昨日はよく眠れたベレス。
背伸びをして身体を起こし眼前に目を凝らすと、昨日の女騎士が柵の前で椅子に座って眠っていました。それに片手にはパンを持っていたのです。
パンに気付いてしまったベレスはごくりと唾を飲み込んで、音を立てないよう、そろりそろりと滲み寄りながら、その片手のパンを掴もうとしました。
しかし寸前で女騎士は起き上がり、空振ったベレスは勢いのまま柵に頭をぶつけてしまいました。
「あう⋯⋯」
「と、取ろうとしたね、今⋯⋯。でも残念、これはまだあげられません」
眠ったふりをしていた女騎士は笑顔でパンをお預けすると、貴族の男の話をし始めました。
「⋯⋯貴族の屋敷に、賊が出入りしてる所をエミル⋯⋯他の騎士が見つけてね。その賊に話を聞きだしてみたら、貴族の男と連んで魔族の取引をしていた事が分かったの。私達はすぐに屋敷に乗り込んで調査に入って⋯⋯そしたら牢屋に宙吊りになった君がいたって⋯⋯流れ、なんだけど⋯⋯」
パンを見つめながら、女騎士の話を半分だけ聞いているベレス。女騎士は気になりながらも話を続けます。
「私たちのお手伝いをしてくれたら、このパンをあげる。どうかな? やってみる?」
ベレスはそれを聞いて、我に帰りました。後退りながら女騎士から距離を取ります。
「お、お願い! 君を痛い目に遭わすつもりは無いよ! だから、私達に協力して──」
「それ、じゃな、く、て⋯⋯」
「⋯⋯え?」
消え入りそうな声を振り絞って、ベレスは声に出しました。
「り、んごで⋯⋯いい」
ベレスは母親の事を思い出していました。
まだ生まれて間もない頃、ベレスが泣き出す度に母親からりんごを食べさせて貰っていたのです。
「ほ、ホント!? よ、よし! じゃあ早速、騎士団の皆と掛け合ってくるから! ちょっとだけ、いや、結構待ってて!」
晴れやかな表情で女騎士は足早に去って行きました。
曇天のように暗い顔をしたままのベレスにとって、あの女騎士はまだ。
「⋯⋯まぶしい、ひと⋯⋯」
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