異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

95話 猛暑の正しい過ごし方 -1-

公開日時: 2020年12月31日(木) 20:01
文字数:1,687

『本日、陽だまり亭は以下の場所で営業しております。御用の方は以下の場所までお越しください』

 

 地図と共に、そんな文言が書かれた張り紙をドアに貼り、陽だまり亭出張営業(みんなで出かけるから飯食いたいヤツはそっちへ来いスタイル)を行うため、俺たちは河原へと向かった。大雨の日に続いて二度目だな、こういうのは。

 

 ここ最近は本当に客が来ず、最後に来たのはムム婆さんだったかもしれない……あ、ウーマロがいたか。でもまぁ、あいつは客であって客じゃないからな。

 昨日一昨日は本当に人が来なかった。

 ジネットは「この時期はしょうがないですねぇ」なんて言っていたが……なんだ? 「暑いからお外行きたくな~い」なんて言ってんのか、この街の人間は。夏バテか? 米を食え米を!

 

 で、そんな状況であることも手伝ってか、出張営業(という名のバカンスもどき)に対し、ジネットも比較的難色は示さなかった。むしろ乗り気だった。

 

「みんなで遊びに行けるのは嬉しいですね」

 

 なんて、昨日の夜からわくわくしていたくらいだ。

 こいつも、遊ぶ楽しさに目覚めてきたのか。

 

「……暑い」

 

 マグダは暑さがとことん苦手なようで、ここ数日は使い物にならないレベルでグダっていた。

 コーヒーゼリーを見せると飛んでくるのだが、それ以外は基本的に床にペッタリ張りついている始末だ。

 

「あたしの水着、これ、すごいですよ! お兄ちゃん、グッとくるですよ!」

 

 ロレッタは川遊びが嬉しいらしく、ずっとわきゃわきゃしている。

 ニュータウンがスラムと呼ばれていた頃から、こいつは弟妹たちと川で遊んでいたらしく、泳ぎは得意なのだとか。

 ただ、水着を手に入れたのは今回が初めてなようで、早く人に見せたくて仕方ないようだ。

 これまでどうしていたかというと……妹の証言によれば「おねーちゃん、すっぽんぽんー!」だったそうだ。……奔放な娘だなぁ。

 

 マグダがグダっているため、今日は俺が荷車を引いている。

 いろいろ入り用なのだ、今日は。昼飯とかも含めてな。

 

「お~い! こっちだこっち!」

 

 河原に着くと、デリアが大きく手を振って出迎えてくれた。

 デリアはすでに水着に着替えている。腕を振る度に健康的に揺れ動く膨らみ……夏、大好きっ!

 

 河原には、簡単なほったて小屋と、大きなパラソルが設置されていた。……なぜに?

 

「ボクがウーマロに頼んで作ってもらったんだ。パラソルはヤシロにもらった日傘を参考にさせてもらったよ」

 

 すでに来ていたエステラがそんな説明をしてくれる。

 こいつはまだ水着に着替えていない。……大方恥ずかしくてジネットとかが来るのを待っていたのだろう。

 

「こちらの小屋で着替えやトイレが出来るようになっています」

 

 ナタリアがそんな説明をしてくれる。ナタリアはもうすでに着替えている。

 パレオから覗く生足が眩しい。生唾ごっくんものだ。

 

「で、そのウーマロたちは?」

「買い出しですわ」

 

 小屋からイメルダが出てきた。

 裾の広がったワンピースにツバの広い帽子を被っている。

 ……小屋から出てきたのに、なんで着替えてないんだよ…………あっ!

 

「トイレか?」

「ワタクシの顔を見る度にトイレトイレ言っていませんこと、ヤシロさん!?」

 

 いや、だって。着替えとトイレのための小屋なんだろ?

 

「着替えをするのに不備が無いかを確認していたんですわ。……万が一にも覗きなどされては堪りませんからね」

 

 そんな大それたことをする男がこの街にいるとは思えんが……デリアとかマグダとかエステラとかナタリアとかいるのに……

 イメルダの話によれば、ウーマロとベッコ、それからオメロが使いっ走りとして召喚されているらしい。……気の毒なことだな。まぁ、美女の水着の拝観料だと思って精々額に汗して働くがいい。

 

「こっちの方はなかなか涼しいねぇ」

 

 河原に建てられたパラソルの下で、すでに水着に着替えているノーマが優雅に寝そべっていた。

 これまたダイナマイツッ!

 サンオイルがあれば塗ってやりたい!

 

「ぁ……てんとうむしさ~ん! じねっとさ~ん!」

「みなさん、こんにちは」

 

 ミリィとベルティーナが並んで歩いてくる。歩調のゆっくりなベルティーナと、歩幅の狭いミリィは同じ速度になるのか。新発見だ。

 

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