で、もう一組残った騎馬というのが――
「ぁ……てんとうむしさん、じねっとさん」
――ミリィWith生花ギルドのお姉さん方(大きいお姉さんよりかは幼いお姉さんたち)だ。
騎馬戦後半戦にして、ついに激突する――ジネットVSミリィ!!
なんてほんわかした対戦カードなんだ!?
どうすんだ。じゃんけんで勝敗でも決めるのか?
にらめっこか? ずーっと見てられるぞ、その対戦。
でもまぁ、もう周りも暗いので。
「ミリィ。降参するなら今のうちだぞ」
「はぅ……で、でも、みりぃが頑張らないと、赤組が……」
「俺はミリィに手荒な真似をしたくないんだ」
「ぅう……で、でも……」
ミリィとは争えない。
なので、このように平和裏に勝負を付けてしまおう。
そんな俺の思惑を邪魔する者がいた。
そう、オバハン――いや、大きいお姉さんたちだ。
「あら、随分じゃない、ヤシロちゃん?」
「そうよ。あなた、ミリィちゃんの頑張りとか思いやりを無駄にする気なの?」
「がっかりだわ。ヤシロちゃんはミリィちゃんのこと大切にしてくれる人だと思っていたのに!」
「「「ミリィちゃんを困らせたら、私たちが承知しませんからね!」」」
うわぁ……オバハンども、うるせぇ~。
「そもそも、どうして店長さんと組んでいるの?」
「そうね。男女の組なんて珍しいわよね」
「いや、お前ら赤組だってイメルダが木こりの騎馬に……」
「彼女は特別! 普通の感性じゃ計れないもの、あのお嬢様」
はは……オバハン受けはちょっと悪いみたいだな。
近隣清掃とか出かけそうにないもんな、イメルダは。給仕が全部やるだろうし、仕事と家事を両立しているオバハ……奥様たちには印象が悪いのかもしれないな。
まぁ、飯でも食いながら二~三言話せばイメージも変わるだろうけどな。
イメルダのヤツ、全然お嬢様感ないし。
「それでね、ヤシロちゃん。私たちが聞きたいのは、もしヤシロちゃんが赤組だったら、もちろんミリィちゃんと組んだのよね? ――ってことなのよ」
「ぅえぅ!? ぁ、ぁのっ、ぉ姉さん……な、なにを……」
「いいのよ、ミリィちゃん。こういうことはハッキリさせた方が」
「そうよ。ハッキリさせましょう」
「ぁう、ぁの……でも……!」
ミリィが焦ってこちらにチラチラ視線を寄越してくる。が、そんな目で見られてもだな……
「「「どうなの、ヤシロちゃん! 西側が二つに分かれなかったら、あなたはミリィちゃんと店長さん、どっちと組んでいたの!? どっちを選ぶの!?」」」
ものっすごい圧力!?
つかお前ら、『ミリィのため』ぶってるけども、自分らが面白がってるだけじゃねぇか!
ゴシップはどこの世界でも奥様方の大好物なんだよな、まったく!
「イネス、デボラ! 一時撤退だ!」
「あっ! ダメよ、ヤシロちゃん! 逃がさないわよ!」
「やかましいわ! ジネットもミリィも困ってんだろうが! 勝手に想像して勝手にしゃべってろ! 俺の耳に届かないところでな!」
「あらっ! 勝手に想像していいの? じゃー私はね、やっぱりヤシロちゃんはちょ~っと抜けてる、守ってあげなきゃダメな感じの娘がいいと思うの。だからやっぱり選ぶのは――」
「ごっめーん! やっぱ黙ってくれる!? 翌朝には既成事実化して四十二区中に広まってそうだから!」
「あら、やだ! 四十二区中だなんて!」
「オールブルーム中よねぇ!」
「ねぇ!」
「「「やだもう、おほほほほ!」」」
オバハンうぜー!
「退くぞ、イネス、デボラ!」
「私も興味あります。コメツキ様は店長さんとミリィさん、もしくは私の誰を選ぶのです?」
「なんで自分入れた!?」
「私も気になります。選ぶのは私でもいいと思いますが」
「デボラ、日が沈んでアホの娘が進行したのか? 発言が支離滅裂だぞ?」
「「シリケツケツ? なんです、急にお尻発言を三回も」」
「お前ら今日一日で随分ポンコツ化しちゃったね!?」
それぞれの区に帰った後、ちゃんと今までどおりの仕事が出来るのか、ちょっと心配になってきたよ!
四十二区に来るとみんなどうして残念な仕上がりになっちゃうんだろうなぁ、もう!
「わーが騎士ー!」
「おぉ、リベカ!」
「わしと組んでもいいのじゃぞー!」
「遠いところから会話に参加すんじゃねぇよ! 分かりにくいわ!」
しかし、いいぞ。
リベカがこっちに来れば、オバハンの口撃をかわしてさっさと勝負を付けられる。
ミリィの鉢巻をさっさと奪ってしまえばいい。リベカが。
「リベカ! ミリィを相手に『可愛い対決』だ! ソフィー、後れを取るなよ!」
「リベカの可愛さは無限です! 後れなど取るはずがありません! ……それはそうと、リベカと組もうなどと……精霊神様が許しても私が許しませんからね?」
分かった分かった。
組みたいなんて、俺は一言も言ってないから。さっさと勝負を決めてくれ。
「おぬしが、我が永遠のライバルマグダが認めた『四十二区可愛い四天王』の一人、ミリィじゃな!?」
「ぅえええ!? み、みりぃ、そんなの、なった覚ぇなぃょう!?」
「我が永遠のライバルマグダが言っておったのじゃ! 『ミリィは可愛い四天王の中でも五本の指に入る実力者』じゃとな!」
「全員入れちゃうょ!? ってぃうか、一本余っちゃってるょ!?」
「相手にとって不足はないのじゃ! いざ、参るのじゃ!」
「ぅきゃぁああ!?」
猛然と突進するリベカに、ミリィが身を退いて身構える。
重心が後ろにずれて、両腕が顔を覆い隠すように持ち上がり、脇ががら空きになる。
その脇に「すい~っ」と手を入れて「ひょ~い」とミリィを抱き寄せた者がいた。
「わぁ~☆ ミリィちゃん、可愛い~! 一回抱っこしてみたかったんだよねぇ~☆」
マーシャだ。
いつの間にかミリィの背後に接近していて、さっくりとミリィを強奪していった。
「ぬゎああ! 海漁のギルド長よ! 可愛い対決の邪魔をしてはいかんのじゃ!」
「あは、ごめ~ん☆ だって、隙だらけで可愛かったんだも~ん☆」
「ぁ、ぁの……この場合、みりぃ……どぅ、なる……の?」
「騎馬から離れたから、落馬扱いで失格――だよな、審判」
競技中は審判役の給仕がグラウンドのあちらこちらに配置されている。
その内の一人に確認を取ると、「はい」と短い肯定の返事をくれた。
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