異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

203話 恋する男子の大脱出 -2-

公開日時: 2021年3月20日(土) 20:01
文字数:2,114

「じゃあ、さっさと呼び出すか」

「あ、ああ、あの、あのっ!」

 

 角を出て門へ向かおうとする俺の腕を掴んで、フィルマンが全力で俺を引き戻す。

 

「ぼ、ぼぼ、僕は、僕はどうしていればいいですか?」

 

 ……誰がスマート且つ優雅に対応できるって?

 

「俺たちが行ってまず呼び出すから、お前はここで見てろ」

「あぁ……想像したら緊張してきました……っ!」

「見てろって言っただけでか!?」

「じゃ、じゃあ、僕。見たら、帰りますので」

「帰んな! ある程度探りを入れたら呼ぶから、そしたら俺たちんとこまで来るんだよ」

「……少々、時間がかかってもよろしいですか?」

「さっと来いよ。どんだけ時間かける気だよ?」

「……四年ほど」

「ナタリア。お前はここに残って、こいつの首根っこを捕まえて引き摺ってきてくれ」

「わぁ! ダ、ダメですよ! 他の女性と触れ合っているところなんか見られたら、嫌われちゃいます!」

「……うん、それはたぶん大丈夫だよ」

 

 フィルマンが発言をする度に、エステラがなんだか乾いていく。

 そこまで極端に潔癖な女は、フィルマンの脳内にしか存在しないだろう。

 気にし過ぎだ、お前は。

 

「じゃあ、ナタリアに触られないように、自分の足で歩いてこい」

「うぅ……それは……」

「ナタリア。こいつがヘタレたら、小脇に抱えて運んできてくれ」

「分かりました。限りなくセクシーな動きでお届けします」

「誤解されちゃう! そんなの、絶対誤解されちゃいますよ!」

「じゃあ、そうならないように頑張れ。……行くぞ、エステラ」

「……うん。もう、さっさと行こうよ……」

 

 慎重過ぎる男って、女子をここまで疲弊させるんだな。

 

「待って! 待ってください!」

「なんだよ、もう!」

 

 俺が歩き出すと、今度は腰にしがみついてきやがった。

 話が進まんだろうが!

 

「なんだか急に緊張してきました! い、今、お話とかすると、ダメになりそうな気がします! 日を改めましょう! そうしましょう!」

「お前……ここで逃げたら、二度と話しかけに来ないだろう」

「だ、大丈夫です! 僕は、二十四区領主の血縁者ですよ!? いざという時は度胸を見せますとも!」

「ドニスの血縁者だから不安なんだよ!」

 

 あのジジイは、何十年も片思いをし続けてるんだぞ!

 自己完結して、それで満足するような血筋の言葉など信用できるか!

 

「じゃ、じゃあ! 何か、恋のお話をしてください!」

「恋バナ好きも遺伝か!?」

「恋のお話を聞くと、心がふわふわするんです! この中で、ちゅーをされたことがある方は!?」

「セクハラが過ぎるよ、フィルマン君」

 

 エステラが、ジジイにしたのと同じツッコミをした。

 やっぱフィルマンって、ドニスの息子なんじゃねぇの? 似過ぎだわ。

 環境って怖いんだなぁ……

 

「では、百歩譲って…………ヤシロさん! ヤシロさんの好きな女性の話をしてください!」

 

 こいつは……なぜ目を開けたまま寝言をほざいていやがるんだ?

 

「恋する男子がそばにいるのだと思えれば、僕も勇気が湧いてくると思うんです!」

「アホか。誰がするか、そんな話……」

「ヤシロ」

 

 ぽんっと、肩に手が置かれる。

 その手の持ち主は……エステラだ。

 

「人助けだと、思って」

「……テメェ」

 

 こいつは、自分に火の粉が飛ばないと知ると、俺をからかう側に回りやがる。

 手痛いしっぺ返しを食らうんだぞ、そういうのは。……俺の場合は「喰らわせてやる」って感じだけどな。

 

「ボクだって、嫌々ながらも男装をして協力したじゃないか!」

「お前は、以前から男装気味な格好ばっかりしてんじゃねぇかよ」

「他人のマントを纏うというのは、結構抵抗があるんだよ」

「新品だったろうが!」

「心情的な問題さ!」

 

 こいつ……単に俺の恋バナを聞きたいだけだろうが……

 

「別に、俺には好きなヤツなんて……」

「……僕だけなんですね、恋に不安を抱いているのは………………あぁ、世界が暗い……不安にのみ込まれそうだ…………」

 

 フィルマンが四肢を突き、全身から闇色のオーラを放ち始める。

 目を凝らせば、地獄の口が開いて亡者がおいでおいでしている背景が幻視できそうな落ち込みようだ……

 

「しばらく、自室にこもりたいと思います…………そう……四年ほど」

 

 お前のその四年周期ってなんなの!?

 お前の勇気って、オリンピックの年にしか発揮されないとか、そんなの?

 

「ヤシロ様……ここは、彼を助けると思って…………恋バナを……ぷぷー!」

「ナタリア。お前は、俺を説得したいのか、完全無欠に拒否されたいのかどっちなんだよ?」

 

 まったく……恋バナなんて、ガラじゃない。

「誰が好きだ」「こんなに惚れてる」なんて、部外者に話したところで意味ないだろうが。

 そういうのは、本人に対して態度で示すもんであってだな…………

 

「あぁ……恋する僕はロンリネス……」

「ちょっとオルキオのポエムっぽくなってるぞ、フィルマン!?」

 

 この街の乙女男子どもはすぐポエムに逃げる。

 そういうのよくないと思うぞ!

 

 …………ったく。

 こいつが前向きになって、リベカと話して、うまくいくならいくで、いかないならいかないで潔く玉砕するとか、とにかく片を付けてくれないとドニスが協力してくれることはないだろう。

 しょうがねぇな……ちょっとだけ、話してやるか。

 

 こういう話は、普段誰にもしないんだけれど……

 

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