異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加30話 チーム戦の駆け引き -4-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:3,216

「では、参加選手は入場してください!」

 

 

 進行係の給仕が声を上げ、選手が入場門からトラックへと移動を開始する。

 パイロンが置かれたコースの前、白線の後ろに選手が並んでいく。

 

「よぉし。じゃあ今から言う順番で並んでくれ! マグダ」

「……うむ。第一レースは――」

 

 マグダの指示に従い、白組の選手が整列を始める。

 各組、順番は事前に決めていたようでスムーズに整列が行われている。

 

 ちらちらと、こちらを窺う視線がそこかしこから感じられる。

 おーおー、気にしとるなぁ。

 

 けどまぁ、見たければ存分に見ろよ。

 なにせこっちは……『台風の目』必勝法を隠し持っているんだからよ。

 精々、盗んだ情報で検討することだな……ふふん。

 

 ほどなくして、各チーム五人ずつの列が五列出来る。

 

 俺は白組の最後尾――アンカーの列の中央にいる。

 白組のアンカーは、中心部からマグダ、マーシャ、俺、ジネット、ロレッタという並びだ。

 現在マーシャはマグダにおんぶされている。嬉しそうに、目の前で揺れるネコ耳を眺めており、ちょっと摘まんではマグダに尻をぺしりと叩かれていた。

 

 他のチームの配列を見てみると、なるほど、一応は考えられた布陣ではあるようだ。

 

 五人で同時に走るということもあり、各チーム主力選手はバラけている。

 エステラやナタリア、パウラやノーマといった足の速い連中は一番外の大回りをするポジションについている。

 そして、デリアやメドラという力自慢は中心部をがっちりとガードする位置にスタンバイしている。デリアやメドラはアンカーか……今のところは。

 レース中に変更される可能性はある。その辺が不確定要素だな……まぁ、赤組と黄組にはエステラやナタリアのような切れ者はいないしな。

 ノーマ? はははっ。あいつが戦略とか戦況を冷静に判断できるような人間なら、今頃とっくに結こ……っと、なんでか目が合ってしまった。逸らしておこう。うんうん。つか、競技中に煙管を取り出すんじゃねぇよ。真面目にやれ、真面目に。

 

 で、その切れ者がいる青組はというと……ちっ、アンカーの中心側はウッセか。

 パワー系では、青組は今ひとつパッとしないようだ。……まぁ、狩猟ギルドの連中とやり合って勝てる気はしないが、ウチのマグダや、メドラやデリアと比較すると見劣りする。

 

「青組、地味っ!」

「うっせぇぞ、ヤシロ!」

 

 吠えるウッセ。

 しかし、メドラに睨まれてすぐさま大人しくなる。

 ぷっ、ビビってやんの。

 

 青組は狩猟ギルドや、やたら人相の悪い連中が中心側を引き受けるようだ。

 

「……なんだ、あのウッセ以上の悪人面どもは?」

「……あれは牛飼いの連中。以前、大通りでマグダに因縁を付けてきたことがある」

 

 あぁ~…………っと、そんなこともあったような。

 たしか、牛飼いが暴れ牛を取り逃がしてマグダがそれを仕留めたんだっけ? その時に初めて『赤モヤ』を見たんだったな。

 

「……にしても、人相悪過ぎだろ」

「ウチの弟妹の情報では、牛飼いはお肉市場の奪い合いで狩猟ギルドと仲があまりよくないらしいです。同じチームの狩猟ギルドを目の敵にしてるですよ」

「そうなんですか? 同じチームなんですから、仲良くした方が楽しいですのに……」

「それは難しいんじゃないかなぁ、店長さん。だって牛飼いの人たち、『狩猟ギルドにだけは負けないぴょん☆』って顔してるもん。ねぇ~、ヤシロ君☆」

「……いや、マーシャ。『ぴょん☆』はねぇよ、あの顔で」

 

 同じチームなのに不和があるのか。……なら、そこら辺をくすぐってやれば統率が乱れるかもなぁ……よし。

 

「お~い、イネス、デボラ! 青組の一組目は『狩猟ギルドじゃない方』だから、適当にあしらっていいぞ~」

「「「んだと、ゴルァ!?」」」

 

 青組にいた牛飼いどもが一斉に立ち上がる。

 おぉ、怖い。

 しかし同時に、青組の狩猟ギルドの連中が「ぷぷっ」と小馬鹿にしたように吹き出した。

 それが決定打となった。

 

「なぁに、笑ってやがんだ狩猟! 今の青組のリードは俺たち牛飼いの貢献がデカいんだからな! 分かってんのか、そこんとこ!?」

「はぁ!? どう考えたって狩猟ギルドの功績だろうが!」

「おぅこら! やんのか、おぉ!?」

「上等じゃねぇか、表出やがれ!」

「やめないか、君たち!」

 

 チームリーダーのエステラが立ち上がり、ごついオッサンどもを一喝する。

 そして、鬼のような形相でこちらを睨みつける。

 

「……ヤシロぉ…………っ」

「す、すまん。まさか、ここまでこじれるとは……ちょっと影の薄い方を弄ってみたくなっただけなんだ」

「『影薄い』だってよぉー、ぷぷぷー!」

「ぉお、こら!? 上等だ!」

「ナタリアっ!」

「かしこまりました」

 

 静かな声で言い、ナタリアが立ち上がる。

 そして、抑揚のない声で荒ぶる狩猟ギルドと牛飼いどもを睥睨する。

 

「みなさん。一つ、お伺いします。黙りますか? ……黙らせましょうか?」

「「「「………………」」」」

 

 再び騒ぎ出したオッサン連中が、ナタリアの一睨みで大人し~く着席した。

 背筋ピーンだ。

 すげぇな、ナタリア。

 

「ヤシロ……次やったら妨害行為で失格にするよ?」

「分かったよ。……つか、四十二区にこんなに確執のある連中がいたんだな」

「いるよ、そりゃ。まだ他にも、ね」

 

 なんだか、嫌なフリを聞いてしまった気がする。

 追々、そんな連中の仲直りに駆り出されたりしないだろうな……そうならないように祈っておこう。

 

 ヘイ、精霊神、よろしくちゃん☆

 

 ……これでよしっと。

 

 

 ――と、そんな感じで、怒られつつも牛飼いの連中の中に闘志がメラメラ、ギラギラと燃え上がりいい塩梅で鼻息が荒くなっている。

 よぉしよし。お前らはそっちで勝手に潰し合ってろ。

 

「まったく……苦労して協力するよう約束させたのに……」

「まぁまぁ、今は青組が勝ってんだからハンデだと思ってよ」

「……この後も延々尾を引きそうなハンデを課してくれたもんだよ、まったく」

 

 嘆き節のエステラ。

 よっぽど骨が折れたらしいな、連中を同じチームに組み込むのが。

 かといって、どちらかが辞退もしようとはしなかったんだろうなぁ。だって、参加しなかったら『呼ばれなかった』とか『必要とされてない』とか考えそうだし。

 うわぁ……メンドクセェ。よかった、俺、西側で。

 

「ヤシロ……貸し、一つね」

「ん? じゃあ、散々貸してるツケからさっ引いといてくれ」

「ボクの方がいろいろ貸してるよね?」

「いや、俺だろう?」

「いやいやいやいや! ボクがどれだけ君のために走り回っているか、三日三晩語って聞かせようか?」

「エステラ様。そろそろレースを始めたいので、『三日ほど一緒にお泊まりし・た・いんだ・じょ♪』的なお話はあとでお願いします」

「悪意しかない歪曲やめてくれるかな!?」

 

 青組リーダーが赤く染まる。紫だな。

 

「ダーリン。ア、アタシもっ、お泊まりし・た・い……」

「さぁ、スタート係! 今すぐにレースを始めてくれ!」

 

 メドラが『死体』がどうとか、身の毛もよだつ話をし始めやがったからな。

 さっさとレースを始めてしまおう!

 

 

「では、第一走者は位置についてください」

 

 

 給仕の合図で、各チーム最初の五人がスタートラインに立つ。

 この後走る残りの選手はしゃがんで待機だ。

 

「みなさ~ん! がんばってくださぁ~い!」

 

 ジネットが隣で大声を張り上げる。

 楽しんでるようでなによりだ。

 

 

 ……さて。

 

 他のチームに視線を向けると、青組にはエステラとナタリアが、黄組にはパウラとノーマとメドラが、そして赤組にはデリアがいる。

 こいつらがこの二十五人のチームを指揮していくのだろうが……お前らは気が付けるか?

 俺が仕掛けた『基本戦術』の呪縛を破り、『最も速くパイロンを一周する方法』に。

 

 ヒントをやろうか?

 ルール上は、「竹を持った選手がコースに置かれたパイロンの周りを一周する」と明記されている。

 さぁ、気付いてみろ。

 ルールに書かれていることと、書かれていないことをよぉく見極めてな。

 

 

「それでは! 位置について、よぉ~い!」

 

 ――ッカーン!

 

 高らかに鐘の音が鳴り、第一走者が一斉に走り出した。

 

 

 

 

 

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