異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

60話 新たな企み -2-

公開日時: 2020年11月28日(土) 20:01
文字数:1,757

 ロウソクを持って行進する者たちの練習や、出店初体験となるこの街の連中にトラブルを未然に防ぐ方法や起こりやすい事故などをあらかじめ知らせて、円滑に祭りが執り行われるよう作法やマナーをレクチャーしてやらねば。


 いろいろとルールを決めておいた方が円滑に進むのだ。

 実行委員会を組織して祭りに慣れさせるのも手だな。そうすれば、年に何回か祭りが出来るかもしれない。うまくいけば、区外から客を呼べるようになるだろう。外貨……ではないが、区内に人と金が流入するのはありがたい。


「エステラ。主だった人物をリストアップしてくれないか? 直接交渉して実行委員に引き摺り込みたい」

「相変わらず表現が粗野ではあるけど……まぁ、目論みは正しいだろうね。あらかじめ発言力のある人物を引き込んでおけば、後々のトラブルをある程度防ぐことが出来るからね」

「ウチからは、ジネットを出す」

「ぅええっ!?」


 奇声を上げ、ジネットが立ち上がる。


「ヤ、ヤシロさんじゃないんですか!?」

「俺は実行委員長を引き受けるつもりだ。実行委員長と陽だまり亭代表を兼任すると角が立つかもしれないだろ?」


 ただでさえ祭りの場所が陽だまり亭のそばなのだ。不公平だと訴える声が上がるのは想像に難くない。

 だからこそのジネットだ。

 俺はあくまで『実行委員長』として意見を出す。あれこれと強引に決めてしまうこともあるだろう。

 そんな折り、もし不満が陽だまり亭に向いた場合…………対応するのがこのジネットだ。まぁ、大方の人間は毒気を抜かれてしまうことだろう。

 だって、ジネットだし。

 誰かに文句を言われても、「ぽや~ん」として「ふわぁ~」っとして「困りましたねぇ~」とか言っているのだ。誰がこいつの前で怒りを持続させられるというのだろうか。


「わ、わたしに務まるでしょうか、そんな大役が……」

「街を代表するわけじゃない。お前は陽だまり亭の代表だ。普段通りでいいんだよ」

「そう、なんですか?」

「あぁ。いつもみたいににこにこ笑って、十分に一回くらいおっぱいを『ぷるん』とさせていればいい」

「それくらいでしたら…………わたし、いつもそんなことしてませんよっ!?」


 いつもそうしていてくれたらいいのになぁという、俺のささやかな願望だ。


「四十二区の西側代表としてモーマット、東側代表はエステラ、お前に頼みたい」

「同じ区でも東西で生活環境や収入差が大きいからね。ある程度の意見をまとめてから双方ですり合わせれば、余計な摩擦は減らせるだろうね。分かった。引き受けるよ」


 説明をしなくても、こちらの意図するところを汲み取ってくれる。エステラは本当に頭の回転が速い。……そこでカロリー消費してるから胸に栄養が行ってないんじゃないだろうか?


「それから、ニュータウン代表でロレッタを参加させたい」

「ニュータウンは西側には含まれないのかい?」

「あそこは新しく出来たばかりだからな。これを機に過去のあれこれを払拭し、新たな名所に出来ればと思っているんだ。イメルダが気に入った宿もあるし、観光地に出来れば税収も増えるぞ」

「なるほどね。古くからいる発言権のある者たちの沽券も尊重しつつ、新しい風も吹かせるわけだね」

「この祭り自体が今誕生したばかりなんだ。古いだけでも、新参の勢いだけでもうまくはいかない。それらをうまく融合させることが重要なんだ」


 昔気質の職人しかいない街は廃れていく。

 かと言って、なんでもかんでも新しく、便利に変えればいいというわけでもない。

 過去を尊重し、その上で新しい技術へと昇華する。

 文化とは、そういうものなのだ。


「ベッコとウーマロたちにはフル稼働してもらうことになるから、マグダWith妹たちの『つるぺたシスターズ』を応援団として活動を支えてもらう」

「……なんだい、そのいかがわしさしか漂わないネーミングは?」

「なんだ、エステラ。入りたいのか?」

「入りたくないよっ!」

「加入には、とある厳しい規定があってそれをクリアしなければ………………合格だ、エステラ!」

「胸を見ながら言うんじゃないよ!」


 まぁ、エステラには山ほど仕事があるから、他人の応援などしている暇はない。

 エステラには、梃入れ時期に二期生として加入してもらうことになりそうだ。

 …………祭りのテーマソングとか作るか?

 いや、でも、ギターもないしな。今回は諦めるか。


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