異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加52話 ジネット、走る! -1-

公開日時: 2021年4月2日(金) 20:01
文字数:3,954

「次はいよいよわたしたちの番ですよ、ロレッタさん!」

「なんか、思い出したかのように障害物競走が再開されたですね」

 

 そうなのだ。

 怪我人が出てしまったことで、それらの救護と協議のために競技は一時中断されていたのだが、とりあえず『一人を抱えてもう一人が走るのは禁止』というルールが設けられて競技は再開することとなった。

 

 で、再開一発目のレースがジネットとロレッタの参加するレースというわけだ。

 

「なんかもう、すっかり攻略法とか忘れちゃったです」

「わたしも、休憩を挟んだことで出来そうな感じがすっかりなくなってしまいました」

「……えっ?」

「マグダ、『出来そうな感じあったの!?』みたいな顔してやんな。ジネット的にはイケそう感があったんだよ」

 

 とはいえ、休憩を挟んでテンションが落ちてしまったのは全チーム一緒なので、それで不平不満を言うわけにはいかない。

 

「すみませんでした。私が考えなしな行動を取ってしまったばっかりに」

「モリーのせいじゃねぇよ」

「そうだよ、モリー。気にする必要はないさ。むしろ、そのことに気付けなかったボクたち運営委員会の方にこそ責任はある」

「いや、出来もしないくせに『これで楽勝~』とか調子に乗った選手どもが一番悪い」

「ヤシロ、話をまとめにくくなるから余計なこと言わないで」

 

 だって、俺は別に悪くないもんよ。

 けど、モリーが気に病む必要は一切ない。

 

 ……って言っても気にするんだろうなぁ、モリーは。

 

「モリーはもう少し兄貴を見習えよ」

「えっ!? ど、どど、どの辺りをで、でで、ですか?」

「ちょっ、モリー!? 動揺し過ぎだし! 見習うとこいっぱいあんべ、オレ!?」

「犯罪行為を開き直って恥じない図太い神経とかな」

「犯罪行為なんかしてねーし!」

「ごめんなさい、ヤシロさん。私、ストーカーを正当化できるような無神経にはなれそうもありません」

「ひどーい! オレの身内が一番ひどいわー、マジで!」

 

 むしろお前がモリーを見習えと毎日念仏のように言い聞かせたいっつの。

 

「英雄の言う通りだぜ」

 

 と、なぜか俺の隣にぴたりと寄り添うバルバラ。

 

「アーシも全然、あんたに怒っちゃいねぇしよ」

「でも……」

「ほら、そんな顔すんなよ。あんたはきっと笑ってた方が可愛いヤツだ。テレサと一緒だな。だから笑ってろ。な?」

「……あり、がとう、ございます」

「ん。気にすんな」

 

 ぱしぱしとモリーの肩を叩いて「どうよ?」みたいな顔をこちらに向けてくるバルバラ。

 え、それって、俺に対するアピールなの?

 

「英雄って、こういう気の利く女がいいんだろ? おっぱいの次に」

「どこ情報だ、それは?」

「えっと……ヤシロさんは料理上手な方がお好きなのではないんですか?」

 

 ほほう、モリーよ。随分と的を絞った意見だな。

 それはどこ情報だ……って、お前が勝手に思い込んでいるだけだよな、な? ん?

 

「英雄」

「んだよ」

「アーシ、トウモロコシ湯がけるぞ」

「だからどうした!?」

「四回に三回は失敗するけど」

「100%になってから出来ると豪語しやがれ」

「違うんだよ! かーちゃんに『湯がく』ってなんだって聞いたら『さっと熱湯に通すことだ』って教えてくれたから、トウモロコシをさっと熱湯に通したら、すんっっっげぇ硬かったんだよ」

「トウモロコシは湯がくって言うけど、結構な時間茹でなきゃいけないんだよ!」

「紛らわしいんだよ!」

「俺に言うな!」

 

 女将さんは『炊く』って言ってたよ。

 ヤップロックんとこでは『湯がく』って言ってるみたいだけどな。

 あと、北海道に行った時に「湯がいたトウモロコシ」って言ってた。本場がそう言ってるんだから湯がくでいいんだ、きっとな。

 

 そんな、俺にべったりなバルバラを見て、モリーが顎を摘まんで少しの間黙考する。

 

「あの、ヤシロさん……たぶん違うと思うんですけど…………まさか?」

「うん、モリー。お察しの通り違うから」

 

 さすがモリーは察しがいい。

 このややこしい状況を正確に理解してくれたようだ。

 

 俺のせいじゃないのに、俺が物凄く面倒くさい目に遭っているってことをな。

 

「まぁ、あれだ。怪我人のほとんどが自業自得を理解してるし、誰もモリーを責めたりしねぇよ」

「……それが事実だとしても」

「もし、どうしようにもなくムカついたら、その時は兄貴に責任取らせるから気にすんな」

「ちょっ、あんちゃん!? 何言ってんの、マジで!?」

「未成年である妹の行動は、保護者がきちんと責任取るべきだろうが」

「すんげー正論きたー!?」

「……そういうこと、でしたら」

「モリーも納得しちゃったー!?」

「つまりアーシは、ムカついた時は兄貴の方を殴ればいいんだな?」

「いろんなもん吹っ飛ばして雑な解釈する人いたー!?」

 

 少しだけ表情が軽くなったモリー。

 この娘の場合、本当に兄貴に責任をおっ被せればいいなんて考えてなくて、周りがそこまで気を遣ってくれているんだからいつまでも自分が沈んでちゃダメだって判断したんだろうな。

 そのきっかけとしては、パーシー弄りは打ってつけだっただろう。

 

「モリー、青組に戻るぞ。あんちゃんのそばにいるとオレがどんどん酷い目に遭うんだ」

「遭えばいいじゃない。私、ヤシロさんのそばにいるの好きだよ」

「ひでーよ、モリー!?」

 

 兄貴をからかうモリー。

 ただ、ここには今ちょーっとそういう冗談が汲み取れない面倒なヤツがいるんだよな……

 

「なんだ? お前も英雄が好きなのか?」

 

 バルバラが全身から闘気を立ち上らせる。

 モリーはさっと顔色を変え、そして至って平静を装って言う。

 

「恋というニュアンスは含んでいません」

「そっか。ならよかった! やっぱあんたはいいヤツだなぁ」

 

 勝手に肩を組んでにこにこ顔をこすりつけるバルバラ。

 モリー。迷惑なら迷惑って言っていいんだぞ。

 

 しかし、参ったことに。

 俺も含めて、エステラやジネット、マグダやロレッタでさえもこの状況のバルバラをどう嗜めるのがベストなのか、探りあぐねているのだ。

 どう対処すればいいんだろうか、こいつ?

 

「よし、パーシー。バルバラとモリーを連れて青組へ帰れ」

「余計なの入れんなし!?」

 

 余計なのって……お前、ネフェリー以外にはホント酷いよな。

 絶対モテないぞ。顔はそこそこ整ってるのに。つかモテるな。ムカつくから。

 

「……じゃ、バルバラをよろしく、パーシー」

「よろしくです、パーシーさん」

「おいおーい、陽だまり亭女子ーズ!? オレの意見もたまには聞いてー!」

「何を騒いでるの、みんな?」

 

 とことこと、ネフェリーがやって来る。

 トレーシーはいない。まだ足を結んでいないようだ。まぁ入場の時盛大にコケたしな。

 

「おっ、ネフェリーか! さっきはあんがとな。アーシ、勉強になったぞ」

「ありがとうって言われるようなことはしてないけどね……」

「ネフェリーさん、こいつ……いや、この人となんかあったんですか?」

「あったというか……」

「『恋』について教えてもらったんだ」

「ちょっ!? バルバラ、恥ずかしいからやめてよ、もう!」

「恥ずかしいのか?」

「恥ずかしいよ!」

 

 チラチラと、こちらを窺うネフェリー。

 恋とかって、男子の前では話したくないよなぁ。

 つか、マジで小学校のニワトリ思い出すなぁ、その動き。

 

「男の子のいないところで、ね」

「おう。じゃあまたいろいろ教えてくれな」

 

 俺たちから離れてバルバラに耳打ちをして、強めに釘を刺すネフェリー。

 その行動がどう映ったのか知らないが、パーシーが見当違いなことを聞いてくる。

 

「なぁ、あんちゃん。あの女、ネフェリーさんと仲いいん?」

「あぁ、そうだな。これから親友になるかもしれんから親切にしといた方がいいかもな」

 

 なので適当なことを言っておいた。

 どうせ今日の発言に関しては『精霊の審判』対象外だ。

 そもそも「なるかもしれない」は嘘にはならない。

 

 だから。

 

「そっか! じゃあ親切にしてくる!」

 

 と、パーシーの鼻息が荒くなったところで、俺には一切の責任がない。

 

「なぁ、あんた。バルバラさんだっけ? こっち来なよ。レースがよく見える場所があるんだぜ」

「いや、アーシは英雄の隣にいないと」

「あんちゃんはまだレースが済んでないんだ。近くで騒がれちゃ迷惑だって、マジで」

「英雄は迷惑なんて言ってないぞ!」

「口にしなくても、心ん中でちょっとでもそう思われたら嫌じゃね? 好かれたいって想いが暴走して真逆の結果とか、笑えねーっしょ、マジで」

「……兄ちゃん、それが分かってるのにどうして……?」

 

 モリー。

 お前の兄貴はな、一般的な理屈は分かっているんだよ。

 ただ、自分のことが客観的に見られないだけで。

 

「オレさ、なかなか振り向いてくれない相手に、少しでもよく見られたいって努力するその気持ち、理解できっからよ。力になるぜ、マジで」

 

 パーシーがまともなことを言っている……ように見える。

 これがすべてネフェリーに対する『オレ、あなたの友達にも優しくできる男なんですよアピール』だってのを度外視できれば、な。

 

 で、自分のことに鈍感なネフェリーは。

 

「パーシー君って、面倒見がいい人なんだね」

 

 なんて罪作りな発言をして、パーシーが「むはぁあ! ポイントゲットぉ!」とか拳を突き上げた瞬間を狙ったかのように顔を背けて――

 

「……けど、今のバルバラを応援されるのって、なんか複雑というか……微妙なんだよね……」

 

 と、難しい顔をしてぶつぶつ言ったりしていた。

 

 なにここ?

 四角関係五角関係のややこしい少女漫画の世界かなにか?

 もう誰でもいいから勝手にくっつけよ、面倒くせぇ!

 まぁ、くっついたら叩き潰してやるけども!

 

「ヤシロ。今、思いっきり自分を棚に上げているような顔をしていなかったかい?」

「エステラ、お前は俺研究家か? 表情筋の動きごときで俺の感情を読み取ろうとしてんじゃねぇよ」

 

 バルバラを浮かれるパーシーに預け、こちらはこちらでレース再開に向けて準備を始める。

 まずはアドバイスだな。

 

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