バイクバトン

MAGI
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四頁

公開日時: 2021年8月11日(水) 06:33
文字数:1,126

 俺は完全に犯罪に巻き込まれてしまった。

 武博は絶望的にそう思った。

 後ろのキチガイ野郎は国会議事堂とか抜かしてやがる。

 何で俺が巻き込まれるんだよ。

 ふざけるな、俺の日常を返せ。


「まぁ何かの縁だ、俺もこれから死ぬとこだし、一つ置き土産でもするか」


 何をするのか、と武博は生唾を飲んだ。

 まさか俺を巻き添えに道連れにするつもりか、冗談じゃない。


「俺はテロリストだ」


 またしても不意に男は言った。

 武博は驚きはしたが、事故は禁物だと、しっかりと前を向き直った。


「名は秋山輝彦、25歳」


 突然名乗りだした。25?俺と4歳しか変わらないじゃないか。


「俺は今まで同志と共に何度も国家と戦ってきた。

 秘密裏の戦いだから報道には全く流れてこないがな」


 秋山が武勇伝を語るかのごとく話し出した。


「もう同志は皆やられて俺だけとなってしまった。

 だが俺は簡単に死ぬわけにはいかない。

 この腐った国の中枢に風穴を開けてやるまでは俺は死に切れない」


「だったら何で俺を巻き込むんだよ」


 武博は口調を荒げた。


「大丈夫だ、国会に着くまでにはお前にはサヨナラする。殺しもしない」


 妙に和らいだ口調だ。

 本当にこのキチガイ野郎はテロリストなのか?


「だったら聞いてみたい。何でテロリストなんかやってるんだ?大義でもあるのか?」


 武博はぶっきら棒に聞いた。

 何となく思った、ただそれだけだった。


「聞いてみたいか?・・・ち、警察だ」


「あんたがヘルメットを被らないからだよ」


 秋山はバイクに乗ってからヘルメットを着用していなかった。

 ずっと迷彩柄のキャップを被っていて、妙に涼しげな顔で佇んでいた。

 ついで武博は助かったと思った。

 ここで検挙されて、こいつの銃の所持がばれる。

 いや、俺がばらす。

 そしてこいつは逮捕され、事件は未然に解決される。

 そうして俺の日常は戻る。



 だが、武博の予想は甘かった。


「そこのバイク止まりなさい」


 案の定止められた。武博は素直にパトカーの前の路肩にバイクを寄せ、片足を着いた。


「後ろ被らないとダメだよ」


 一人の警官がパトカーから降りて来た、とその時パァンと乾いた爆音が鳴り響いた。

 秋山が発砲したのだ。


「何やってんだよおめぇ!!」


 武博は怒鳴った。

 そこで秋山は容赦なくパトカーの中にいた警官の眉間を撃ち抜いた。


「早く行けぇ!!」


 銃口が武博の首筋に当てられた。

 こうまで容赦なく撃つなら本当に撃たれる。

 武博は止むを得ずバイクを発進させた。

 周りの沿道で歩行者が叫び声を上げて混乱していた。

 バイクが走り去った。

 すると、最初に撃たれた警官が動き出した。

 まだ生きていた。

 パトカーまで這い蹲りながら無線機を取った。


「お、応援を・・・、たの・・む。ZR-01、ナンバー、○、○区23、52の、・・・43・・・ダ」


 彼はそのまま気を失った。



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