異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

237話 日没後のミーティング -3-

公開日時: 2021年3月25日(木) 20:01
文字数:2,241

「それよりも、『BU』の他の区について情報が欲しい」

「たとえば?」

「立地と、主産業。それから近隣区との力関係と、経済力。そして『BU』への依存度、かな」

「依存度って言うのは、『自立率』ってことでいいかな?」

「そうだな。『BU』が傾いた時、どの区が困って、どの区が乗り切れるのか、その辺も知っておきたいな」

「あの。立地ということでしたら、僕が地図を持っています」

 

 と、ここまで存在感の薄かったセロンが立ち上がり、俺たちの前のテーブルにオールブルームの地図を広げた。

 全員が覗き込んでくる。

 ……ウェンディ。すげぇ眩しいからちょっと離れてくれるか?

 

 地図で見ると、四十二区は右下の方に位置している。

 左隣には三十区があるのだが、三十区との間には高い切り立った崖がある。

 二十九区との間も同様で、その二十九区は四十二区の上、北側にある。

 

「改めて見ると、『BU』は本当に領土が狭いんだな」

「そうだね。この狭さで生き残るためには共同体を作って通行税を取るしか方法がなかったんだろうね」

 

 三十区から四十二区までの外周区。その内側を囲うように連なる『BU』。

 外周区が広い領土を持っているのは、魔獣が外壁を越えて侵入した際、中央にたどり着く前に退治できるようにらしい。

 つまり、外周区はどれだけ被害を受けても構わない緩衝地帯のようなものなのだ。

 そういう意味で見れば、『BU』は関所のような役割を果たしている。

 

 魔獣だとか、ゴロツキだとか、貧しい民だとか……カエルとか。

 そういった、『貴族が自分たちのテリトリーに入れたくない存在』を選別するのが『BU』の役割なのだろう。

 地図はそんなことを如実に語っている。

 

 そして、その押しつけられた役割のせいで、『BU』は産業が育たなくなっている。

 

 ここいらのトラブルは、全部中央に陣取ってる貴族共のせいで起こっているわけだ。

 

「三十区の街門が一番大きいんだっけ?」

「そうだね。他国からやって来る人の六割以上が三十区の街門を利用しているんだよ」

 

 三十区の街門は、俺が最初にくぐった門だ。

 たしかあの時も、すげぇ行列が出来ていたっけな。

 

「それで、四割弱が三十五区の街門を使うんだ」

「ウチがこの街に来た時に通ったんは、そっちの門やったなぁ」

 

 レジーナの故郷、バオクリエアは船でやって来るような場所らしい。

 そういえば、火の粉を取りに三十五区へ行っていたっけな、こいつ。

 

「……マグダのパパ親とママ親が出て行ったのも、こっちの方」

「……そっか」

 

 地図の左上、四十二区と対角線上に存在する三十五区を指さして言うマグダ。

 少しだけ寂しそうに見えたので、何も言わずに耳の付け根をもふもふしておく。

 

「…………むふー」

 

 今はその話を掘り下げてほしくはないだろうが……うん、いつか見つかるといいな。

 

「あのさ、私はよく知らないんだけど」

 

 ネフェリーがドーナツを食べ終えて地図を覗き込む。

 

「この辺にも門ってあるんだよね? そこは使われてないの?」

 

 外周区には、所々街門を示す記号が書き込まれている。

 四十二区の街門は記されていない。きっと古い地図なのだろう。

 

「三十七区には、小さい港があるんだぞ」

 

 地図の右上、三十五区とは線対称の位置にある三十七区を指さしてデリアが言う。

 そういえば、港は二つあるとか言ってたっけな。

 三十五区の方が大きくて賑やかな港らしいが。

 

「三十八区にも街門があるのね」

 

 パウラが地図を指さす先にも街門のマークが書き込まれている。

 

「三十八区の街門は、木こりギルドがたまに使う門ですわ。海に近い場所にだけ生息する木がありますの」

「……狩猟ギルドもたまに使う」

 

 どちらも、あまり使用頻度は高くないらしい。

 たしか、木こりギルドの関係で、四十区以外の街門から木材を持ち込むのは高くなるって話だったし、本当に必要な時にだけ使うのだろう。

 

 そして、四十二区があるのとは反対の地図の左――西側にも街門は存在する。

 

「三十三区にもあるんさね」

「そっちは、鉱山へ行くための門だね。馬車で三日の距離に大きな鉱山があるんだよ」

 

 それは初耳だ。

 エステラに視線を向けると、「オールブルームじゃ、鉱石は取れないからね」と解説をもらった。まぁ、そうか。

 

 改めて、知らないことがまだまだあるなと実感する。

 地理にしても、いまだきっちりとは覚えきれていない。

 

 方眼紙のようなマス目できっちりと分かれているわけではないので、多少の差違はあるが……

 オールブルームを正方形で喩えるなら、上の辺の左から順番に、三十五区、三十六区、三十七区。

 右の辺を上から順に、三十八区、三十九区、四十区、四十一区。

 底辺を右から順に、四十二区、――崖があって――三十区、三十一区。

 左の辺を下から順に、三十二区、三十三区、三十四区。

 という配置になっている。

 

 三十五区の両隣、三十四区と三十六区。そして、小さな港がある三十七区の隣の三十八区では、海産物の加工が主産業となっている。どちらにも隣接している三十六区は海産物加工品のメッカだ。

 

 二十四区と隣接している三十二区と三十一区は大豆の加工品が主産業だ。

 三十三区は鉱石の加工を行っており、他区への依存は低そうだ。

 

 崖に阻まれた三十九区から四十二区には、これと言った産業はなく、長年廃れており、四十区の木こりギルド、四十一区の狩猟ギルドの恩恵を受けて、なんとか持ちこたえていた。

 

 よくよく考えて、よくここまで盛り返したよな、四十二区。

 立地最悪じゃねぇか。

 

 そして、外周区ナンバーワンの勝ち組、三十区。

 言わずと知れた通行税大国だ。まぁ、国じゃなくて区なんだけど。

 

 

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