異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加60話 閉会式、そして夕食会と隠された意味 -4-

公開日時: 2021年4月2日(金) 20:01
文字数:2,501

「あ~、おったおった」

 

 エステラたちが去って間もなく、今度はレジーナがやって来た。

 特に足を引き摺るような素振りは見せていない。

 

「足は大丈夫か?」

「大丈夫や。まだ誰にも生ぺろぺろされてへんし、新品やで!」

「そんなこと聞いたんじゃねぇよ! つか、生じゃない『ぺろぺろ』ってなんだ!?」

「自分がよぅやっとる『エアぺろぺろ』やないかいな」

「う~っわ、冤罪ってこうやって生まれるんだぁ」

 

 そんなもん、やったことねぇわ。

 ……今度試してみるか。

 

「いや~、まいったで~。店長はんにな、『ぼぃ~ん。カレールーを多めにお願いします、ぽぃんぽぃん』って頼まれてやなぁ」

「3バウンドしてたのか」

「そんで提供したんやけど、この人数やろ? 足らへんでなぁ。せやから大至急、救護テントで調合したんやで」

 

 ジネットが張り切って、この場にいる人数分を作ったのだとしたら、ルーも相当な量必要だったことだろう。

 

「せやから今回のカレー、いつもと味が違ぅてあんま美味しくなくても文句言わんといてな」

「配合が多少変わっても、ベースがしっかりしてりゃマズくはならねぇよ」

 

 風味や辛さが変わろうが、大筋でカレーからは外れない。

 そして、そのベースをレジーナはしっかりと理解している。

 

「お前が関わってる以上、ルーにはなんの心配もしてねぇよ」

「そら有り難いことやけど……調合の前にお尻を掻いた手ぇ、洗ったかどうか記憶が定かやのぅて……自信ないわぁ……」

「そこは自信持てよ! 頼むから!」

 

 そんなもん、一部のマニアしか喜ばねぇんだよ。

 衛生面で看過できない案件だよ、それが事実ならな! ……ま、冗談なんだろうけど。

 

「ほなら、ウチもこれで」

 

 手を上げて歩き出すレジーナ。

 こいつはなんでわざわざ、そんなどーでもいいことを言いに来たのか。

 その答えは一つ。

 捻挫した足はもう平気だと、俺に見せるためだ。俺に心配をかけてしまったと思って、「もう心配しなくていいから」と遠回しに態度で示してみせたわけだ。

 こいつも大概素直じゃないよな。

 

「んじゃ、俺も食ってくるかな、レジーナの手料理」

「は、はぁ!? 何言ぅてんのんな、自分!? 作ってはるんは店長はんやんか」

「ルーはお前のお手製だろ? それも、さっきこの場所で作ったばっかだ」

「それは、せやけど……」

「じゃ、美味しくいただいてくるよ」

「ん…………むぅぁああああ! ホンマ『いけず』やな、自分! ほなら絶対残さんと全部たいらげなアカンで! ほんでなぁ――!」

 

 勢いよくしゃべっていた口がふいに止まる。

 そして、口もとを手で隠して視線を外して。

 

「ほんで……美味しかったら、今度はウチに食べに……来ても、かまへんわ」

 

 言い捨てて、足早に去っていった。

 足はもう大丈夫なようだ。……慣れないことして、また転ぶなよ。

 

「ヤシロさ~ん!」

 

 そして、最後に俺を出迎えてくれるのは、やっぱコイツらなわけだ。

 

「カレーと芋煮とバーベキュー、どれがいいですか?」

 

 運動会の疲れなんか一切見せないで料理を配膳しているジネット。

 そして、それを当たり前のように手伝っているロレッタ。

 マグダはというと、ヤップロックが持ってきたのだという大量のポップコーンを豪快に弾けさせていた。疲れた体に、はちみつとバターのいい香りが沁み渡る。

 

「味見してみたんですが、どれもこれも美味しくて、ちょっと自信作なんです!」

 

 珍しく、自分の料理を自分で褒めるジネット。

 こいつは、自分の料理に自信は持っていても、あんまり自分で「美味しい」とは言わない。

 美味しいかどうかは食べた人が決めればいいというスタンスだ。

 

 そのジネットが「美味しい」と言うとは、よほど美味いに違いない。

 というか、アレだな。

 

「外で食うと格別だろ?」

「はい! 疲れてお腹が減っていたのもいいスパイスになっています」

 

 うふふと、嬉しそうに笑う。

 

「お兄ちゃん! 今日のカレーはすごいです! これは食べておかないと絶対後悔するですよ!」

「……魔獣のバーべーキューは絶品。けど、デザートにマグダのポップコーンがあるので食べ過ぎには注意」

「芋煮も、いい味になっていると思います。ヤシロさんの故郷のお味になっているか、確認してほしいです」

 

 陽だまり亭三人娘にそれぞれを進められちゃあ、しょうがないよな。

 

「じゃあ、全部くれ」

「はい!」

「それじゃあよそってくるです!」

「……特に美味しい部位を発注してくる」

 

 三人が一斉に解散する。

 

 周りを見渡せば、会場中の者たちが手に料理を持って楽し気に談笑している。

 肉にかぶりつき、カレーを頬張り、芋煮に舌鼓を打って、色とりどりのフルーツにうっとりしている。

 デリアはずっとポップコーンを貪り食ってるな。

 

「ヤシロさん、お待たせしました」

「お兄ちゃん、特盛です!」

「……ボナコンがあったのでくすねてきた」

 

 同じタイミングで三人が戻ってくる。

 手にはそれぞれ大量の料理。

 そんなに一人で食えるかよ。

 

「マグダ、ポップコーンは?」

「……まだ必要と思われる……が、当面は在庫で事足りる状況」

「ロレッタ、配膳は?」

「エステラさんとこの給仕さんたちがすごくて、もうほとんど終わってるです」

「ジネット。調理は?」

「もう、食材が残っていません」

 

 それはまた、張り切って作ったもんだな。

 

「んじゃ」

「はい」

「……うむ」

「みんなで一緒に夕飯です!」

 

 珍しく、陽だまり亭従業員全員で夕飯を食うことになった。

 まぁ、実は狙ってたんだけどな。こういう機会はなかなかないし。

 

「うふふ。実は、一緒に食べたくて、ちょっと頑張ってお料理終わらせたんです」

「あたしもです! 配膳、めっちゃ頑張ったです!」

「……マグダは、すべて計算尽く」

 

 みんな同じ気持ちだったらしい。

 

「ねぇ。ボクも混ぜてもらっていいかい?」

 

 まだ一口も手を付けていないカレーを片手に、エステラが輪の中に混ざってくる。

 

「お前は、関係者とか来賓と食わなくていいのかよ?」

「大急ぎであいさつ回りしてきた」

「まったく、どいつもこいつも……おんなじこと考えやがって」

「それは、君も同じ穴の狢だと自白しているようなものだよ」

「うっせ」

 

 セロンの持ってきた光るレンガを囲んで飯を広げる。

 なんとも統一性のないラインナップだが、外で食うと美味いってカテゴリーは一緒だ。

 

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