武博は走り続けていた。
秋山は空になった弾奏に弾を込め直していた。
後続からパトカーが無造作に武博のバイクを追いかけている。
その更に後ろに燃え上がってる火柱が数箇所、勢いを増しながら遠ざかっていく・・・。
「俺も・・・、嫌だったのかも知れない・・・」
武博は口を開いた。
「何がだ?」
秋山が聞き返した。
「俺、愛子に振られてから一体何の日常を過ごすんだろうって思ってた。
・・・でもあんたの日常に比べたら俺のなんてクズだよな」
秋山は黙っていた。武博が続ける。
「俺は親に勉強をしろと言われ続けて、黙々と勉強し続けた。
医者か弁護士になれって言われた。
だけど、俺は最後の抵抗で高校を卒業してすぐに就職した。
両親はかなり怒ってたよ。
だけど、俺の人生は俺のだ。
決めたからにはそう生きていく、そう思って家を飛び出したんだけど・・・、結局医者や弁護士と大差変わらなかったよ。
ただ単に収入が少ないだけ。
一日一日その繰り返し。働いて食って寝て、働いて食って寝て・・・。
愛子とバイクだけが俺の数少ない支えだった。
だけど、愛子と別れたらバイクを乗ってる意味がない・・・」
「やっぱりお前も退屈な日常を経験したか」
秋山がようやく答えた。その声はどこか寂しげな口調だった。
「屈託のない日々の繰り返し、無限に続き、いつか死ぬまで止まることがない。
・・・いつからこんな国になったのだろうな・・・」
「だな・・・」
武博はいつしかこの秋山と会話の輪に入っていた。
経験してきた事は違えど、思っていることに共通点があった。
「もう俺は元の日常に戻らない」
武博がぼそっと呟いた。
「え、何て言った?」
流石の秋山も呆気に取られた。すると、
「う!」
短い呻き声と共に秋山が武博に凭れ掛かった。
「どうした!!?」
武博は叫んだ。
「・・・左肩だな、やられた」
少し声が弱弱しかったが、秋山は答えた。
武博は確認できなかったが、秋山の左肩甲骨に丸い血の痕があった。
「・・・あきらめれるか、あきらめれるかッ」
秋山は呻きだした。
同時に悔しさの声が響いていた。
その悔しさの色が武博の耳に入り、脳を刺激した。
「大丈夫だ、もしお前がやられたら俺が引き受ける」
武博が言った。自分でも信じられない言葉だった。
「・・・ま、巻き込む、わけに・・・、は、いか、ないッ、俺の・・・、信条に反する!」
「あんたのこと聞いて、俺、わかったよ。俺も、戦う」
武博は、精一杯、頼もしい感じで言った。
「・・・信じて、いいんだな?」
「あぁ、このまま突っ込むぞ」
その時に全国でこのニュースが報じられており、全国のお茶の間のテレビにこの大追跡劇が中継されていた。
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