#00 プロローグ
はじめに『諸説あります』。
本作品はスポーツや考古学、歴史について、色々と断定的に述べているところがありますが、それは話のテンポを優先するためであり、各種の異論がある事は重々承知しております。出来る限り資料には当たっているつもりですが、こちらも時間には限りがあり、すべてを参照しきれないのも確かです。
そして何より本作品はフィクションですので、何よりも物語の面白さを優先しております。
本作品で得た知識を、本作品を語る場以外で披露して、いらぬ恥をかいても作者としましては、責任を負えないことを承知して下さい。
突っ込まれた時はこう言いましょう。
さぁ、ご唱和ください!!
『諸説あります』。
野球! Baseball!!
投手が投げるボールを、打者がバットと呼ばれる棒で打ち返し、そのボールが転がっている間に、走者となった選手が本塁に生還する回数を競う球技である!
サッカーやバスケットボール、バレーボールとは異なり、投手と打者との一騎打ちという図式が成り立ち、それがガンマンや侍の決闘を連想させるからなのか、日米で共に人気の高い球技である。
日米! そう、日米である。何かと日本のプロ野球はアメリカのメジャーリーグベースボールに遅れをとっていると言われるが、実のところ、一試合辺りの観客動員数では日本のプロ野球がアメリカメジャーリーグを上回っているのである。つまり、球場に足を運ぶ観客の動員数という意味では、日本はすでにアメリカを凌ぐ世界一の野球大国なのである!!
そしてここで現実を離れてみよう。
この『魔球転生』の世界では20年ほど前に球界再編が行われ、NPBは『ヤマト野球連盟』として再出発。球団数は増加して、今や合計38チーム! それが「山彦リーグ=通称リクリーグ(Rリーグ)」と「海彦リーグ=通称ウミリーグ(Uリーグ)」の2リーグに別れてしのぎを削っている。
対してアメリカメジャーリーグベースボールは、現実で申告敬遠やワンポイントリリーフの廃止が行われたように、異なる歴史を辿ったこの世界でも、牽制球や盗塁、タッチアッププレーの廃止、打者一巡で攻撃打ち切りなど、ドラスティックなルール変更を断行。「新世紀に相応しい新たな野球のルール、これこそアドバンスベースボールだ」と自画自賛したメジャーリーグ機構だが、その所謂『アドバンスベースボール』はファンはもちろん、選手からもそっぽを向かれてしまったのである。
その結果、純粋に野球を愛する熱狂的なファンや優秀な選手は、みな日本のヤマト野球連盟に集まり、この世界における野球の頂点として君臨したのである。
否! 野球だけでは無い! キングオブスポーツと言われたサッカーさえもしのぎ、長らく野球不毛の地と言われたヨーロッパでも絶大な人気を集めている。ヨーロッパだけでは無い。中東、アフリカでも今や野球が一番人気となっているのだ。
そしてその中心にあるのが日本のヤマト野球連盟、通称ヤマトリーグなのである。
熱狂! まさにそれは熱狂的と言える人気!! 人々は寝食を忘れ、テレビやインターネット中継に一喜一憂する。
数億、いや数十億の人間の関心が集まるのである。尋常であるはずがない。
光あれば陰がある。人々が野球に熱狂すればするほど、その熱狂を本来の目的とは異なるものに利用しようとする輩が出てくる。
そして今晩も、野球に熱狂する人々の与り知らぬ所で、世界を揺るがす陰謀が進められるのであった。
*本作品に登場する織田信長、アーサー王は男性です。その他の英雄、英傑、偉人も一般的に史実とされている性別そのままです。ご注意下さい。
#01-01 「是非も無し!」
ヤマト野球連盟Rリーグに所属する安土ウロボロスは、北九州ハーキュリーズとゲーム差無しの首位で、ペナントレース最終戦を迎えていた。最終戦はホーム、安土スタジアムで行われる。
安土スタジアム! その名の通り滋賀県近江八幡市、かつての安土城近くにあるこの球場は、野球専用スタジアムとしては、世界最大級。15万人の収容人数を誇る!! 来年には改装が予定されており、収容人数は20万人以上となるはずだ。
安土ウロボロスはここまで八年連続日本一を達成。今シーズンも優勝すれば、NPB時代のアンタッチャブルレコードと言われた、讀賣ジャイアンツの九年連続日本一に並ぶ。
最終戦までもつれ込んだペナント争いだが、ファンはもとより人気チームならば、どうしてもついてまわる熱狂的なアンチにすら、優勝は必至と思われていた。シーズン最終戦で劇的な勝利を飾り、その勢いのままクライマックスシリーズ、そして日本シリーズも制するだろう。それは明日、朝日が昇るように当然のこと!
勝つのだ。安土ウロボロスは。勝ってしまうのだ!
今シーズン、ここまでペナントレースがもつれた原因は、シーズン当初ベテラン選手が軒並み怪我や不調であったため。しかしそこはベテラン。終盤にはきっちりと帳尻を合わせてきた。
そして何よりチームの看板とも言える、あの選手が戻ってきたのだ。
名古屋を本拠地としていた尾張ウロボロスが安土に移転したのも彼の為であると言われている。
まさにレジェンド。まさにミスターウロボロス!
その名は……。
信長!!
「ピッチャー、信長。背番号50」
場内アナウンスがそう告げるが、15万人の観客から地響きのような歓声が上がった。
「信長!! 頼んだぞ!!」
「優勝だ、信長!」
「信長、信長、信長!!」
信長、信長! ノブナガ、ノブナガ!! NOBUNAGA、NOBUNAGA!!
マウンドに立つ信長吉法にとっては、15万人観客の大歓声もすでに聞き慣れたもの。心地よいBGMに過ぎない。その歓声に乗って信長は一球、二球と投球練習を行う。
信長という珍しい苗字。それがウロボロスの本拠地を安土に決めさせたとも言う。事実、就任直後にウロボロスの安土移転を決定したオーナーは、それを否定していない。
そして信長吉法自身、多くの人々がイメージする戦国覇者織田信長を彷彿とさせる容貌を備え持っていた。口ひげを蓄え、鷲鼻。そしてどことなく狂気を孕んだ鋭い眼光。一部の人々などは、信長吉法は織田信長の生まれ変わりだと信じていた。
しかしそれは真実なのである。
信じがたいかも知れないので繰り返し強調させていただく!
21世紀の現代に「信長吉法」として生まれ変わった織田信長は野球をやっているのである!
信長吉法は今年41歳。高卒でプロ入りして、今シーズンで23年目。押しも押されもせぬ大ベテランであり、再編前のプロ野球時代からプレイしている数少ない選手の一人でもある。
すでに200勝を達成。入団時から投手と打者の、いわゆる二刀流でプレイ。チーム事情でどちらかに専念する事もあったが本塁打も通算200本を越えている。
今シーズンは怪我で出遅れたが、ほぼ後半戦だけで11勝を挙げており、原則投手に専念しながらも時折代打出場もあり、本塁打も二桁10本を記録していた。
まさにヤマト野球連盟時代を象徴する選手!
球界覇王!! 信長!!
そしてその前世は、まさにあの織田信長なのである!!
「さぁて……」
投球練習を終えた信長は安土スタジアムのバックスクリーンへ目をやった。15万人収容のこの球場は現オーナーによって、信長の為に建てられたようなもの。そのバックスクリーンとスコアボードは、かつての安土城天守をイメージしたデザインとなっている。
「プレイボール!」
信長の背に審判の声が響く。
「是非も無し!」
そうつぶやくや、信長は打者へと振り返り、初球のモーションに入った。
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