異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

111話 狩猟ギルドの事情 -3-

公開日時: 2021年1月17日(日) 20:01
文字数:2,281

「どう思う、ヤシロ?」

「考えられるとすれば……」

 

 マグダの狩ったボナコンを『四十二区の手柄』と考え、これ以上『四十二区の狩猟ギルド』に手柄を立てさせたくない、とか?

 でなければ、……あぁ、まさか…………

 

「俺らを通さず勝手なことするな的なしょっぼい話か?」

 

 要するに、金が動きそうなので一枚噛ませろと……

 確かに、四十二区内の魔獣討伐を請け負うために派遣されている支部だと考えるなら、外壁の外にいる魔獣討伐は管轄外と言えなくもない。

 そうなった際、「そっちで勝手に編成決めてんじゃねぇよ」と本部が言ってくる可能性も無いとは言えない。

 もしそうなのだとしたら……

 

「紹介料を払えってことか?」

「知らん」

 

 不愛想にウッセが吐き捨てる。

 こいつも理不尽な本部の命令に腹を立てているのかもしれない。

 

「お前ら、本当は魔獣のスワームを討伐したかったんだろ?」

「…………あぁ」

「それなのに、突然本部から待ったがかかった」

「……そうだよ」

「しかも、詳しい理由は告げられていない」

「おう」

「おまけに、圧力までかけられた……」

「ったく、冗談じゃねぇよな。逆らえばギルドから追放だなんてよ!」

「……あぁ。酷い話だな」

 

 ウッセは気付いていない。

 こちらが得ていない情報をぽろりしてしまったことを。

 

 本部からの圧力か。

 魔獣のスワーム討伐を邪魔する正当な理由などない。

 考えられるのは名誉か金銭面くらいか……

 

 まさか、狩猟ギルドが四十二区を破壊するために呼び集めた魔獣たちってことはないだろうし……

 

「街門が出来れば、俺たちは仕事が格段にしやすくなるんだ。出来ることなら協力してぇさ! だが、そうすれば街門が出来る頃には俺たちは失業者だ。出入りしやすい門があっても、狩猟する許可が下りなきゃ意味がねぇ…………くそっ! 何か俺らに恨みでもあんのか、本部の連中は!」

 

 ウッセとて、納得しているわけではないようだ。

 ってことは、上を納得させられれば、魔獣のスワームを討伐することは出来そうだな。

 

 やれやれ。魔獣の前に人間を討伐する羽目になるとはな。

 

「エステラ。狩猟ギルドのギルド長にコンタクトは取れるか?」

「コネが無いなぁ……まぁ、不可能ではないんだけど……」

 

 ものすご~~~~~~~~く嫌そうな顔をする。

 よほど取りたくない打開策があるようだ。

 打開策があるなら無理にでも取ってもらうけどな。

 

「全区を股にかけるギルドは一定以上の権力を有しているってのは、前に話したよね?」

「木こりギルドの時に聞いたな」

 

 区内で収まるギルドとは違い、全区にまたがって活動をするギルドは区をまたぐ関係で全区の領主の承認を得てギルドを設立している。

 それ故に、どこか一つの区がそのギルドに強引に干渉することは出来ないのだ。

 それを認めると区同士の戦争に繋がるからな。

 

「狩猟ギルドは、そんな全区を股にかけるギルドで、権力……まぁ、発言権と言い換えてもいいけど……そういうのが結構強いギルドなんだ」

 

 肉は全区で食うからな。

 しかも、魔獣の肉は品質が良く、そのため牛や豚、鶏といった日本でお馴染みの食肉はシェアのほとんどを魔獣肉に奪われている状況だ。魔獣肉が手に入らなくなることは食生活に大きな打撃を与えることになる。

 どの区の領主も、狩猟ギルドにはあまり逆らいたくはないだろう。

 

「それで、そんな発言力を持ったギルドが本拠地を決める決め手はなんだと思う?」

「街門か?」

 

 木こりギルドがそうだった。

 よく使う街門があるからという理由で四十区に根を下ろしている。本来の位よりも落ちる区であるにも関わらずだ。

 

「狩猟ギルドも似たような理由から、四十一区にいるんだよ」

 

 マグダと狩りに行った時に通った街門だな。確かに、あの門から出れば魔獣の棲む森はすぐそこだ。

 

「……で、そういう発言権の強いギルドを、領主は手放したくないと考えているから、いろいろ融通をするよね、普通に考えて」

「いるだけで利益が出るからな」

 

 四十区で言えば、木こりギルドのおかげでトルベック工務店、それに釣られたラグジュアリー、さらにそれに釣られた貴族や富豪が集まってきている。そして、それらが集まることで新たな産業が生まれ活性化していく。

 メリットだらけなのだ。

 

「そうなれば、おのずと領主と発言力のあるギルド長は懇意になっていく」

「まぁ、仲良くしておいて損はないからな、お互いに」

 

 四十区の領主デミリーと、木こりギルドのギルド長ハビエルは親友と言うくらいの仲だ。

 

「…………はぁ」

 

 そこでエステラは盛大なため息を吐き、苦虫を噛み潰して大量に滲み出してきた苦い汁をソムリエのような感じでテイスティングでもしたかのような表情を浮かべる。

 すげぇ、嫌そうな顔。

 辞書の『嫌そうな顔』って項目に参考画像として載せたいレベルの嫌な顔だ。

 

「だから、四十一区の領主に話をつければ狩猟ギルドのギルド長に話を通してもらえるかもしれないよ」

「……よく分かった。お前はその四十一区の領主を蛇蝎の如く嫌っているわけだな」

 

 エステラがここまで嫌うようなヤツだ。どういう人種の人間か、見なくても分かる。

 

「あ~ぁ、なるべく接点を持たないように生きていたのに……人生ってままならないよねぇ~」

 

 ちょっとやけくそになっている。

 そんなに嫌なのかよ?

 

 まぁ、隣り合う区の領主同士だ。何かといざこざがあったのだろう。

 幼少期からの植えつけられた負の感情は大人になっても解消されるどころか、時間が経った分複雑化して修復不可能になるって言うしな。

 まぁ、あり得るな。

 

 けどまぁ、過去のいざこざよりも目の前のトラブルだ。

 

「んじゃまぁ、エステラ。早速アポを取ってくれるか、その四十一区の領主ってヤツにな」

 

 

 

 

 

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