「おまたせしました~」
「「「わっぁああああああいっ!」」」
……にしても、あいつらのボリュームは常にMAXなんだな。いい加減耳が痛くなってきた。
「「「静かに食べなきゃ、オモチャ没収」」」
「「「…………」」」
母親の一言で、ガキどものボリュームがMINになった。いや、ゼロだ。
極端だなぁ……
「ミートソースパスタです」
うん。ちゃんと出てるな、パスタも。
「ごゆっくりどうぞ」
ママ友グループに頭を下げるジネット。
こちらを向いて笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ、エステラさん」
「やぁ。ボクもパスタをもらおうかな」
「素パスタとかどうだ?」
「ミートソースつけてよ!?」
えぇ……ソースいる派~?
まぁ、いらない派を見たことはないけどな。
「んで、街門の進捗具合はどうだ?」
「順調だよ。地盤の調査も終わったし、土台の工事に取りかかってる」
門の建設予定地に地下水脈でもあろうものなら、門が倒壊する危険がある。
もっとも、もともと外壁を建設してある場所だから、事前に調査は成されているはずなので、今回は念のための再調査ということらしい。
「『街門が壊れました』なんて、シャレにならないからね。特に、四十二区の外には凶暴な魔獣がいるから」
外壁を壊し街門を作るということは、その魔獣の侵入をこの先ずっと人の手で防ぎ続けなければいけないということだ。
「お前んとこの自警団、頼りになるんだろうな?」
「腕に覚えのある精鋭揃いだよ。武術大会に出場でもすれば、みんな予選くらいは突破できるはずだ」
「……よっわ」
「……まぁ、平和な街だからね、四十二区は」
確かに、重装備の兵士とか見たことないからな。
「これから徐々に鍛えていくさ」
「マグダやデリアに稽古をつけてもらえよ」
「その二人じゃ……初日にみんなやめちゃうよ」
まぁ、俺も逃げ出すだろうな。
あいつらは、人間が太刀打ちできるスペックを軽々と超えちまっているんだ。
もし、俺がデリアの背中に張りついて自爆したとしても、デリアはケロッとしているだろう。
俺、犬死に……
「まぁ、あと二ヶ月もあれば完成すると思うよ」
今が一月だから……二月末か、三月の頭には街門が出来てるわけか。
待ち遠しいね。
街門が出来たら、いよいよ陽だまり亭の前の道が整備される。立派な街道になるのだ。
そうすれば、最大のハンデキャップ、立地の悪さをひっくり返せる。むしろ、最高の場所になるだろう。
「工事は順調、順風満帆。新年早々縁起がいいね。今年はいい一年になりそうだよ」
「ババ臭いこと言ってんじゃねぇよ。垂れるような乳も無いくせに」
「関係ないだろ!? それに、垂れない方がいいじゃないか!」
いや、お前。
垂れたら垂れたで、それはそれなりに楽しみ方が……
「お待たせしました」
最も重力に引っ張られそうなジネットが、重力の影響などまるで受けつけないエステラのパスタを持ってやって来る。
こいつらにかかっている重力は、果たして同じなのだろうか……
「ボクとしては、今は実に好ましい状況なんだよ。面倒な書類仕事から解放されて晴れやかな気分なんだ。ここからは工事現場での監視や視察がメインだからね」
街門を作るにあたり、諸々の許可や申請、根回しなどなど、複雑で面倒くさい仕事を散々やってきたのだろう。それらから解放されたエステラは清々しい笑みを浮かべていた。
エステラの言う通り、今年はいい年になるかもしれないな。
なんというか、幸先がいい。
ガキどもに大サービスしてやった分も、全然悔やまれない。
なんだか、心が広くなった気分だな。
「「「ごちそーさまでした!」」」
ガキどものデカい声がして、それを合図にジネットがテーブルへと向かう。
食べ終わった食器を下げ、オモチャの入った籠を持ってくる。
最初は料理と一緒に出していたのだが、ガキどもがオモチャに気を取られて飯を食わないと指摘を受け、オモチャは後渡しに変更したのだ。
「オモチャが欲しかったらいい子にして、全部残さず食べること!」
こっちの母親は、子供のしつけがうまいと思う。
「では、この中から好きなものを一つずつ選んでください」
袋に入った粘土の蝋型。ベタベタ触るのは禁止されている。
直感で選んで、それを受け取るのだ。
ガキどもは意外とルールを守ってくれる。
そのルールまで含めて楽しんでいるのか、親のしつけの賜物か。
散々悩んでオモチャを選び、袋を開けて歓喜する。
そりゃそうだろう。今日から新しい型が追加されたのだ。
雪に閉じ込められた中で、ベッコとミーティングをして試作品を作っていたのだ。
「おかーさん! おもちゃで遊んできていい!?」
「いーい!?」
「いいでしょー!」
飯を食い終わり、おもちゃを手に入れれば、ガキどもが食堂に留まる理由はない。
こいつらの遊び場は、この近くにあるちょっとした広場なのだ。
「はいはい。行っておいで」
「夕飯までに帰るんだよ!」
「ケンカしないで、仲良くね!」
「「「はーい!」」」
近所で遊ぶくらいなら、いちいち親が目を光らせておく必要もない。
昔の田舎みたいに、何かあったら近所の誰かが助けてくれたりする。
四十二区は、そういう街なのだ。
「おねーちゃん、またねー!」
「またねー!」
「またー!」
「は~い! みなさん、またいらしてくださいね~!」
ガキどもがジネットに手を振り、ジネットがそれに応えるように手を振り返す。
と、今度はガキどもが一斉に俺へと視線を向ける。
「にーちゃん、またねー!」
「「またねー!」」
「おぅ、またな!」
ん?
…………あれ? なんだ、これ?
なんだか……いま…………
「どうしたんだい、ヤシロ?」
「え? あ、いや……」
今、なんとなく……引っかかるものが…………あっ! まさか!
「なぁ、エステラ!」
「なんだい?」
「『おぅ、またな』って、『お股』に聞こえるから、ガキどもに言うのは好ましくないかな!?」
「そんなこと考えるのは君だけだよ!?」
「いや、でも! ガキに『お股』って!」
「『お股』『お股』言うなっ!」
エステラにチョップをもらった。
脳天が痛い……まったく、俺が青少年の教育に関して真剣に考えていたというのに……
ま、そんな深く考えるほどのことでもないか。
ただの挨拶だしな。
外は天気も良くて。
吹き込む風は気持ちよくて。
ガキどもが遊ぶには絶好の天気だろう。
こんな清々しい日に問題なんか起こるわけがない。
…………はずだったのだが。
問題ってのは、突然やって来るもんなんだよなぁ……ったく。
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