異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加48話 過程と結果とドラムロール -2-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:4,047

「それにしても、マグダとジネットは大手柄だな」

「……当然」

「わたしは、偶然の賜ですので」

 

 胸を張るマグダと謙遜するジネット。

 

「何言ってんだよ、ジネット。偶然だろうが奇跡だろうが、100ポイントゲットしたのはお前の功績だ。もっと胸を張れって」

「ですが、自慢するようなことでは……」

「胸張れって! 突き出せって! さらけ出してみようよ、ねぇ!」

「意味が変わってきてますよ!」

 

 もっと誇らしげに見せびらかしたっていいのに。

 

「あたしは、妹(50ポイント)を一人捕まえるのがやっとだったです……姉の知らぬ間に、みんな成長してたですね……しみじみ」

 

 弟妹の成長に涙する長女……というていで微妙な成績を誤魔化すロレッタ。

 長女なら十人くらいまとめて捕まえろよ。

 

「老化が始まったんじゃねぇの?」

「失敬ですよ、お兄ちゃん!? あの子たちの成長が著しいですよ!」

「確かに、苦戦を強いられました」

「ましたね」

 

 イネスとデボラが少々疲れた顔でやって来る。

 

「我々で妹さんを二人捕まえました」

「イネスさんとコンビを組んでようやく、という感じでしたけれど」

「けど、二人できっちり100ポイント。たいしたもんだ」

「アーシとモコカで一人捕まえたぜ!」

「バルバラがもうちょっと頭使ってりゃ、もう一人くらいいけたっつーのにですけれど」

 

 バルバラ・モコカペアも一人捕まえて50ポイント。

 どうやら白組は高得点ハムっ子に狙いを定めていたらしい。マグダの指示だろうか。

 

「オイラたちも、ギリギリ一人捕まえたッス!」

「オレ、頑張った」

「……な、内臓、口から出そうです……ぅっぷ!」

 

 ウーマロ率いるトルベック工務店チームは総出で弟を一人捕まえたらしい。

 グーズーヤが死にかけているが、それと引き替えに50ポイント手に入ったのなら安いものだ。

 

「グーズーヤ、安らかに……」

「死なないですよ!? ……次の競技は、出られそうにないですけど……はぁはぁ」

 

 細長い体をグラウンドの土の上に横たえる。

 綱引きに使えそうだな、こいつ。

 獣人族が引っ張り合って耐えられる綱がなかったので断念した綱引きだったが……グーズーヤ引きなら出来たかもしれない。

 万が一のことがあっても、グーズーヤなら、まぁギリギリセーフ?

 

「で、お前は何をやっていたんだ、モーマット?」

「お、俺たちだって、一人捕まえたぜ! ……10ポイントだけどな」

 

 モーマットたち農家の連中は、高得点を端っから諦めて、それでも3ポイントよりかは10ポイントと、年長のハムっ子を狙っていたようなのだが、結果は一人だったと。

 

「ちょっとした貢献をありがとう」

「ちょっとしたとか言うな!」

 

 まぁまぁ、いいんじゃないの。10ポイント。

 大切だよ10ポイント。

 

「鼻息だけ人一倍荒かったくせに1ポイントも稼げなかったどこぞのお貴族様に比べれば、じゅ~~~~ぶん役に立ったよ」

「やかましいと言っているだろう、オオバ!」

 

 メドラのもとから逃げ帰ってきたリカルドが偉そうに鼻息を吹き出す。

 リカルドのヤツ、最初はハム摩呂を狙っていたのに無理だと分かるや否や50ポイントの、それも妹にターゲットを変えて追いかけ回し、あまつさえその妹すら捕まえられなかったのだ。

 

「お前、なんで参加したの?」

「貴様が最初に卑怯な手を使って退場になったからだろうが!」

 

 あぁ、そういや、そーゆーことになってるんだっけな、表向きは。

 へいへい。分かったよ。ちゃんと称賛してやるよ、まったくこれだから貴族様は。

 

「よっ、リカルド。ナイス数合わせ」

「ケンカ売ってんのか、貴様!?」

 

 これ以上ないくらいに褒めてやったのに。

 お前を褒められる最上限の言葉が今のだぞ? 何が不服なのやら。

 

「集計が出たようです」

 

 イネスが言って、デボラが得点を書き写していく。

 ほほぅ、これはなかなか……

 

「朗報です」

 

 デボラがにんまりと微笑んでこの競技の獲得ポイントを発表していく。

 

「でけでけでけでけ……でん!」

「いや、そういうのいいから」

「ででん!」

「茶々入れられたからって仕切り直さなくていいから!」

「…………ぷぅ」

 

 拗ねるなデボラ!

 分かった! ちゃんと聞くから!

 

「あ~、悪い。イネス。ドラムロールやってやってくれ」

 

 まぁ、『ドラムロール』がどう訳されているのか、そもそもこの街にドラムロールがあるのかは知らんが、うまいこと伝わったようで、イネスは明確な首肯をくれた。

 

「では……どぅるるるるるる!」

「「「巻き舌がすげぇ!?」」」

 

 別の生き物なんじゃないかと思えるくらいぷるぷるした音色を鳴らす巻き舌。

 給仕長って、こんなスキルも必要とされんのか?

 

「でこぽん!」

「『ででん!』とか『じゃん!』でいいだろ!?」

 

 なんで柑橘系だ!?

 巻き舌が気持ち悪いくらいうまいのに、最後がちょっと残念って……なんかイネスらしいって気がしてきたよ。

 

「第四位は黄組の172ポイントです」

 

 おぉっと、カウントダウン形式っぽいぞ!?

 何をちょっとエンターテイメントしてんだ。

 もう、その嬉しがりようで結果は分かったようなもんだが……

 

「黄組は、メドラギルド長の欠場を受け、手堅くポイントを稼ぐ作戦へと切り替えたようです。チームリーダーのパウラさんと、未婚の人妻ノーマさんの的確な指示の下うまく連携が取れていましたが、やはり決定打に欠ける結果となったようです」

 

 とは、イネスの解説だ。……が、『未婚の人妻』って。ノーマが聞いたら怒るぞ。言い得て妙だけれども。

 黄組は超高得点のハムっ子を端から相手にせず、50ポイントと10ポイントのハムっ子にターゲットを絞っていたようだ。

 それでも、ハムっ子を捕まえるのは相当難しい。

 作戦の意図は読み取れるが、結果が伴わなかったってところだな。

 

 黄組が捕まえたハムっ子の内訳は――

 

 100ポイント:0人

 50ポイント:2人

 10ポイント:6人

 3ポイント:4人

 

 やはり、大黒柱の欠場が最後まで尾を引いたのだろう。そんな結果だった。

 

「そして、第三位は……」

「どぅるるるるるるるるる……ぺこん!」

 

 なんかヘコんだ、今!?

 音変えるのやめてくれるかな!? 集中できないから!

 

「赤組、179ポイントです」

 

 デボラの発表に、選手たちが少しざわついた。

 意外な結果だったらしい。

 まぁ、見た目的にはかなりいい線いってそうな雰囲気だったもんな、赤組は。

 赤組はとにかくたくさんハムっ子を捕まえていた。

 けど、点数で見れば三位だった。

 

 その理由は、赤組の作戦にあった。

 

「赤組は、生花ギルドの大きいお姉さんたちが中心となり、幼いハムっ子をたくさんゲットする作戦に出たようです。子供の扱いに慣れているという長所を活かし、4チームの内一番多くのハムっ子を捕まえたチームとなりました」

 

 赤組は、もとよりハムっ子に対抗できるような人材がほとんどいない。

 木こりはパワー重視でスピードはからっきしだし、川漁ギルドの面々も似たようなもんだ。水中なら、話は別だったかもしれないけれど。

 それで小さいポイントをせこせこ稼ぐ作戦に出たのだが……

 

 赤組の内訳は――

 

 100ポイント:0人

 50ポイント:2人

 10ポイント:4人

 3ポイント:13人

 

 確かに、五十人中十九人ゲットは大したものだ。

 しかし、如何せんポイントが低かった。

 3ポイントのハムっ子を十三人捕まえても39ポイント。

 50ポイントのハムっ子一人分にも満たないのだ。

 

 その作戦をとるなら、3ポイントのハムっ子を1チームで独占くらいはしておきたいところだ。

 

「そして、いよいよ……第二位の発表です」

「どきどきしますね、デボラさん」

「まったくですね、イネスさん」

「果たして、白組の順位は……」

「一位か……二位か……!」

 

 なんか煽り出したぞ、あの給仕長ズ。

 ジネットが真に受けて「どきどき……」みたいな顔してるが、いや、もう結果分かってるから。貼り出されてるしね。得点ボードも更新されたし。

 

「第二位の発表は……」

「……次の競技の後で!」

「今言えや!」

 

 引っ張り過ぎなんだよ!

 次の競技に行く前にすっきり終わらせてくれるかなぁ!?

 

「なるほどだぜです。……えんたぁていめんとが大事……っと」

 

 何をメモってるんだ、モコカ?

 給仕の心得か?

 丸めて捨ててしまえ、そんなメモ。

 

「では、第二位の発表です」

「どぅるるるるるるるるるるる…………るるるるるる!」

 

 フェイントとかいいから!

 なに澄ました顔で面白いことしてんのイネス!?

 出会った頃の、氷のような冷たい視線どこいったの!?

 

「るるるる…………じょん!」

 

 惜しい!

「じゃん!」だな、普通は!?

『ジョン』だったらアメリカ辺りの人の名前だ!

 …………『ジャン』もそこら辺にいそうだな、くそ!

 

「青組、205ポイント!」

「と、いうことは?」

「はい、第一位は、我らが白組!」

「「驚異の、460ポイントです!!」」

 

 手を繋ぎ、繋いでいない方の手を大きく広げて、「じゃじゃーん!」とばかりにポーズを決める給仕長ズ。

 嬉しいんだな。

 自分たちが貢献した結果、大差を付けて一位になれたことが物凄く嬉しいんだな。

 もう分かるようになってきたよ、お前らの顔を見てると。

 

「青組は、最高難易度のハム摩呂さんにこだわり過ぎた結果、それ以外のハムっ子たちをゲットする余力が残っていませんでした」

「しかしながら、狩猟ギルドの意地を見せつけた場面もあり、かろうじて100ポイントのハムっ子を一人ゲットし、首の皮一枚で第二位にしがみ付いた形です」

 

 ウッセたちは、ハム摩呂の前に一人、100ポイントの弟をゲットしていた。

 そこまではさすが狩猟ギルド、って雰囲気だったのだが……ハム摩呂に翻弄されてその感動もすっかり薄れてしまっていた。

 やっぱ、終わりよければだな。

 最後で醜態を見せた連中は、哀れ、メドラの特訓行きだ。

 

「ペース配分を読み間違えたのが青組の敗因と言えるでしょう」

 

 そんな青組の内訳は――

 

 100ポイント:1人

 50ポイント:1人

 10ポイント:4人

 3ポイント:5人

 

 満遍なくゲットしているように見えて、その実合計十一人と、4チーム中三番手のゲット数でしかない。

 エステラが懸命に走り回っていたが、それでもカバーしきれなかったようだ。

 

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