練習試合開始直前、アウゲンブリック船橋と対戦するチームのメンバーが不満を漏らす。
「お、おい……誰だよ、この試合受けたのは?」
「お、俺だよ……」
「キャプテン、お前かよ、なんで受けるんだよ」
「い、いや、話題の魔王のチームと試合をしたら色々バズるかなと思ってさ……」
「バズるより、命の方が大事だろうが、見てみろよ……」
男が相手側のフィールドを指差す。
「なんだよ?」
キャプテンが首を傾げる。
「右サイドにいるの、ゴブリンだぞ?」
「初めて見たな」
「ばか、俺もだよ」
「思ったより悪そうな顔しているな、小柄ではあるけれど……」
「それで真ん中にいるの、オークだぞ?」
「生では初めて見た」
「映像ではあんのかよ」
「もっとぶよっとしているかと思ったら、意外とガッシリとしているのな……」
「それで左にいるの、コボルトだぞ?」
「犬の顔は愛嬌あるな」
「アホか、犬の顔で、体は人ってのが、怖ええだろうが」
「すばしっこそうだな……」
「それらの前にいるの、スライムだぞ?」
「……ほぼ液状だな」
「目と口らしきものが付いているのが不気味だぜ……」
「思い出すな、ガキの頃、理科の授業でスライム作ったっけ……」
「それでゴール前にいるの、ゴーレムだぞ?」
「ゴールキーパーか。鉄壁そうだな、いや、土壁か?」
「んなのどうでも良いんだよ。あんなの点が入る気がしねえぞ……」
「動きはどうなんだろうな……」
「それで前線にいるの……ケットシーだぞ?」
「猫かわいい」
「いや、二足歩行で喋っている時点でかわいいから離れているだろうが」
「なんだか、眠そうにしているな」
「っていうかキャプテンよ……」
「っていうかお前さ……」
2人は顔を見合わせる。
「楽天的だな!」
「モンスターすげえ詳しいな!」
「え⁉」
「ん⁉」
「今、なんつった?」
「いや、随分モンスターに詳しいなと思って……普通コボルトとかケットシーとかパッと出てこねえよ」
「ゲ、ゲームとかでかじった知識だよ……っていうか、マジで楽天的だな!」
男が呆れる。
「そうか?」
「そうだよ、なんだよ、その余裕は……」
「キャプテンとしての風格……かな?」
キャプテンが顎に手を当てる。
「うるせえ、あみだくじで決めたキャプテンだろうが」
「っていうか、モンスターを判別しているお前も結構な余裕を感じるけどな」
「ビビってんだよ、あの中央にいる奴をみろよ」
男がレイブンを指差す。
「普通の人間もいるんだな」
「いよいよ馬鹿か。あいつが噂の魔王さまだよ」
「へ~人は見かけによらないというか……」
「呑気だな」
「でも本当に普通っぽいぜ?」
「そこが逆に恐ろしいんだよ」
「とは言ってもな……おっ、もうすぐ始まるぜ」
「ああ……本当になんで受けたんだよ!」
キャプテンがややムッとしながら呟く。
「……思い出したけど、お前らも『こいつらと俺ら試合したらウケんじゃね?』とか言って盛り上がっていたじゃねえかよ」
「それは飲み会の冗談だろう、真に受けんなよ!」
「なんだよ、面倒事は全部俺に押し付けてよ、後から文句言うなよ!」
「言いたくもなるわ!」
「お前……」
「なんだよ?」
キャプテンと男が小競り合いを始めようとする。周囲のメンバーが慌てて2人を引きはがし、落ち着かせる。やや間があって審判が試合開始の笛を吹く。
「ああ、始まっちまった……」
「よし、こっちボールでキックオフだ。それ!」
キャプテンが男にパスをする。男が戸惑う。
「い、いや、ボール寄越されても困るっての!」
男が前方にボールを蹴り出す。
「ああっ! 何やってんだ、せっかくのマイボールなのに!」
「うるせえ! 保持していたら、身の危険だろうが!」
ボールがクーオに向かって飛んでいく。クーオはヘディングの体勢を取る。
「跳ね返されるぞ、ルーズボール拾え!」
「……!」
「え⁉」
クーオの顔面にボールが思い切り当たり、ボールはフィールドを転々とする。
「! ……!」
こぼれたボールを蹴り出そうとしたルトだったが、キックが当たり損ね、ボールがあさっての方向へと飛んでいく。
「‼ ……!」
「⁉」
ゴブが慌てて拾いにいくが、同じくボールを拾いにいったスラの体で足をすべらせ、ボールをフィールド中央に戻してしまう。
「!……‼」
それを眠そうにしていたトッケが気づき、慌ててボールをヘディングする。このプレーは上手く行ったが、方向がマズかった。ボールが自分たちのゴールの方へと勢いよく転がっていってしまったのである。
「‼ ……⁉」
慌てて前に飛び出し、ボールを処理しようとしたレムだったが、ボールはその大きな体の股下を抜けていき、ゴールネットを揺らした。
「ピィー!」
審判が笛を鳴らす。キャプテンが呆然とする。
「は、入った……?」
「な、なあ、キャプテン、ひょっとしてだけどよ……」
「ん?」
試合が再開され、ボールがゴブに渡る。男は強烈なショルダータックルでボールを奪うと、軽やかなターンでクーオをかわし、鋭いシュートを叩き込む。レムは一歩も動けない。
「やっぱりだ! こいつら見かけ倒しだぜ! 大したことねえ!」
「よし!」
勢いづいたチームはゴールを重ねる。男が大笑いする。
「はははっ! なんだよ、雑魚モンスターどもじゃねえか!」
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