホなこと言ってないでさっさと並ぶさね!」
ノーマに怒られた。
素晴らしいと、俺は褒めているのに。
いよいよ迎えた最終レース。
どこかでエステラが我慢できずに「ボク先に走る!」とか言い出さないかと粘ってみたのだが……やっぱり同じレースに出てきやがった。
ヤなヤツ。
「せめて揺れれば、幾分かは慰めにもなろうものを……」
「うるさいよ、ヤシロ」
「……ヤシロ。揺れないからこそ、レースに集中できると考えるべき」
「うるさいよ、マグダも!」
「こんなにくっついているのに当たらない。さすがです、エステラ様」
「一番うるさいのが隣にいたなぁ!」
「大丈夫と伝えたい、私は、微笑みの領主様に。さほど当たらない、ルシア様も」
「やかましいぞギルベルタ! エステラと一緒にするな!」
「わぁ、うるさいのしかいないなぁ、このレース!」
「ノーマちゃんも、なんか言って弄ってあげてネェ。黄組だけ置いてけぼりネェ」
「いいんさよ、こんなしょーもないものに関わらなくて」
「ノーマちゃん、おっぱい弄るのは嫌いなのネェ?」
「誤解を招くようなこと言うんじゃないさよ!?」
「じゃあおっぱい弄るの大好きネェ?」
「ごかぁーい! 招きまくってるさね!」
賑やかな面々がずらりと並ぶ。
ったく、こいつらは……
「おっぱいの話しか出来ないのか、お前ら」
「「「おいコラ、言い出しっぺ!」」」
なんか怒られた。
感じ悪ぅ~い。
というわけで、スタートラインには、エステラ&ナタリアペア、ノーマ&オシナペア、俺&マグダペア、ルシア&ギルベルタペアが並んでいる。
……両端がチートだろうが。反則だ、あんなもん。
「隣はふんわり&はんなりだからまだいいけども」
「誰の何がふんわりさね!?」
「ノーマのおっp……」
「言わなくていいさね!」
「いいや、言う! ノーマのおっぱい!」
「意志の強さをしょーもないところで見せつけるんじゃないさよ!」
胸を両腕で隠すノーマ。の隣でこっそり横乳を突っつくオシナ。
いいなぁ! 代わってほしいなぁ!
「……ヤシロ。マグダの横乳は見る限定。触るのは不可……今はまだ」
「そうかそうだな、まず乳に『横』が誕生しないことには触れないもんな」
「だそうです、エステラ様」
「うるさいって何回言わせる気だい、ナタリア!?」
「貴様ら、いい加減に口を閉じてやるのだ。給仕が領主に気を遣ってスタートの号令を掛けられずにおるではないか」
ルシアの指摘通り、給仕がエステラに気を遣って号令のタイミングを見計らっている。
たまには「黙れ無乳!」とか言ってやればいいのに。
「エステラよ。給仕に気を遣わせてそれに気付かぬようではまだまだ一人前の領主とは言えぬぞ」
「む~……ルシアさんは出来ているんですか?」
「当然だ。むしろ、そのような変な気遣いなどさせぬように振る舞っているからな」
「で、ホントのところはどうなんだ、ギルベルタ?」
「指導している、私は、給仕長として、気遣っていることを悟られないように気遣うようにと」
「だそうだ。残念だったなルシア」
「余計なところでしゃしゃり出てくるなカタクチイワシ! 大根おろしを添えるぞ!?」
いや、添えてどうするよ!?
無理して新しい暴言生み出さなくていいからな!?
「ごめんね、待たせてしまって。今日はもう、ボクにいちいち気を遣わなくていいよ」
「やーい、無い乳ー」
「君はむしろもっとボクに気を遣うべきだよ、ナタリア!?」
「おい、給仕、給仕! ――『もういい加減黙れよ貧乳』って」
「何を言わせようとしてるのさ、ヤシロ!?」
「……給仕。――『口を開くのはBカップになってから』って」
「君だって同類だろう、マグダ!?」
あ~らら。未成年と同類だって認めちゃったよ。
「あんたら、いい加減にしてやらないと給仕が泣くさよ」
「オシナ的にも、そろそろスタートしたいのネェ~☆」
「まったくだ。すまんなオシナ、ユニークな連中ばっかりで」
「「「おいコラ、ユニークの源泉!」」」
「誰がだ、こら!?」
「あぁーもう! いいからスタートさせておくれな! 実行委員権限で許可するさよ!」
ノーマが手を振って給仕に合図し、給仕がほっとした顔をして腕をまっすぐに上げる。
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