「よし、行ってこい! 可愛い隊長!」
「うむ! 任せるのじゃ!」
「リベカを輝かせるために、私は死ぬ気で走ります!」
大丈夫。作戦は伝えてある。
ソフィーなら『リベカを輝かせるため』にうまくやってくれるはずだ!
「ニッカ、カール! トットを頼む!」
「任せるデスヨ!」
「そこで見ておけダゾ!」
「トットさんも頑張ってください!」
「は、はい! 行ってきます!」
ジネットに送り出され、緊張気味なトットが竹を握る。
中心側から、ソフィー、ニッカ、トット、カール、リベカの順で、白組が最後尾から猛然と追い上げる。
「なるほどねぇ。足の速いウサギ人族と、飛べるアゲハチョウ人族、身軽なオコジョの子供で速度重視の編成なんだね、ダーリン?」
黄組の待機列から、メドラがそんな分析を寄越してくる。
まぁ、見た目だけで捉えるならそんな風に見えるだろう。
だが、ソフィーの特性はそんなところではない。
――ここからが白組流の『台風の目』の神髄だ!
黄組、赤組、青組の順で折り返しのパイロンをターンして、選手がこちらに向かって戻ってくる。
一方、他のチームと向かい合うような形になった白組は、ようやく一つ目のパイロン、一回転地点へとたどり着く。
そして――
「リベカよ、羽ばたいてっ! ……ぬぅぅぅぅぁあああああっ!」
ソフィーが『四人が掴まっている』竹の棒を振り回した。
大きく一回転。
パイロンの周りを回るように、フルスウィングだ。
「「「えぇぇええっ!?」」」
ハンマー投げよろしく、竹の棒を振り回すことによって、歩幅の違う選手がもたもた走るタイムロスを大幅カットする。
『竹を持ってパイロンを一周』すればいいルールなので、これで問題はないはずだ。『走れ』とはどこにも書いていないしな。
「しゅたっと着地なのじゃ!」
「大丈夫デスカ、トット君?」
「は、はい!」
「んじゃあ、また走るダゼ!」
身軽なリベカはもちろん、跳ぶことに慣れているアゲハチョウ人族の二人にサポートされたトットも無事に着地を決めて走り始める。
突然目の前で行われた荒技に、他の3チームの選手が足を止めて見入っていた。
度肝抜かれたろ?
「ぬわぁ! そうだった! あのウサギのシスターは、二十四区教会の鉄の扉を片手で開けられるんだった!」
「身軽な選手を選んだのは、そのためだったんさね!?」
デリアとノーマが俺の狙いに気付き歯噛みする。
「パウラ! ちょいと編成を変えるよ!」
「うん、メドラさん! あんな技がありなら、ウチだって!」
「よっし! あたいも真似するぞ! オメロ、そこ変われ!」
両サイドの敵チームが慌ただしく入れ替わる。
そう。これを利用されると実に厄介なことになってしまう。
この技は、デリアやメドラになら簡単に真似できてしまうからな。
だからこそ、一瞬の油断を誘うために白組は『一位からの転落』を演じる必要があった。
「こいつら、やるぞ!?」と思わせておいて、「チャンスだ! 今のうちに!」からの~「えっ!? そんなのありなの!?」だ!
おーおー、見事に慌てふためいてやがるぜ。
バトンタッチの前には竹を跳んでくぐらなければならず、整列していない状態ではそれらの行動は行えない。ルールブックにも『整列している待機列の選手が竹をジャンプして~』と明記しておいたのできっちり守ってもらう。
ノーマとメドラをアンカーに据えようとしていた黄組が大慌てで並び替えを行っている。
なにせ、黄組は現在一番だ。第三走者はもうすぐそこまで迫ってきている。というか、自軍の整列が終わっていないことを悟って少し足踏みしている。
赤組も同様だ。
青組は、指揮官になれそうなエステラとナタリアが今走っている最中なので再編成が行えない。
この次は第四走者。二度は走れないから、青組は再編できないだろう。
黄組と赤組がもたついている間に、青組と白組が距離を縮める。
「頼んだよ、ノーマ、パウラ!」
「任せておくさねっ!」
「一番で戻ってきてあげるから!」
結局、黄組は裏ボスのメドラだけを残して、パウラとノーマ率いる第四走者が出発していった。
編成に困って後回しにでもなったのか、メドラの隣には金物ギルドのオッサンどもが並んでいた。
「オメロッ! 死ねぇえ!」
「『死ぬ気で走れ』ですよ、親方ぁ!?」
赤組は、オメロと教会の元気過ぎるガキどもという編成の第四走者となっていた。
アンカーは、デリアと川漁ギルドのオッサン二人、木こりギルドのオッサン二人だ。
イメルダは…………こんな、他人に埋もれる競技に参加するわけないだろ? な?
「抜かされんじゃねぇーぞ、牛飼いぃ!」
「抜かしてろ! 抜かしてやらぁ!」
青組も、罵声が飛び交いながらも第四走者が飛び出していく。
『抜かしてろ=ほざいてろ』と『抜かしてやる=追い抜く』がややこしいセリフだったな。……学のなさがボキャブラリーに影響してんだろうな。気の毒に。
「んじゃ、行ってくるぜ!」
「健闘を祈っててくださいね!」
「あぁ……、俺ぁ不安で仕方ねぇぜ……」
「オイラもッス……」
「オレ、大抜擢! ……ひひんぬっ!」
長い竹――バトンを受け取り、白組の第四走者も走り出す。
中心側から、カブリエル、マルクス、モーマット、ウーマロ、そしてヤンボルドだ。
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