異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

96話 降り過ぎだろ…… -3-

公開日時: 2021年1月1日(金) 20:01
文字数:2,095

「ヤシロさん、一体何を……」

「ジネット、悪いがこいつに火を起こしておいてくれ」

「これ……」

 

 俺は、厨房で手に入れた物をジネットに手渡す。

 

「たしか……七輪、でしたっけ?」

「あぁ。マグダ、ちょっと待ってろよ。今すぐ、暖かい『部屋』を作ってやる」

 

 積雪は1メートル。雪をわざわざ積み上げなくても、横穴を掘ればそれっぽいものになるだろう。

 雪の中の暖かい部屋。

 そう、『かまくら』だ!

 

 とはいえ、多少は叩いて固めないとな。

 

 あまり深くは考えず、とにかくスピード第一で簡易的なかまくらを作る。

 その間、マグダは七輪に齧りついてなんとか暖を取っている。

 かまくらに七輪を入れればもっと暖かくなる。

 俺が雪かきをしている間くらいは持つだろう。

 

「手伝います」

「助かる!」

 

 ジネットの協力を得て、マグダが一人、すっぽりと収まるような小さな横穴が完成した。

『雪上ホテル・かまくら亭』ってとこだな。

 

「さぁ、マグダ。入ってみろ」

「……雪の中に……?」

「いいから。騙されたと思って」

「…………了解」

 

 おそるおそる、簡易かまくらへと入るマグダ。腰をかがめて中へと入り、尻尾をぴくっと揺らす。

 

「…………暖かい」

「だろ? で、七輪を入れると……」

 

 簡易かまくらの中に七輪を置いてやる。

 炭が燃える赤い色が、かまくらの壁を照らす。

 

「…………これは、いいもの」

「本当ですね。そばにいるだけで暖かいです」

「雪かきが終わったら、もっと本格的なものを作ってもいいかもしれんな」

「オープンテラスですね!」

 

 食堂に、かまくらのオープンテラス? そもそも、かまくらはオープンなのか?

 

「まァ、そんな感じだな」

 

 ちょっと頑張り過ぎて疲れたので、適当に答えておく。

 ジネットがそのように認識したなら、別にそれで問題ないのだ。

 

「お兄ちゃん! 店長さん!」

 

 突然、厨房からロレッタが飛び出してきた。

 こいつ、この雪の中を出てきやがったのか? まだ四時前だぞ?

 

「ロレッタさん。大丈夫でしたか、こんな雪の中。ロレッタさんはお休みでもよかったのですが……」

「そんなのイヤです! 大雨でも大雪でも休まないのが陽だまり亭です! 仕事がある限り、あたしは働くです!」

 

 そういえば、こいつは働きたくても働けない時期があったんだっけな。

 仕事に関しては真面目で一生懸命なんだよな。ただ、傍目から見るとそう見えにくいだけで。

 

「弟を三人連れてきたので、雪かきはお任せです!」

「おまかせー!」

「おまかしー!」

「雪かき界の便利屋やー!」

 

 これは頼もしい助っ人だ。

 俺なんかがえっちらおっちらやるよりも断然早く済む。

 

「ロレッタも、ここまで雪を掻きつつやって来たのか?」

「いいえです。早く着きたかったので、雪の上をザックザック歩いてきたです」

「雪、退けてこいよ! この後教会に行かなきゃいけないんだから!」

「さすがに、この距離はちょっとしんどいですよ……」

 

 まぁ、分からんでもないが………………ん?

 

「なぁ、ジネット」

「はい?」

「こんなに雪が積もってたら、いつもの荷車は使えないよな?」

「そうですね。車輪が雪に埋もれてしまいますね」

「……じゃあ、どうやって食材を運ぶんだ?」

「それでしたら、これです!」

 

 いつの間に用意していたのか、ジネットは階段下から背負い籠を三つ取り出した。

 ………………マジか?

 

「とても大変ですが、十日間の辛抱です」

 

 その十日間を辛抱できないのが現代っ子なんです。

 

 カラーン! カラーン!

 

 遠くで鐘が鳴る。

 目覚めの鐘だ。

 

「それでは、わたしは下ごしらえをしてきますね」

「……マグダはもうしばらくここにいる」

「あぁ、マグダっちょ!? それなんです!? いい感じです! あたしも入れてです!」

「……穴が小さいから、無理」

「弟が拡張するです!」

「ひろげるー!」

「しんしょくー!」

「異物の混入やー!」

 

 ダメだ。

 どいつもこいつも、このあり得ない雪を普通に受け入れてやがる。

 仕方ないからと諦めモードだ。

 なぜ抗わない?

 この雪に立ち向かおうと、なぜ考えない!?

 

 俺は御免だ。

 背負い籠に重い食材を詰め込んで、雪に足を取られつつ十日間も教会との道を往復するなんて…………

 

 そっと、積もった雪に手を触れる。

 スキー場で見るようなふかふかとした雪質だ。……これなら滑ったり沈み込んだりはしないか…………

 

「うん。二時間でなんとかする!」

 

 ちょうど竹もある。流しそうめんで使ったアレだ。

 そいつを使って俺は……この雪を攻略してやる!

 

「弟たち!」

「「「なーにー?」」」

「ウーマロのところで仕事をしたヤツはいるか?」

「「「はーい!」」」

 

 全員か。

 なら、多少は技術を叩き込まれているかもしれん。

 

「よし、お前ら、ちょっと俺を手伝え!」

「「「おっぱーい!」」」

「……え、俺ってそういう認識なの?」

「あぁ……昨日、水着を見た時のお兄ちゃんのはしゃぎようを弟たちに教えちゃったです」

「随分と悪意ある歪曲がなされていたようだな?」

「そんなことないです! ありのままです!」

「それでこの反応だとしたら、余計悲しいわ!」

 

 と、そんなことはどうでもいい!

 

「弟たち! これからある二つの物を作る」

「「「なーにー?」」」

「ソリと、かんじきだ!」

 

 

 雪に埋もれた世界の中で、雪国の知識を大いに生かさせてもらおうかっ!

 

 

 

 

 

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