バイクバトン

MAGI
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三頁

公開日時: 2021年8月11日(水) 06:30
文字数:566

 武博は大人しく従い、男を後ろに乗せてバイクを発進させた。

 バイクに乗るときは常に恍惚な気分に浸っていたのだが、今日だけは恐怖と怒りだった。

 今後ろにいるのは恋人ではなく、銃を突きつけた、全く以って表情を見せない冷淡な男だ。

 何で今の俺の唯一の楽しみを奪うんだこのキチガイ野郎。

 いっその事揺ら揺ら運転でもしてやろうか。


 いや、それはまずい。


 背中に突きつけられた冷たい筒が武博の衝動を止めた。

 下手に何かをして撃たれるとまずい。

 まず撃っても奴はバイクから飛び降りれば済む話。

 俺は撃たれてそのまま転倒して事故死しかねない。

 何せかなりのスピードで走れと要求しているのだ。

 何かいい手はないか、武博は模索していた。

 そう言えば・・・、


「何処に向かえばいい?」


 武博は冷淡に男に聞いた。

 乗ってから男は左に曲がれとか直進しろとしか指示を出さない。


「・・・聞いてどうする?ただ言ったところを通れ」


 男は答えようとしない。

 更に全くこもってない無感情な声色。


「行き先教えてくんねぇとよ、近道とか出来ねぇじゃん」


 武博はイライラ気味に言った。

 メーターは速度100km近くを行っている。

 今この公道を走れば確実に警察に捕まる。


「ならいいだろう、教えてやる」


 男が口調を変えた。先程の冷淡さとは違い、妙に勝ち誇った声色だ。


「国会議事堂だ」


 男の口元が若干引きつった。それは笑みだった。


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