異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

13話 川漁ギルドのギルド長 -2-

公開日時: 2020年10月12日(月) 20:01
文字数:2,267

「あ……っ」

 

 俺とエステラがギルドに関する話をしている間、おそらく話についてこられなかったのであろうジネットは黙って隣を歩いていたのだが、河原が近付いた辺りで急に声を上げた。

 

「アレは……」

 

 ジネットの視線を追ってそちらを見ると……

 

「げぇっ!?」

 

 そこには、体長が2メートルはあろうかという巨大な熊が、こちらに背を向けて座っていた。

 デカい!

 パッと見ただけでも、服を着ていないことからそいつが獣であることが分かる。

 ……こんな街の中に熊が出没するのか…………っ!

 

 やばい、逃げなきゃ。

 熊の恐ろしさはテレビなんかでよく知っている。ヤツらはシャレにならない生き物だ。死んだフリをすればいいとか、大きな音を鳴らせば逃げていくなんてのは全部迷信だ。ヤツらは、やる時はやる生き物なのだ。

 

 ……気付かれたら、確実にやられる…………

 

「(おい、みんな……音を立てずにそっと逃げるぞ……)」

 

 二人にだけ聞こえるように小声で言う。

 しかし、ジネットはそれが聞こえなかったのか、とんでもない行動に出やがった。

 

「こ~んにちわ~!」

 

 その熊に対し、大きく手を振って大声で挨拶しやがったのだ。

 こいつ何してんの!?

 知り合いか何かと勘違いしてんの!? どう見ても熊じゃん! 全身毛むくじゃらじゃん!

 もしあいつが襲いかかってきたら、俺はお前を囮にして真っ先に逃げるからな!?

 

 と、その時、視界の隅でノソリ……と、熊が動いた。

 ……あぁ、食われる。俺はここで終わるんだ。

 そんな諦めの境地に至りつつも、往生際の悪さを露呈するように体が自然と踵を返す。

 こんなことなら二十九区で見かけたマンガ肉を食っておけばよかった。

 あったんだよ、骨が突き刺さったマンモス的な感じの肉が。

 だが、一個600Rbもしやがって……「ふざけんな!」と思ったんだよなぁ。あぁ、どうせなら食っておけばよかった……エステラかジネットの金で。

 

 なんて、この世の未練が脳裏をよぎり始めた俺の耳に、野太い声が聞こえてきた。

 

「お~! ジネットちゃ~ん!」

「オメロさ~ん! お仕事お疲れ様で~す!」

 

 …………今、しゃべった?

 

 寂びたブリキのおもちゃのように、ギギギ……とゆっくり振り返ると、数メートル前にいた巨大な熊がこちらを向いて手を振っていた。

 全身毛むくじゃらで、どう見ても熊なのだが……すっげぇ小さいビキニパンツを穿いていた。男子競泳用ブーメランパンツをTバックにしたようなヤツだ。……え、なに、あれ?

 

「どうしたね? 今日はみんなで河原を散歩かい?」

 

 トコトコと歩み寄ってくるその巨大な熊は、俺たちの目の前まで来ると立ち止まった。

 ……つか、こいつ、熊か?

 なんか、顔が……

 

「……念のために確認したいんだが……」

「ん? なんだ兄ちゃん?」

「あんた、クマ人族か?」

「いんや、アライグマ人族だが?」

「紛らわしいわっ! あと、デカい!」

 

 俺が怒鳴るとアライグマ人族のオメロはビクッと肩をすくませた。

 両手で頭を抱えるようにして、つぶらな瞳をウルウルさせてこちらを見つめてくる。

 

「そんなこと言われても……オレは生まれた時からこの体だし……」

「いや怒鳴ってすまなかった。なんか、スゲェ怖かったから、つい……」

 

 まぁ、野生の熊じゃなくてよかったということにしておこう。

 

「で……なんでさっきから横向いてんだ、エステラ?」

「う、うるさい……しょうがないだろう、そんな格好をされていては……」

 

 そんな格好と言うが……

 

「どこか変か?」

「そ、そんな際どい水着で女子の前に堂々と立たないでほしいものだね!」

 

 いや……これ、どう見ても野生の動物じゃねぇか。

 これに対して恥ずかしいって……お前、思春期か?

 牛の乳搾りで赤面しちゃう系?

 

「いやぁ、すまんかったすまんかった。レディの前でこんな格好は失礼か。すぐに上を着てくるよ」

 

 オメロはトコトコとさっきいた場所へ上着を取りに戻る。

 ……つか、足音可愛いな、おい。

 

「ジネットは平気なんだな。オッサンのブーメランパンツ」

「ぅええっ!? へ、平気ではないですよ!? でも、アレはオメロさんの仕事着ですので、そういう目で見るのは失礼かと思いまして……」

「じゃあ、真っ裸で仕事をしているダンサーがいても直視できるんだな?」

「そんな人はいませんよねっ!?」

「いや、もしいたらだよ」

「いませんもん!」

「じゃあ俺がその第一号になる!」

「なら、ボクが即座に自警団に通報するよ」

 

 むぅ……横槍が入ったか。

 まぁ、俺には見せつけたい願望はないからいいけど。どちらかといえば見たい方だ。

 

「ところでジネット、真っ裸で仕事をする女性に心当たりはないか?」

「存じ上げかねますっ!」

「いや、俺もジネットを見習って、相手の仕事姿をねっとりたっぷり観賞しようかと思ってな」

「わたしは、そんなことしてませんよっ!?」

 

 真っ赤な顔をしてジネットが吠える。

 そうか、知らないか……でもどこかにいるとは思うんだよな。……今度探してみるか。

 

「おう、これでいいかな?」

 

 オメロが上着を羽織って戻ってきた。

 って、おい!

 下穿いてねぇじゃねぇか! 海パンのまんまじゃん!

 

「まったく……以後気を付けてほしいものだね」

「そうですね。少し照れますからね」

「いや、これでいいのっ!?」

 

 なんだか女子二人が「やれやれ」みたいな感じで納得してるんですけど!?

 下半身まるで変わってないぞ!?

 お前らの羞恥ポイントってどこなの!?

 

 ……もしかして、下半身はOKな街なのか?

 

「なぁ、ジネット」

「はい。なんですか?」

「ちょっと尻を見せてくれないか?」

「懺悔してくださいっ!」

 

 ダメなんじゃん!?

 ……基準が分からねぇ……難し過ぎるだろ、オールブルーム…………

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート