異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

114話 出しにくい手を出すために -2-

公開日時: 2021年1月20日(水) 20:01
文字数:2,856

 俺たちは馬車に乗り込み、分かっている情報をもう一度整理することにした。

 

「彼らが妨害しようとしたのはケーキだったね」

「これは、四十二区で最も盛り上がりを見せている商品であることと、四十二区が四十区との連携を強調しているように見えるせいだと推測されますね」

 

 あくまで推論の域を脱しはしないが……

 これまで、四十二区は四十区と合同、または相互協力の元、様々なことを行ってきた。

 下水設備に道路整備。木こりギルドの誘致。

 そして、直近ではラグジュアリーとのケーキ共演。

 今、四十二区と四十区の間では、話題に上る事柄がリンクしていることが多い。共通の話題で持ちきりなのだ。

 

 その間に挟まれた四十一区を飛ばして。

 

「それが気に入らなかった……ということなのかな」

「まぁ、そこまではっきりとは決して認めないでしょうが……大きく外れていることはないでしょう」

 

 リカルドの態度から見ても分かるように、四十一区の連中は四十二区を見下し、四十区に一目を置いている。

 その四十二区と四十区が肩を並べるなど、許容できるものではないだろう。

 

 四十区が四十二区レベルに堕ちたと、自己完結できるならまだしも、現在の状況をまともに見れば四十区は衰退などしていない。

 ならば、四十二区が四十区に肩を並べたということになる。

 自分たち四十一区を追い抜いて。

 

 まぁ、認められないよな。

 

「それで、ケーキ潰しを? 短絡的過ぎないかい?」

「街門の偵察に来ていたのかもしれませんよ。それで、四十二区を歩いている時にケーキの話題を耳にした……などということもあり得ます」

 

 ナタリアの意見には妙な説得力がある。

 なんというか、一人の人間の行動として考えた時に無理がないのだ。

 

 自区の利益に大きく影響しそうな隣区の街門建設の情報を得て視察に向かわせたところ、街の様子が大きく様変わりしており、領民たちが楽しそうにケーキの話題に花を咲かせていた。それが鼻についてあんな騒動を起こした……という推論の方が、「ケーキと言えば四十区の名物なのに、四十二区の分際で真似しやがって! ぶっ壊してやる!」――なんてぶっ飛んだ思考よりかは納得が出来る。

 

「だとすると、何度か視察に来ているかもしれないね」

「ウーマロに聞いてみるよ。おかしな筋肉男を見た作業員がいないかどうか」

 

 諜報活動というほど大掛かりなことをしていたかどうかは分からんが、視察くらいには来ていたはずだ。

 こちらの情報がきっちりと領主に伝わっていたからな。

 

「軍備を拡大しているというのは、居座りをして営業妨害を企てたロン毛たちから聞いた情報だろう。あれを知っていた時点で、四十二区へ嫌がらせをしていたゴロツキと四十一区の領主が繋がっていたと断言できる」

「確かにね。もし、それ以外の方法で諜報活動をしていたというのであれば、四十二区が軍備を拡大しているなんて情報は入るはずがないもんね」

「そうですね。事実、我が領において、軍備拡大など行われていないのですから」

 

 ゴロツキどもに見せつけた大群は蝋人形の張りぼてだ。

 あのゴロツキ以外のヤツがその情報を掴めるわけがないのだ。兵士の大軍など、あの時、あの場所にしかいなかったのだから。

 

 そんな話をしている時、馬車は領主の館に到着した。

 だが、俺はそのままエステラを連れ出し、広場へと向かう。

 

「次に、あの居座り事件以降登場したこいつを知っているってことについてだな」

 

 広場には、巨大なボナコンの頭蓋骨が飾られている。

 ただし、触れば分かるが、こいつは蝋で出来たレプリカだ。気持ち悪いほど精巧に作られてはいるけどな。

 

 そんな巨大頭蓋骨を遊具にして、ガキどもが大声で遊び回っている。

 手には領主のエンブレムが描かれた旗を持ち、時折「りょーしゅさまー!」などと叫びながら。

 

 最初は、お子様ランチの当たりが出やすくなる、なんてジンクス程度の話だったのだが、今では旗その物に価値がつき、その旗を振って領主を称えるのがガキどもの間でブームになってしまったようだ。

 大きなガキがやっているのを小さいガキが真似するようになり、次第に本来の意味が薄らいでいったのだろう。

 中には、「りょーしゅさまー」の意味すら分からずに叫んでいるヤツもいるかもしれん。

 

「……そろそろ、規制をかけた方がいいかもしれないね」

「だな。あまりやり過ぎると他の区や王族に目をつけられかねん」

 

 尊敬し、盛大に称えるのは大いに結構だが、ガキどもはちょっと度を越え過ぎている。

 たまに引く時があるくらいだ。

 熱狂ってのは、そこそこで止めてやらないと行き着くところまで行ってしまうのだ。純粋な子供であれば尚のこと。

 

 こいつらには、後日俺が、領主とは何か、どう接するべきか、何をしてはいけないか、など、少々面倒くさいがきちんと教えてやろう。

 少なからず、焚きつけてしまった責任は取らないといけないからな。

 

 領主様パワーの効力が切れた反動で、反領主勢力にならないよう、十分気を付ける必要がありそうだ。何事も、反動というものは恐ろしい。

 

「で、話を戻すが。この状況になったのはロン毛のゴロツキを撃退した後だ」

「それを知っているってことは、視察に来ているってことだよね」

 

 四十一区から来る者は大抵、四十二区の領主の館の前を通って大通りに出る。

 その先に存在するこの中央広場は、所謂『裏口』のような場所になるのだ。細い道で四十一区と繋がっており、馬車の往来はほとんどない。

 荷物を載せた馬車や荷車は大きな道を通るからな。

 

 つまり、中央広場の状況を知っているのは、ここに来ようと思って来た者だけだ。

 それはすなわち、四十一区が四十二区に探りを入れているという事実を浮き彫りにしている。

 

 まぁ、状況証拠だらけだけどな。

 

「最初は狩猟ギルドの下っ端が店に嫌がらせをしていたけれど……ヤシロに返り討ちに遭って、自分たちで動くのはマズいと考えた」

「それで、ゴロツキに仕事を依頼した……ってところだろうな」

「四十区のゴロツキに依頼するあたりがなんとも卑怯だよね」

「小物臭がむんむんするな」

 

 ゴロツキが捕まった際、調べ上げられて四十一区の者だとバレると自分たちが疑われる。

 だから四十区のゴロツキに匿名で依頼をした。

 

 うん。小物だ。

 自分で責任も負えない、しょうもない連中だ。

 

 頭がいい?

 慎重?

 

 バカ言え。

 頭がいいヤツは使えもしないゴロツキに杜撰な計画を任せはしないし、慎重なヤツは、行動を起こす前に入念に下調べをするもんだ。

 

 ムカついて、すぐ行動に移し、返り討ちに遭って、尻尾を巻いて逃げる。その後はこそこそと身を隠す……それのどこが、頭がよくて慎重だというのか。

 

「一度陽だまり亭に戻ろう」

「そうだね。イライラしっぱなしで頭が痛いよ。ジネットちゃんの顔を見て癒されたい気分だね」

「じゃあ俺はおっぱいを見て癒させるとしよう」

「隣でそういうことするのやめてくれる?」

 

 奪い合いにならなくて済みそうな気がするんだがなぁ……

 

 なんにせよ、この数時間の間にいろいろな情報が脳みそにぶち込まれたわけで、俺も少し休憩したかった。

 陽だまり亭に戻って甘い物でも食べたい気分だな。

 

 

 

 

 

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