「テレサの頭がいいんだよぉ~!」
泣きながら身内自慢を始めやがったぞ、このサル女。
「何か問題があるのかい? 身内として誇らしいことじゃないか」
「そうじゃねぇんだよ、領主!」
バルバラには、まだまだ教育が必要そうだ。言葉遣いとか。
「お願いします」は言えるようになったみたいだけどな。
「確かにテレサは賢い。可愛いし優しいしお利口さんだし可愛いし、すっごく可愛い!」
可愛い何回言うんだよ。
「けどな!? 姉として、譲れない部分ってのはあるんだよ!」
「分かるです!」
ロレッタが食いつく。
こいつは姉の話にはすぐ食らいつくな。
「決して弟妹を貶めたいわけでも、鼻にかけて自慢したいわけでもないんです!」
「そう! そうなんだよ!」
「けど、『弟や妹に劣る姉』なんて、絶対に認められないです!」
「そうだ! お前、話分かるなぁ! 名前は!?」
「ロレッタです! 長女です!」
「そうか! アーシらは今日から『姉同盟』だ!」
「はいです!」
なんか変なコンビが誕生したっぽい。
バカ姉同盟か。
そうやって見栄を張ろうとするから、あとでボロが出て恥かくのに。
「自慢の妹だから、才能はどんどん伸ばしてほしいんだよ!」
「そうです。で、他の人に認めてもらえたり、褒められたりすると堪らなく嬉しいです!」
「あぁ! テレサのよさがもっと広まればいいよな!」
「はい! ウチも弟と妹、それぞれが新しい場所で活躍していると聞いて……もう、もう! 嬉しくて!」
「でも! でもな! そんなすごい妹よりも、もっとすごい姉でいたいんだよ!」
「そうです! いつまでたっても尊敬される姉でいたい! それは全姉共通の思いです!」
「そうだよな!」
「そうです!」
「その通りだと思います!」
と、急に声が一つ増えた。
陽だまり亭の入り口に、ウサ耳を揺らしたシスター姿の美少女がいた。
天才麹職人のリベカを妹に持つ、ソフィーだ。……あぁ、そういえばこいつも妹ラブのバカ姉だったっけな。
「確かにリベカは素晴らしい妹です。誰にもマネの出来ない技術を持ち、聡明で、人柄も良く、可愛くて…………何より可愛いっ!」
……うん。お前ら、おんなじ発想だな。
「けれど、妹に誇ってもらえる姉でありたい。私も、常日頃からそう思っているのです」
「おぉ! あんたもそうなのか! よし、じゃああんたも仲間だ!」
「メンバーも増えてパワーアップしたですから……そう、今日からあたしたちは『スゴ姉同盟』です!」
「『スゴ姉同盟』……素敵です!」
マジかぁ……
「で、ソフィー。何しに四十二区に来たんだよ?」
「あ、ヤシロさん。ご無沙汰しております。いえ、パンの件でベルティーナさんのお考えを伺いたいと思いまして。それで、四十二区教会を目指している途中でこちらでの会話が耳に入りましたもので」
こいつはたぶんニューロードを通って四十二区に来たんだろう。で、さっきの会話が聞こえて思わず陽だまり亭に寄ってしまったってわけか。
ったく。無駄に聴力がいいんだから、こいつは……
「それで、ヤシロさん! 妹に尊敬されさらに大好きになってもらえる方法というのは、どのようなものなのですか!?」
「知らねぇよ!」
「えぇっ!? またヤシロさんが何か面白いことを考えてみなさんを幸せに導いてくださるんじゃないのですか?」
「『また』ってなんだ!? 俺がいつそんなことしたよ!?」
こいつ、前は信頼のおける相手以外には心を開かないタイプの人間だったはずなのに……ベルティーナやバーバラなんかと一緒にいるから『世の中全員善人説』が感染し始めたんじゃないだろうな? 俺を『人々を救済に導く善人』だと勘違いするなんて、もはや重症を通り越して末期だぞ。
「なんだよ、英雄!? 何かいい案くれんじゃないのかよ! アーシ、さっきお願いしただろう!?」
「お願いがすべて聞き入れられるなら、今頃俺はおっぱい触り放題だわ!」
「なんだよ、それ!? おっぱいなんか別に触ったって面白くねぇだろ!?」
アホか! 面白いわ! 超楽しいわ!
「ほらみろ、全然面白くない」的な顔で自分の胸を気軽に触ってんじゃねぇよ! 超羨ましい!
「なぁ、ロレッタ。アーシさ、実際やってみて分かったんだけど、計算じゃテレサの足下にも及ばない。どう頑張ったって勝てる気がしないんだ」
「まぁ、計算は才能がモロに出るですからねぇ……正直、あたしもあまり得意な方ではないですし、気持ちは分かるです」
「そもそも、『さんたすに』の『さん』ってなんなんだ!?」
「そこからですか!? 数字ですよ、『さん』は! それくらいは知ってるはずですよね!?」
「そんなことはどーでもいいんだ!」
「割かしどーでもよくない深刻な事態だと思うですけど!?」
「そーじゃなくて! 計算ではボロ負けだから、それすらも補えるほどの大勝利をテレサに示す必要があると思うんだ!」
「なるほど! マイナスを補ってあまりあるプラスですね! それはあたしもよく考えるです!」
「あ、私もよく考えます! リベカにすごいって言ってもらえる方法が何かないかって!」
そして、盛大に空回りしてマイナスにマイナスを重ねる結果になるんだろう、お前らなら。……見栄を張るなっつうのに。
「それでな。テレサの目は、もうすぐよくなる」
「えっ!? 妹さん、目が見えないのですか?」
「あぁ。ちょっと前までな」
「どうして二十四区教会へ預けなかったんですか!?」
「アーシとテレサはずっと一緒にいるって決めたんだ!」
あぁ。そういえば、バルバラが嫌ってた二十四区教会の関係者だったっけな、ソフィー。
なんか、いつの間にか同盟結んじゃってるけど。
「でな! テレサの目が見えるようになったら、真っ先にアーシのカッコいいところを見せてやるんだ。久しぶりに見た姉がカッコいいと尊敬するだろ? もっと好きになるだろ!? 『おねーしゃ、だいしゅち!』って言うだろ!」
なんか……片思いの女子を友達に襲わせておいて追っ払うっていう三文芝居を目論むモテない中学生男子みたいな発想だな、それ。
「はぁぁ……いいですね、『お姉ちゃん、大好き』……リベカに言われたいです」
ソフィー。よだれ出てるぞ。
外面には気を遣えよ。次期麹工場の責任者。現教会のシスター。
「つーわけで! アーシのカッコいいところを見せるために、英雄! 殴らせてくれ!」
「発想がモテない中学生男子そのものだな、お前は!?」
なんで俺がお前のためにお前に殴られなきゃいけないんだよ。
「あの、ヤシロさん。『ちゅーがくせい』ってなんですか?」
「ん? あぁ、それはな。男の生涯において最もおっぱいに興味津々な時代のことだ」
「じゃあお兄ちゃんはずっと『ちゅーがくせい』です」
「……永遠の『ちゅーがくせい』」
「誰がエターナル思春期だ」
俺だってちゃんと成長してるわ。
当時はそこにあるのが当たり前過ぎてさほど興味を持っていなかったブルマにだって、ここ最近は趣を見出しているのだ。
「コーヒーの苦みと、ブルマのよさが分かるようになると、大人って感じだよな?」
「『ぶるま』が何かはよく分かんないですけど、きっとコーヒーの苦みとは並べちゃいけないヤツです!」
「……ちなみに、その『ぶるま』を一言で表現すると?」
「ノーマによく似合いそうなコスチュームだ!」
「なるほど。オトナのエロい衣装やな」
「なんでそうなるさね!? 可愛い服かもしれないじゃないかさ!?」
はっはっはっ、ノーマ。自分のキャラは正確に把握しておけよ。
しかしまぁ、一部の偏ったオトナたちの印象が大きくなり過ぎた影響で、昨今特殊な嗜好品として認知されつつあるブルマではあるが……
「本来は運動着なんだ。伸縮性に富んで、汗も吸収してくれて、何より動きやすい。そんな、理に適った運動着だ」
ただ、ちょっとオッサンの食いつきがよかっただけで。
健全な目で見れば素晴らしい衣類なのだ、ブルマは。
…………いや、不健全な目で見ても素晴らしいけれども! それ言い出すと論点ずれるから! 今は健全な目で話を進める。
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