バイクバトン

MAGI
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六頁

公開日時: 2021年8月11日(水) 06:37
文字数:1,070

 武博は走り続けていた。

 秋山は空になった弾奏に弾を込め直していた。

 後続からパトカーが無造作に武博のバイクを追いかけている。

 その更に後ろに燃え上がってる火柱が数箇所、勢いを増しながら遠ざかっていく・・・。


「俺も・・・、嫌だったのかも知れない・・・」


 武博は口を開いた。


「何がだ?」


 秋山が聞き返した。


「俺、愛子に振られてから一体何の日常を過ごすんだろうって思ってた。

 ・・・でもあんたの日常に比べたら俺のなんてクズだよな」


 秋山は黙っていた。武博が続ける。


「俺は親に勉強をしろと言われ続けて、黙々と勉強し続けた。

 医者か弁護士になれって言われた。

 だけど、俺は最後の抵抗で高校を卒業してすぐに就職した。

 両親はかなり怒ってたよ。

 だけど、俺の人生は俺のだ。

 決めたからにはそう生きていく、そう思って家を飛び出したんだけど・・・、結局医者や弁護士と大差変わらなかったよ。

 ただ単に収入が少ないだけ。

 一日一日その繰り返し。働いて食って寝て、働いて食って寝て・・・。

 愛子とバイクだけが俺の数少ない支えだった。

 だけど、愛子と別れたらバイクを乗ってる意味がない・・・」


「やっぱりお前も退屈な日常を経験したか」


 秋山がようやく答えた。その声はどこか寂しげな口調だった。


「屈託のない日々の繰り返し、無限に続き、いつか死ぬまで止まることがない。

 ・・・いつからこんな国になったのだろうな・・・」


「だな・・・」


 武博はいつしかこの秋山と会話の輪に入っていた。

 経験してきた事は違えど、思っていることに共通点があった。


「もう俺は元の日常に戻らない」


 武博がぼそっと呟いた。


「え、何て言った?」


 流石の秋山も呆気に取られた。すると、


「う!」


 短い呻き声と共に秋山が武博に凭れ掛かった。


「どうした!!?」


 武博は叫んだ。


「・・・左肩だな、やられた」


 少し声が弱弱しかったが、秋山は答えた。

 武博は確認できなかったが、秋山の左肩甲骨に丸い血の痕があった。


「・・・あきらめれるか、あきらめれるかッ」


 秋山は呻きだした。

 同時に悔しさの声が響いていた。

 その悔しさの色が武博の耳に入り、脳を刺激した。


「大丈夫だ、もしお前がやられたら俺が引き受ける」


 武博が言った。自分でも信じられない言葉だった。


「・・・ま、巻き込む、わけに・・・、は、いか、ないッ、俺の・・・、信条に反する!」


「あんたのこと聞いて、俺、わかったよ。俺も、戦う」


 武博は、精一杯、頼もしい感じで言った。


「・・・信じて、いいんだな?」


「あぁ、このまま突っ込むぞ」


 その時に全国でこのニュースが報じられており、全国のお茶の間のテレビにこの大追跡劇が中継されていた。


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