「きょう、いぃ~ぉてんち、ねぇ~!」
ナタリアの予報が見事に的中し、本日は快晴。
朝から爽やかな日差しが燦々と降り注いでいる。
「テレサさん、随分とよくなりましたね」
特等席ではしゃぐテレサを眺め、ジネットが頬を緩ませる。
テレサの目は順調に回復し、今ではしっかりと光を感じられるようになっている。
物の輪郭も捉えられるようになり、声を聞かなくても相手を判別できるのだと、ベルティーナが嬉しそうに教えてくれた。
「それはそうと、ヤシロさん……」
先ほどまでのほっこり笑顔を俯かせ、もじもじと膝をこすり合わせるように身をよじる。
「この服……大変動きやすくて、着心地もいいのですが…………ちょっと、足が……」
寄り添うようにこすり合わせられるジネットの太ももが眩しい白さで光を乱反射させている。
生太ももっ、眩しいっ!
そう!
現在ジネットが着ているのは体操服!
それすなわち、下半身は――
ブルマ~~!
眩しっす! 先輩、まじ輝いてるっす!
白い半袖シャツは柔らかそうにゆったりとしたシワを作り、えんじ色のブルマが白く肌理の細かい太ももを引き立たせている。
ヤバい! 超似合ってる!
もういっそ、陽だまり亭の制服これにしない!?
「お兄~ちゃ~ん!」
「……白組、ほぼ集まった」
駆けてくるロレッタとマグダは紺色のブルマを穿いている。
色は二色! ……だって、どっちも捨てがたかったんだもん! 悪い!?
いやぁ、やっぱ運動会企画してよかったなぁ。
前日まではマイナス要因の方が多くて「ちょっとどうかなぁ~」って感じだったが、本番を迎えてみると楽しくて仕方ないな!
もう、あちらこちらにブルマ、鉢巻、体操着!
運動会での女子の鉢巻姿も可愛らしいものだ。オシャレな巻き方を考えてちょっとでも見栄えよくしようと努力してな…………って、あらら。
「おい、ロレッタ。ちょっと来い」
「へ? なんです?」
気合いが入りまくりのロレッタは、白色の鉢巻を額にあててしっかりと結んでいた。「一番!」とか「合格!」とか書かれた鉢巻を巻く時の結び方だ。
その方が気合いが入るのかもしれないが……やっぱり女の子はカチューシャくらいの位置で結ぶ方が似合う。
なので、鉢巻を勝手に解き、位置を少し上へずらし、結び直してやる。
「ほい。こっちの方が可愛いだろ」
「ほへぅっ!? かわっ、かわいいですか!?」
俺の結んでやった鉢巻を「はしっ!」と掴み、ぺたぺた触った後で、「にへへぇ~」と締まりのない笑みをこぼす。
可愛さが間抜けさに上書きされていく。
「……ヤシロ。マグダはまだ結んでいない」
すっと、握った鉢巻を差し出してくるマグダ。
さっきジネットに、「あとで結んで」とお願いしていたような気がするんだが……
「……マグダはチームリーダーだから、特別可愛い仕様であることが望ましい」
望ましいと言われても……
ロレッタとお揃いでいいかな。……と、思っていたら。
「……ロレッタとお揃いとか、やっつけ作業は不許可」
先んじて不可を言い渡された。
あくまでチ-ムリーダーとしての優遇を希望するらしい。
……しょうがない。
マグダの頭に鉢巻を巻き、一度固結びをする。その際、余る紐の長さを左右で異なるようにしておく。
長い方の紐をある程度の長さを保つように数度、渦巻きのようにくるくると折る。布団の三つ折りではなく、厚焼き卵のように。『己』ではなく『巳』の形に。
そうしたら、結び目の上に折りたたんだ紐の中心が重なるように持ってきて、折りたたんだ紐の真ん中を短い方の紐でくるくるとまとめて留める。この際、短い方の紐をあらかじめ縦に半分に折っておくと見栄えがよくなる。
短い方の余り部分は結び目の下に挟み込んでおく。
「ほい。リボン結びの完成だ」
イメージは、おでんの昆布巻きのような形状になるわけだが、これを鉢巻で作ると可愛らしいリボンのように見える。
特に、マグダのように小さな女の子の頭に乗っかっていると、可愛さは倍増する。
「ほゎああ!? マグダっちょ、めっちゃ可愛いです!」
「わぁ! 素敵ですね」
その出来映えに、ロレッタとジネットがきゃっきゃと称賛を贈る。
そして、とうのマグダは――
「……これこそ、チームリーダーに相応しい鉢巻の結び方。この時点ですでに白組が優勝していると言っても、もはや過言ではない」
――大層お気に召したようだ。
「あの……ヤシロさん」
そそそっと、ジネットが近寄ってきて、すでに頭に巻いていた鉢巻をするりと解く。
そして、遠慮がちにそそっと解けた鉢巻を差し出してくる。
「……出来ましたら、わたしも……」
催促である。
今日のジネットはポニーテールなので、その根元にちょうちょ結びをするだけで十分可愛く仕上がるとは思うのだが……おそらくマグダ級の出来映えを期待されているんだろうな、これは。
まったく……
ジネットの頭に鉢巻を合わせて長さを調節し、頭頂部に二つ三角形の結び目が来るようにして結ぶ。紐を潰さないのが三角形の結び目を綺麗に見せるコツだ。
そして、その三角形がいい場所に来るように調整して、あとはスタンダードな女の子巻きの要領で結んでやれば……
「ほい、ネコ耳結びの出来上がりだ」
「にゃんこです!? 店長さんの頭にネコ耳が生えたです!」
栗色の髪の間からちょこんと覗く三角形の結び目がネコ耳のように見える。
位置の調整が難しいが作り方は至って簡単だ。
「自分で見れないのが、少し残念ですね」
そうは言いながらも、ジネットは嬉しそうだ。
おそるおそる頭頂部のネコ耳もどきをつんつん触っている。
そんなネコ耳結びをじっと見つめるマグダ。
自分のよりも可愛い結び方にクレームでも入れてくるかと思ったが……
「……お揃い」
きゅっと、ジネットの腰に抱きついた。
尻尾が「ぴーん!」と立っている。嬉しいらしい。
「はい。お揃いですね、マグダさん」
二人して楽しそうに体を揺すり、可愛くアレンジされた鉢巻を揺らしている。
「はぅ!? そうなると、なんだかあたしだけ普通な結び方って気がしてきたです!?」
「大丈夫だ、ロレッタ。普通は、お前のアイデンティティだから!」
「そんなアイデンティティは願い下げですよ!? ……うぅ、でも、お兄ちゃんに可愛いって言われた結び方ですし…………ぁぁああ、悩ましいです!」
何分間か頭を抱えて身悶えていたが、結局ロレッタはスタンダードな女の子巻きのまま参加することにしたようだ。
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