異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加26話 チーム分けと闖入者たち -1-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:3,151

 大盛況……というか、大混乱のうちに終わったプレ大会。

 ……詳細は省かせてほしい…………思い出したくない。

 ざっくり言うと、……ん~…………

 

「お前ら、いいから話聞け!」

 

 ……って、感じ?

 あ、あと、「とにかく落ち着け!」

 

 大体、その二つのセリフを交互に怒鳴っていたかな。

 ……本番、不安だわぁ…………

 

 プレ大会は、パンの試作を行った翌日に行われた。

 今から四日前のことだ。

 

 そこから三日間、四十二区の領民たちは時間を見つけては馴染みのない競技に慣れるために猛練習を繰り返していた。

 その間に、各チームのリーダーが選出され、そのリーダーを筆頭に、特に問題を起こしそうな連中を集めて、「スポーツマンシップとは!」ということを徹底的に叩き込んだ。

 

 卑怯なマネをして手にした勝利に意味などない!

 卑怯な勝利は誇りある敗北に劣る!

 卑怯なマネをするのは俺だけで十分だ! と、そんなことを懇々と、切々と語り聞かせたのだ。

 

 その甲斐あって、リーダーを始め選手一同の心にスポーツマンシップなるものが芽生えてきた。

 これで、勝っても負けても、互いの健闘を讃え合える健全なスポーツの大会になってくれることだろう。

 ……血みどろの泥試合は御免だからな。

 

 

 そんなこんなな三日間はあっという間に過ぎ、いよいよ区民運動会を明日に控えた夜。

 陽だまり亭には明日を共に戦うチームのメンバーが集まっていた。

 

「明日の区民運動会本番に向けて、白組の決起集会を行うです! まずはチームリーダーからお言葉をいただくです! リーダー、どうぞ!」

 

 一同の中心に立ち、ロレッタが気勢をあげる。

 そして、ロレッタの背後から、我が白組のチームリーダーが一歩、静かに前へと進み出る。

 

「……皆の者、勝利をマグダに捧げよ」

「はぁぁああん! 独裁者ばりのリーダーシップを発揮するマグダたん、マジ天使ッス!」

 

 …………不安だ。

 物凄く不安なメンバーだ。

 

「やっぱ、あんな不平等条約など結ぶべきじゃなかった……」

「まぁまぁ、ヤシロさん。よく知った方たちばっかりで、楽しそうじゃないですか」

 

 勝ちには一切こだわらないジネットがのんきなことを抜かす。

 よく知ったって……敵チームの連中だってよく知ってるじゃねぇか。

 だったら、顔見知りは全部味方に欲しかったよ。

 

「……デリアと離されたのは痛かったなぁ」

「まったくだぞ、英雄! どーすんだよ、姐さん抜きで優勝なんか出来っこねぇじゃねぇか! アーシはテレサの前でカッコいいところを見せたいんだぞ!?」

 

 頼もしい人物とは離され、不安材料だけ押しつけられた。

 バルバラ……デリアがいなけりゃ制御不能だろ、こいつ。

 

「……確かに、西側分断計略にまんまとハマってしまったのは痛手であった」

 

 もっともらしく、マグダが腕を組んでまぶたを閉じる。

 ……何が痛手だよ。「デリアさんとチームが分かれたら、リーダーはマグダっちょしかいないです!」って言葉を真に受けて、満更でもなかったくせに。

 

 

 そう。

 プレ大会を行った直後、エステラ、パウラ、ネフェリーらの訴えにより、西側地区は二つに分断されてしまったのだ。

 曰く――

 

「デリアとマグダが揃ってるなんてズルいよ!」

「おまけにヤシロもいるんだもん! とにかく西側は勢力を分断させてよね!」

「ついでに、ハムっ子たちは今現在従事している仕事に応じて各チームに振り分けることとするから、そのつもりでね」

 

 ――というわけで、西側の勢力はごっそりと削ぎ落とされてしまったのだ。

 くそ……デリアとマグダとハムっ子オールスターズで西側の優勝は間違いなしだと思っていたのに……っ!

 

「シスターが残念がっていましたよ。ヤシロさんと別のチームになって」

 

 その時のベルティーナの顔でも思い出したのか、ジネットがくすくすと肩を揺らす。

 西側地区は、陽だまり亭と教会のちょうど間付近で二分されてしまったのだ。

 

「ほらほら、お兄ちゃんと店長さん! 私語は慎んでです! 今はこの限られた戦力で如何に優勝をものにするかを話し合う場ですよ! ね、マグダっちょ!」

「……うむ」

 

 独裁者とその参謀みたいな立ち位置だな、お前ら。

 

 しかし、マジで困った。

 正直、分断されたチームで優勝を目指すのはかなり厳しい。

 

 

 区民運動会では、四十二区を四つの地区に区切り、それぞれのチームが団結して点数を競うこととなる。

 

 まず領主の館を構える東地区――青組。

 青組には、エステラとナタリア、養鶏場のネフェリーに、薬剤師レジーナがいる。

 怪我人が出た際は、レジーナが中立の立場できちんと処置してくれることになっているが、競技は青組の一員として参加することになる。……あいつが素直に参加するかどうかは知らんがな。

 手強いのは、やはりエステラとナタリアだ。

 そして、ウッセ率いる狩猟ギルド四十二区支部の連中。あいつら、パワーだけは人一倍あるからな。厄介な敵になるだろう。

 

 ついでに言うと、畜産ギルドやゼルマルの爺さんなんかもいたりするが、……まぁ、そいつらはどうでもいいだろう。

 

 

 次に大通りを有する中央地区――黄組。

 黄組には、パウラとノーマがいる。

 基本的に大通りは商店が多いのであまり運動能力に特化した連中は多くない。

 とはいえ、ウクリネスのような獣人族もちらほらいるので油断は出来ない。

 そして、ノーマ率いる金物ギルドの乙女(ヒゲ&筋肉)たち。これが地味に厄介な存在だ。ヤツらは、パワーがあるくせに器用で小回りが利く。単純な力比べでは狩猟ギルドに歯が立たないだろうが、競技となれば器用者が多い金物ギルドの方が怖い相手だと言える。

 

 ついでに、アッスント率いる行商ギルドやベッコもここに入る。

 そこら辺は脅威ではないが……注意しておく必要はあるだろう。

 

 

 俺たちのチームを飛ばして、川漁ギルドと教会を有する西2地区――赤組。

 赤組は教会以西で構成されている。だから、そこにはデリアとイメルダがいる。

 つまり、川漁ギルドと木こりギルド四十二区支部がいるのだ。……区切る場所おかしいだろ。そここそ分断しろよ。

 さらにミリィのいる生花ギルドも赤組なのだ。

 戦力にこそならないだろうが、ベルティーナも赤組ということになり、教会のガキどもも当然赤組だ。

 

 そして痛手だったのが、……ハム摩呂を取られた。

 現在ハム摩呂は川漁ギルドの手伝いをしていて、赤組に持って行かれてしまったのだ。ちょっと前まで陽だまり亭で走り回ってたってのに!

 

 分断されて痛感したが……西2地区、強力過ぎないか、これ?

 

 

 そして、我が陽だまり亭を有する西1地区――白組。

 白組は、陽だまり亭とニュータウン、農業ギルドで構成されている。

 主要メンバーは、マグダとロレッタ、ウーマロ率いるトルベック工務店。モーマットたち農業ギルド。ヤップロックたちトウモロコシ農家+農業手伝いのバルバラ。

 俺とジネットははっきり言って戦力外だ。

 ナタリアやデリア、ノーマらと張り合えるとはとても思えない。

 

 ……勝ち目がない。

 

「トルベック工務店と農業ギルドじゃあなぁ……」

「思い立ったように暴言吐かれたッス!?」

「お前よぉ! これでも俺らは毎日太陽の下で働いてんだぞ? お前よりかは体力あるんだぞ!」

 

 ムキになって食ってかかってくる『いまいち頼りにならない組織』の代表者二人。

 お前らで狩猟ギルドや金物ギルド、川漁ギルド&木こりギルドに対抗できるのかよ? 出来ないだろうが。

 

 とはいえ、身内を批判されたのでは代表者として引くわけにもいかないだろう。

 ここは訂正しておくか。

 

「分かった、言い直す。……ウーマロとモーマットには一切期待できない」

「暴言が名指しになったッス!?」

「だからよぉ! お前よりは体力あるからな!?」

 

 ぎゃんぎゃんとうるさいオッサンどもだ。

 お前らなんか所詮、未知の敵が出てきた時に真っ先にやられて「ヤダ……今度の敵こんなに強いの?」って読者に分からせるための当て馬キャラがお似合いだってのに。

 

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