「左様……」
「さ、左様って! 生で初めて聞いた!」
「やかましい女じゃな……」
「や、やかましい⁉ っていうか、なんなのよアンタは⁉」
「だから魔王だと言うておるじゃろう……」
「ま、魔王って……」
ななみが視線を逸らす。レイブンと名乗った男が首を傾げる。
「ん?」
「かわいそうに……頭を強く打ったのね……やっぱり病院に連れていった方が……」
ななみが小声で呟く。
「おい」
「えっ⁉」
「ワシの質問に答えろ」
「質問?」
「ああ」
「なんだっけ?」
レイブンがガクッとなる。
「貴様……」
「き、き、貴様って⁉ 初めて言われた!」
「ワシに対して良い度胸じゃな……」
「に、睨んだって怖くないわよ!」
「ふん……まあいい、ここはどこだ?」
「え?」
「聞こえないのか? よほどの馬鹿か?」
「ば、馬鹿って⁉」
「聞こえてはいるのだな。つまり馬鹿か」
「ちょ、ちょっと、なんていう言い草よ!」
「質問に答えろ」
レイブンが凄む。ななみが答える。
「え、えっと……船橋よ」
「フナバシ?」
「ええ、千葉県の」
「チバケン?」
「まさか知らないの? 地理の成績悪かったのね……」
「……ここはなんという国だ?」
「は?」
「なんという国じゃ?」
「まさかそれも分からないの? 本当に病院に……」
「早く教えろ!」
「!」
レイブンがいきなり大声を出した為、ななみはビクッとする。
「……国名は?」
「ジ、ジパングよ……」
「! ジパングじゃと……⁉」
「え、ええ……」
ななみが頷く。レイブンが頭を軽く抑えながら呟く。
「確か勇者のパーティーの一人がそんな国の出身だと聞いたことがあるのう……」
「は? 勇者?」
ななみが首を傾げる。レイブンが頷く。
「そうか、合点がいったぞ……」
「合点って……」
「そういうことか!」
「わあっ⁉ ま、前を隠しなさいよ!」
いきなり立ち上がったレイブンにななみは驚く。
「分かったぞ……」
「何が⁉」
「ワシが転移したんじゃ、こちらの世界に」
「はあ?」
「恐らく、あの時の決戦で、ワシと勇者、互いの力が激しくぶつかり合い……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ?」
「話がさっぱり見えないんだけど……」
「貴様に話しているつもりはない」
「き、聞く権利くらいあるでしょう! あなた、勝手に人の土地に入ってきたんだから!」
ななみがレイブンをビシっと指差す。レイブンがため息をつく。
「はあ……」
「ため息⁉」
「……まあいい、誰かに話すことで考えがよりまとまるからな……」
「そ、そうよ……」
「馬鹿な貴様にも至極分かりやすく話してやろう」
「また馬鹿って言った!」
「ワシは『異世界転移』をしたのじゃ……」
「……え?」
「以上じゃ」
「い、いやいや! 全然分からないから!」
ななみが手を左右に勢いよく振る。レイブンが呆れる。
「何故これで分からん……」
「分かるか! なに、異世界転移って! あなた、そういうものの見過ぎなんじゃない⁉」
「そういうもの?」
「最近とにかく流行っているのよ、異世界転生とか、転移だとか! そういう小説やらマンガやらアニメやらが!」
「……マンガ? アニメ?」
レイブンが首を捻る。
「仮想と現実がごっちゃになっちゃっているのよ! やっぱり早く病院に……」
「……よく分からんが、ワシが作り物の話をしていると思うているな?」
「ええ、そうよ!」
「ならば証拠を見せてやろう……」
「証拠?」
「ああ……」
レイブンが壁に向かう。ななみが不安そうに尋ねる。
「な、何をする気?」
「『地を揺るがし、壁を穿て!』」
レイブンが壁に向かって、右手をかざして叫ぶ。
「⁉ ……?」
「……?」
なにも起こらなかった為、ななみとレイブンは揃って首を傾げる。
「ど、どうしたの?」
「じ、地面すら揺れなかったのう……」
「そ、そうね、ナニか別の物が揺れていたけど……」
「なに?」
「な、なんでもない! っていうか、いい加減服を着てよ!」
「む……ちょっと待て」
「ん?」
「『衣を我にもたらせ!』」
レイブンが自分の体に向かって手をかざし、叫ぶ。しかし、何も起こらなかった。
「……あ、あの……?」
「そ、そんな……魔力が失われている……⁉」
レイブンは愕然となって、両膝をつく。
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