異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

168話 商談と報告 -2-

公開日時: 2021年3月15日(月) 20:01
文字数:2,055

「ヤシロ、待ってたぞ!」

「ヤシロ、待ってたさね!」

 

 陽だまり亭を出ると、そこにデリアとノーマが待ち構えていた。

 

「今すぐ川に来てくれ! 見せたいものがあるんだ!」

「今すぐ川に来ておくれな! 見せたいものがあるんさね!」

 

 右と左で、同時に同じ内容の言葉を浴びせかけられる。

 なんだよ、お前ら二人して。

 

「店長、ちょっとヤシロ借りてくぞ!」

「店長さん、ちょぃとヤシロを借りていくさね!」

 

 両腕をがっしりと掴まれ、俺は巨乳美女獣人二人に担ぎ上げられるように連行されていった。

 遠ざかっていくジネットから、「では、教会でお待ちしてますね~!」という見当違いな言葉が飛んでくる。いやいや、とりあえず止めろよ、こいつらの暴走を。

 

 カップルのように腕を絡ませてくるデリアとノーマ。

 カップルのようではないことといえば、デリアとノーマの顔がすげぇ必死だってことと、腕が物凄い力で拘束されているってこと、あと、体の向きが逆で俺が後ろ向きに進んでいるってことくらいか。

 

「つか、速い! 怖い! ちょっと落ち着け! 俺、足ついてないから! ずっと浮きっぱなしだから!」

 

 まさに、抱え上げられて、俺は川へと連行されていく。

 

 

 

 

 

 

「見てくれ、ヤシロ! 川の流れが戻ったんだ! さすがヤシロだ! ちゃんと水門を開けてきてくれたんだな!」

 

 物の数分でたどり着いた河原で、大はしゃぎするデリアをよそに俺は河原に四肢をついて蹲っていた。

 ……怖かった。安全バーのないジェットコースターって、全然楽しめない。

 

「昨日の昼くらいから水の流れが元に戻ったんだよ! ニュータウンを見てきたけど、ちゃんと滝もあったし、その下でロレッタの妹たちがわらわら水浴びしてたぞ! 裸で!」

 

 いや、「裸で!」って情報はいらねぇな……俺はそこに興味を示すような性癖は持ち合わせてないんでな。

 

 なんとか気を持ち直して顔を上げると、確かに川に勢いが戻っていた。

 まだまだ水量は少ないが、きちんと流れている。これだけ水があれば、足漕ぎ水車を使わなくても水路にも水が流れていくだろう。

 

「そっちが終わったんなら、次はアタシの番さね!」

 

 閉じられていた水門が開き、嬉しさのあまり暴走してしまったのであろうデリアはなんとなく分かるのだが、なぜノーマまでもが俺を強引に引っ張ってきたのか。

 一体、河原で俺に見せたい物ってのはなんだ?

 …………はっ!? まさか!

 

「新作のビキニか!?」

「違うさね!? 水着なんか持ってきてないさよ!」

「じゃあ何着て泳ぐんだよ!?」

「泳がないさね!」

 

 別に、シャツのまま水に入ったっていいんだよ!

 それはそれで、なんだかとっても青春だから!

 

「子供たちが水車で遊んでるって聞いてねぇ」

 

 得意げに煙管を取り出し、煙をくゆらせるノーマ。

 水車の前まで移動して、この前まではなかった『ある物』にぽんっと手をかける。

 

「アタシが手すりを作ってやったさよ! これで、転落する危険はなくなったさね! 子供らも存分に遊べるさよ!」

 

 水車の周りには、金属製の柵と手すりが取り付けられていた。

 ……どうしても一枚噛みたかったのか。仲間外れが嫌だったのか。

 

「イカリ作ってやれよ……」

「そ、それは鋭意作製中さね! だ、だいたい、あんなでかいもんは一日やそこらで出来るもんじゃないから、合間に別のことしたって平気なんさよ!」

「っていうか、ガキどもは自分から飛び込んだりしてんぞ?」

「と、飛び込みと転落は違うんさよ!」

 

 ノーマが必死だ。

 こいつも若干イメルダと近いもんがあるな……ウーマロに対するライバル心とか。

 

 まったく……

 

「イカリを早く終わらせてくれないと困るんだよなぁ」

「なんでヤシロが困るんさね? マーシャが、『次の航海は一ヶ月先なの~☆』って言ってたから、それまでに納品できれば問題ないんさよ」

「え、なに、今のマーシャの真似? もう一回やって!」

「い、嫌さね!? 別に真似するつもりなんかなかったさよ!」

「いやぁ、ちょっと可愛かったんだが。もう一回見たいなぁ~……ちらっ」

「かっ…………可愛いとか、言ったって…………そんなことで……」

 

 じぃ~っと見つめると、ノーマの手が次第にわさわさと忙しなく動き出し、煙管を握ったり回したりしまったり出したりし始める。

 でも、まだ、じぃ~……

 

「ちゃっ、ちゃんと練習……してから、さね」

 

 ノーマが折れた。

 というか、練習するのか、マーシャのモノマネを。……その練習が見てみたいな。

 

「と、とにかく! イカリに関してはちゃんと計画立てて作ってるから心配いらないんさよ」

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 別に俺はイカリの完成をせっつきたいわけではない。

 こいつにも適度な仕事を与えておかないと、「子供のため」とか言って河原全体に安全バーとか付けかねないからな。

 

 ちょうど欲しい物も出来たし、それを依頼しておこう。

 

「ちょっと頼みたい物があるんだよ」

「作るさねっ!」

 

 おぉう……ウーマロ並みの即決力。

 あれ? 四十二区って、今仕事ないの? あるよな? むしろ前より忙しくなってるはずだよな?

 ノーマんとこは、街門の補強部品とか、兵士の武具とか、いろいろ手がけているはずなんだけどなぁ……

 

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