「ウッセ。お前の3サイズは?」
「『いやん、エッチ』」
「バカなのかい、君たちは!?」
あれ、今度は二対一か? ……えぇ、ウッセいらねぇ。
「真面目にやってよ!」
「だってよ、ウッセ」
「俺に言うな! お前の匙加減だろうが!」
「んじゃ、質問には答えてくれるんだな?」
「う…………」
俺の言葉に、ウッセは表情を曇らせる。
流れで言ってしまった言葉を後悔してももう遅い。
それに、言質を取って『精霊の審判』……なんて面倒くさい手順を踏まなくても、こいつ程度の単純なヤツなら、発言する言葉を並べるだけで何を考えているのか、何を隠しているのかなんて簡単に分かるってもんだ。
「まず、根本的な質問なんだが……お前は四十二区が好きか?」
「……まぁ、それなりにはな」
そんなウッセの回答に、エステラがにまにまし始める。
……ホント、なんでこいつの正体にみんな気付いてないんだろうな? こんなに分かりやすいのに。
「じゃあ、相当な理由が無い限りは、四十二区の発展の妨げになるようなことはしないってことだな?」
「四十二区が発展すりゃ、美味い酒も買いやすくなるしな」
「だが、今回は協力できない」
「…………」
黙秘。
つまり、そうせざるを得ない『相当な理由』があったわけだ。
「それは私怨によるものなのか?」
「違う。別にお前らに対して、今さらどうこういう感情は持っちゃいねぇよ」
「俺のことは好きか?」
「『ノー』だ!」
「…………巨乳と貧乳、どっちが好きだ?」
「断然巨乳だ」
「その質問、今必要だったかなぁ!?」
うっさい。
たとえ相手がウッセであっても、面と向かって嫌いと言われてちょっと傷付いた俺と同じくらいの心の傷をお前も負え。
「やる気はあるが出来ない、ってことでいいか?」
「…………」
「マグダに負けっぱなしでいいのか?」
「負けたわけじゃねぇよ! ただ最近ちょっと、あいつが頑張ってるだけで……俺もすぐにデカい獲物を仕留めてやるさ!」
「今がその絶好のチャンスだと思うが?」
「…………」
う~ん、手強いな。
じゃあ、ちょっと卑怯な手を使うか。
「今『逃げる』と、この次なんてないような気がするけどな」
「逃げんじゃねぇよ! 俺らだってやる気満々だったんだ! だが、上が…………っ!」
そこまで言って、ウッセはハッとした顔をした。
明らかに狼狽し、己の失言を悔やんでいる。
なるほど……『上』ね。
「だ、そうだ。エステラ」
「なるほどね……」
「あ、いや……あの、だな…………う、うう、上っつっても、ほら、いろいろあんだろ? 別に、お前らが思ってるような上じゃねぇかもしれないぜ? な? は、あは、あはは……」
苦しい言い訳をしやがって……
この流れで上っていやぁアレしかねぇだろうが。
「下着の上――すなわち、サイズの合うブラジャーがないから狩りに行けないんだな!? つまりお前は今、ノーブラだ!」
「『いやん、エッチ』」
「しょうもないことしなくていいから!」
俺たちを非難するエステラ。
貴様にその資格があるのか!?
「エステラだって、『かっぱかぱの上しかな~い』っていつも言ってるだろうが!?」
「言ってないよ!? 口にすると負けだと思ってるからね!」
「……お前らさぁ、遊ぶんなら帰ってくれねぇか?」
さっきは乗っかってきたウッセが手のひらを返していい子ちゃんぶりっこだ。
じゃあ、核心に触れるか。
「たしか、ここって支部なんだっけな?」
「…………」
ウッセの眉間に深いしわが刻まれる。
その顔は『イエス』だな。
「で、たしか、本部が四十一区にある……」
「…………」
ウッセの眉間が語る。『イエス』
「そいつらがなんかしてきやがったな?」
「…………っ!」
ウッセが堪らずといった感じで顔を背ける。
唇を噛み締めている。
その表情は『イエ……』いや、この角度から見ると羞恥に身を震わせているように見えなくもない……もしかしたら『いやん、エッチ』の可能性も……
「もしかして、お前……本部のヤツに、口にすることも憚られるような卑猥なことされたのか?」
「されてねぇわ! お前、やっぱバカだろう!?」
「なんだい、ウッセ。今頃気が付いたのかい?」
「あぁ! もういい! 分かったよ! 全部話してやらぁ! おい、お前ら、ドア閉めて外見張っとけ!」
「「「ヘイ!」」」
どこかのタガが外れたように、ウッセは大声を上げ椅子の背もたれに身を預けて大きく体を仰け反らせる。執務机にドカッドカッと足を乗せ、ガラの悪いヤクザの若頭みたいな雰囲気を醸し出す。……いや、ガラのいいヤクザの若頭とか見たことないけどな。
ギルド構成員がすべて捌け、執務室には俺たち三人だけが残った。
ドアが閉じられると、妙に圧迫感のある部屋になる。
「……お前の言う通りだよ」
ドアが閉じられ、しばらくした後、ウッセが低い声で呟く。
「……そんな卑猥なことを…………っ」
「違ぇ! お前一回脳みそ取り出して河原で洗ってこい!」
「そんなことしたら、川下がみんなお味噌汁になるだろう!?」
「なるかぁ!」
執務机を蹴り飛ばしてウッセががなり立てる。
ちょ~こわ~い。
相変わらず顔の怖い男だ。知り合いじゃなかったらおちょくれもしないところだ。
「なぁ……こいつは頭がいいのかバカなのかどっちなんだよ? マジで理解できねぇんだが」
ウッセがげんなりした表情でエステラに問いかける。
バカヤロウ。頭がいいかどうかの前に顔のよさを褒めろっての。
「要するに、魔獣のスワーム討伐に、本部から待ったがかかったってわけだね」
「あぁ……そうだよ」
「理由は?」
「…………聞かされてねぇ」
「……本当に?」
「ここまで話したんだ。今さら何を隠す必要もねぇよ!」
完全に開き直ったウッセが、執拗に問い詰めるエステラを睨む。
その目の中に真実味でも見出したのだろう、エステラが困った顔で肩をすくめた。
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