「ややや! これはこれはヤシロ氏。拙者の働きを見に来てくれたでござるか! なんともはやありがたい!」
俺は今、ジネット、エステラと共にニューロードへと来ていた。
『BU』とのあれやこれやから幾日か経ち、ニューロードも徐々に完成へと近付いていた。随分と様になってきたものだ。
……だが、第一声がベッコというのがなんとなく気に入らない。
うまくは説明できないのだが、無性に気に入らない。
「うわっ、幸先悪ぃ……」みたいな気分だ。
「わぁ! 随分と綺麗になりましたね。あ、ヤシロさん見てください! 階段があんな綺麗に!」
ジネットが、意匠の施された階段を見て大はしゃぎしている。
というわけで。
俺は今、ジネット、エステラと共にニューロードへと来ていた。
『BU』とのあれやこれやから幾日か経ち、ニューロードも徐々に完成へと近付いていた。随分と様になってきたものだ。
「むむむっ!? なにやら、ヤシロ氏が『さっきのはなかったことにしよう』みたいな顔で仕切り直している気がするでござる」
えぇい、やかましい。
ちょろちょろと俺の視界に入ってくるな、この瓶底メガネ。いい加減金も入ってきてるんだから、そのぼさぼさ頭を綺麗にセットするくらいのオシャレ魂を開花させやがれ。いつまで経ってももっさい格好しやがって。
……とかいって、ベッコが背伸びしてオシャレファッションに身を包み始めたら指差して笑ってやるけども。
「君は、ベッコを見る度に活き活きとするよね。ベッコ弄りが趣味なのかい?」
「どうせ趣味で弄るなら畑か庭にするわ」
ベッコを弄っても何も収穫できないからな。
「けど、本当に立派になったね」
エステラが広いホールを見上げ、ぐるっと見回す。
高い天井に長く緩やかに延びる坂。
幅の広い坂道は、荷車が十分すれ違える幅を確保してあり、その両脇が階段状になっている。大きな洞窟をゆったりと回って昇っていく螺旋階段。
その一段一段にきめの細かい細工が施されている。
中世代の神殿じゃあるまいし、意匠にこだわり過ぎだろ……
「ホールのあの辺りに売店を設置するんだよ」
「そうなんですか? 楽しいお店になりそうですね」
エステラとジネットが楽しそうに話している。
壁や階段の飾りつけが終われば、吹き抜けのホールに店を構える予定だ。
土産物や名産品を陳列して、ここを通る連中に売りつけようという魂胆だ。
普段絶対買わないような謎のお菓子でも、空港や船の中に売っていたらつい買ってしまう、あの感覚を利用しようというわけだ。
なんとなく、「ここで買っておかなきゃ!」みたいな使命感が生まれやすい、あの感覚を。
「二十九区でも、お店をやられるんでしょうか?」
もし似たような店が二十九区側の出入り口付近に出来るなら、四十二区では手に入らない珍しい物を買いに行きたいです――とでも言いたげな顔をしている。
二十九区の店で買い物すると、豆を押しつけられるぞ。……ま、それは今後解消される見通しだけどな。
「店をやるにしても、まずはマーゥルの館を東側にずらさないといけないからな」
「そうでしたね」
「今は、庭の草花の引っ越しを行っているそうだよ」
エステラは、頻繁にマーゥルと連絡を取っているらしい。
何気にこいつも忙しく、連絡は主にとどけ~る1号頼みらしいが。
そんなエステラの情報によるならば、現在マーゥルは引っ越しの準備の真っ只中なのだそうだ。
ニューロードの出入り口がマーゥルの館の敷地内に設けられていることから、マーゥルの館を少しずらすのだ。
川から遠ざかることになるのだが、ニューロードの出入り口含め、そこいら一帯はみんなマーゥルが管理することになる。
とりあえず川は守られそうでよかった。川に何かあるとデリアが荒れるからな。バタフライ効果でオメロが川底に沈む結果になる。
「上は上で、出入り口に大きな建物を造るらしいよ」
「まぁ、あんなみすぼらしい出入り口じゃカッコつかないからな」
現在は、簡易的な真四角の出入り口が設けられている。
それを取り払い、豪勢な出入り口を建設するらしい。少し広めに造って休憩所でも併設すれば、この長い坂道を荷車を曳いて登ってきた客が金を落としていってくれるだろう。少々割高のドリンクでも提供してやればいい。
「それじゃあ、ウーマロさんは大忙しですね」
「ウーマロはマーゥルの館しか依頼されてないぞ」
「え、そうなんですか?」
「うん。出入り口の方は二十九区の大工が建設を担当するんだよ。彼らの仕事を根こそぎ奪うわけにはいかないからね」
エステラが苦笑し、ジネットが照れ笑いを浮かべる。
「わたし、大工さんって、トルベック工務店さんしかいないんじゃないかって気がしていました」
「何かある度にウーマロにやってもらっているからね、四十二区では」
「四十二区にいらした大工さんたちは、今どうされているんでしょうか?」
「トルベック工務店に吸収されたよ」
「そうなんですか?」
「うん。何組か工務店はあったんだけど、みんなトルベック工務店の傘下になったんだ」
「ウーマロさん、慕われているんですね」
「っていうか……」
エステラが、にやついた視線を俺に向けてくる。
……見んな。
「ウーマロといると、誰かさんが仕事と新しい技術を持ってきてくれるんだって」
「ほ~ぅ。奇特なヤツがいたもんだな」
「まったくだね。……くくっ」
嬉しそうな顔で笑いやがる。
な~にがそんなに嬉しいんだか。
「四十二区の大工がみんなトルベック工務店の傘下に入ったなら、四十区には逆らえなくなったな。不興を買えば大工がストライキを起こしかねないぞ。領主が下手を打ったみたいだな~、おいお~い、ど~すんだよ~」
「ふふん。何も分かってないようだね、ヤシロ」
イヤミをくれてやったのに、エステラは自信満々な顔で無い胸を張る。
「優位に立ったのはボクたちの方さ。……ウーマロが、マグダを裏切ると思うかい?」
「うわぁ……あくどいヤツ」
「君に言われると甚だしく心外だよ」
確かに、全大工を集めて「四十区と四十二区、どっちを取る?」って聞けば、まぁ、ウーマロはこっちにつくだろうし、ウーマロの配下もそれに伴って四十二区側に来るだろうな。……四十区、間接侵略されてんじゃねぇの?
エステラじゃなく、マグダに。
「デミリーオジ様がね、『いつまでも仲良くいようね』って」
くすくす笑ってエステラが言う。
したたかになったものだ。
ルシアやマーゥル、それにシラハみたいな強い女に会ってきたからかもな。くわばらくわばら……
「というわけで、帰るか」
「待ってくだされ、ヤシロ氏! なんとな~く、途中からうすうす勘付いてはいたではござるが、さりげな~く拙者の存在をなかったことにしようとしておいででござったな!? 分かるでござるぞ、そういうの!」
ちっ。
いちいち俺の視界に入り込んできやがる。
なんというか、頑張って施した意匠について聞いてほし~って感情が顔からにじみ出しまくってるから触れたくないんだよなぁ……
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