「それでは、選手のみなさんは入場してください!」
進行係の声がして、選手たちは揃って入場門を出る。
「「「「せーの!」」」」
「「「「1、2! 1、2!」」」」
やっぱどう考えても縛るの早いよな!?
入場で二人三脚っておかしいもん、絶対!
しかし、その異様性に気付く者は誰もおらず、選手はひょっこひょっことトラックを目指してふらふら進んでいく。
……正しい入場を知ってるのは俺だけだし、これが異常だって認識がないんだろうな。
これがスタンダードになるのか、この街では。滑稽な光景なんだけどなぁ。
「あっ!?」
と、そんな声が聞こえたのは選手の約半数が入場門を出た辺りでだった。
物凄く嫌な予感がしたのだが、それを認識する前に、俺の服ががしっと掴まれた。
振り返ると、驚いた表情のジネットがこちらに向かって倒れてくるところで――
「足が……ひゃぅっ!?」
がくんっと体勢を崩して、ロレッタもろともズッコケる。
服を掴まれていた俺は見事にバランスを崩し、なんとか踏ん張ろうとしたのだが、利き足は現在マグダの足に括りつけられていた。
咄嗟に出した足のせいで今度はマグダがバランスを崩し、近くにいたデリアの服を掴む。ちょっと背丈が足りないせいで、掴んだのは体操服ではなくブルマだったようだが。
「うひゃあ!? マグダ、おまっ、何するんd……っ!?」
「ぅにゃあ! でりあさん、ひっぱらないでぇ」
赤い顔でブルマを押さえるデリア。その勢いに振り回されて地面から足が浮くミリィ。
「ミリィ、危ない!」
そんなミリィを咄嗟に助けようと駆け出したエステラと、さすがにそこまで咄嗟には動けなかったナタリア。
「あ、これは転びますね」
なんて冷静に言って、被害を最小限に抑えるために、近くにいたノーマの腕を掴んだ。
「巻き込むんじゃないさよ!?」
「ア~レ~、なのネェ~!」
「ちょっ、なんですの、オシナさん!? 掴まないでくださいまし!」
「はわゎ~、道ずれの、大転倒やー!」
「ハム摩呂たん! 今助けに行くぞ!」
「危ない思う、私は、急に走るのは!」
そんな怒号とも悲鳴とも取れるような絶叫が瞬く間に辺り一帯に広まって――選手一同は一人残らず地面へとスッ転んだ。
見事なまでの将棋倒し。ドミノのように連鎖が連鎖を生んで、一気に『ぱよえ~ん』だ。落ちゲーなら全消しだな、これは。大連鎖だ。
「……ジネット」
「は、はい……」
「お前……いくら運動会だからって、加速させ過ぎだぞ……天然」
「加速させているつもりはないのですが…………すみません」
折り重なって、こんがらがって、誰が誰の上に乗っているのか、自分が誰の動きを制限しているのか、もはや誰にも分からなくなり、誰一人として起き上がれなくなった。
こんな場面になって、しみじみと思ってしまった。
あぁ。イネスとデボラが不参加でよかった。
あいつらなら、このこんがらがった状況をうまく解消してくれるだろうな――と。
「あの、ヤシロさん。怪我はありませんか? どこか痛むところは?」
俺を巻き込んで倒れたジネット。
幸いなのは、咄嗟に体をひねったおかげでジネットを下敷きにせずに済んだことだ。
現在ジネットは、俺の胸の上に乗っかっている。
抱き合うような格好ではなく、『×』の字型なのが少々残念ではあるが。
それでも、俺の胸の上にジネットの胸が乗っているわけで。
痛むところはないが……物凄く柔らかいとろこがあります!
なんというか、もう、最高です!
が、そんなこと言えるわけもなく。
「大丈夫だ。どこも痛くない。ジネットは?」
「はい……平気、なんですが……その……ちょっと、胸が……」
「痛むのか!? さすろうか!?」
「もう……っ、懺悔してください」
もそもそと、俺の胸に押し当てられる自身の胸を少しでもズラそうと体を動かすジネットだが、その程度でどうにか出来るサイズではない。
麻袋ジャンプはなくなったけれど……こんなサプライズを生み出してくれた障害物競争に感謝せずにはいられない。そんな心境の俺なのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!