「……さて、今回の試合だけど……」
「うん……」
「またもや予想スタメンを外したわね……」
フォーがななみに冷めた視線を向ける。ななみが後頭部をポリポリと掻く。
「い、いや、まさか、スタメン全員総取っ替えとは……」
「やってくれるわね……」
フォーが相手側のベンチを見つめる。ななみが頷く。
「ま、まったく……侮れないわね、『土浦バンディッツ』……」
「それにしても……」
「え?」
「スタメン全員メガネって何よ?」
「スポーツ用メガネを着用するのはそう珍しいことではないわよ」
「それにしたってスタメン全員は珍しいでしょ。なんだったらベンチまで全員よ?」
「そ、それもそうね……」
「ご丁寧にきっちり七三分けだし……」
「そ、そうね……」
「どういうこと? わずかに確認出来た映像ではリーゼント率が高かったのだけど……」
「あれも珍しいけどね……」
「まさか大幅なメンバーチェンジを?」
「いいえ、大会期間中は登録メンバーの変更は出来ないわ」
フォーの問いにななみが首を振る。
「ふむ……」
「つまりあれは……」
「あれは?」
「大幅なイメージチェンジね」
「だ、だいぶ変わったわね……」
「ピィー!」
試合開始の笛が鳴る。
「……」
「こ、これは……フォーちゃん……」
しばらく試合の流れを眺めていたななみが口を開く。
「ええ、なかなか落ち着いた試合運びをするわね……」
フォーが腕を組みながら答える。
「確認出来た試合映像ではもっと荒々しいプレーをしていたけど……」
「この大会数試合のスタッツ……結果を見ても、これまで警告もそれなりに受けてきていたわよね?」
「ええ、イエローカードが乱れ飛んでいたわ……累積で出場停止者が出ていないのが不思議なくらい……」
フォーの問いにななみが答える。
「!」
「レイブンへのパスがカットされた!」
「誘われていたわね……」
ななみが声を上げる横でフォーが冷静に呟く。土浦バンディッツが突如として動き出す。
「カウンター!」
「連動が出来ているわね……」
土浦バンディッツの選手が少ないパスを正確に繋いで、ゴール前に侵入する。
「ああ、危ない!」
「シュートコース切って! ……」
「ああ、入っちゃった……それにしても鋭いカウンターだったわね。前の試合ではもっとなんかこう……大雑把なプレーをしていた印象だけど……」
「……なるほどね」
「え?」
「アタシたちはまんまと欺かれてきたわけよ」
「ええ?」
「これこそが連中……『土浦バンディッツ』の真の姿よ」
「し、真の姿?」
ななみが戸惑う。
「ええ、理論的なプレーを多用するエリート集団よ」
「エ、エリート集団……確かにパス回し一つとっても精度が高いわ……」
「その上、採用している戦術は非常にシステマティック……」
「互いのポジションの間隔をしっかり取っているわね……」
「そう、あれなら守備も攻撃も組織的に行えるわ……」
「い、いや、そうじゃなくて!」
ななみが堪らず声を上げる。フォーが首を捻る。
「ん?」
「なにか対策を打たないと!」
「まあ、もう少し様子を見てみましょう……」
「そんな……あっ! ルトちゃんが突破を図る! ……奪われちゃった」
「ふむ……」
「……今度はゴブちゃんが! ……ああ、また阻止されちゃった……」
「ふむふむ……」
「いや、頷いてばかりじゃない! あ、もう一点取られた……」
「リードを広げられたわね……」
「ど、どうするの?」
ななみが問う。
「……まあ、手はあるわ」
「ほ、本当に?」
「ハーフタイムまで待ちましょう」
試合はハーフタイムになる。ななみが呟く。
「結局もう一点取られて、スコアは0対3……厳しいわね」
「……正直この段階では使いたくなかったんだけど……」
「フォーちゃん?」
「アンタたち、後半はこのフォーメーションで行くわよ!」
「‼」
フォーの呼びかけにななみやメンバーたちが驚く。
「……ピィー、試合終了!」
「ろ、6対3……逆転勝利……」
「……ざっとこんなもんよ」
フォーが胸を張る。
「うおお! ハットトリックだべ!」
「同じく……」
クーオとレムが喜ぶ。
「ま、まさか、クーオちゃんだけでなく、レムちゃんまで前線に上げるとは……」
「究極のパワープレーってやつね」
「相手も今日の試合はともかく、前の試合までは結構荒っぽいプレーをしていたから、対応しようとしていたけど……」
「まさか、オークやゴーレム相手に競り合ったことは無かったでしょうからね」
フォーが笑みを浮かべる。ななみが思い出したように呟く。
「そういえば非公開練習でちょっとやっていた形ね……」
「そうよ、非公開練習っていうのも大事でしょう?」
「しかし、スラちゃんがゴールキーパー出来るとは……」
「レイブン以外のメンバーには一応キーパー練習させておいたわ。なにがあるか分からないし……その中でも粘り強いセービングをしていたからね。采配に応えてくれたわ」
「そういえばそんなことさせていたわね……遊びかと思っていたわ」
「アタシは意味のないことはさせないわよ」
「へえ……フォーちゃん、どうしてなかなか……意外と良い監督かもね」
「意外とは余計よ!」
ななみの言葉にフォーがムッとする。
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