「「「「「五人そろって、勝利戦隊ビクトレンジャー!」」」」」
勝利戦隊ビクトレンジャーといえば今や子供から大人まで誰もが知っている正義の味方だ。
彼らの活躍は常にネットニュースのトップを飾り、町を歩けばサインを求められ、自治体のイベントにも引っ張りだこである。
中でも5人目の戦士、ビクトグリーンこと栗山林太郎の活躍には目を見張るものがあった。
「平和を愛する緑の光、ビクトグリーン!」
栗山林太郎、26歳。
ヒーロー学校を首席で卒業し鳴り物入りで東京本部所属のエリート“勝利戦隊ビクトレンジャー”に配属。
その卓越した手腕で任期1年目にしてゆうに7つもの組織を壊滅に追いやり、関東圏におけるヒーローと怪人の組織図を一変せしめ、これまでに2回の叙勲と14回の表彰を受けた。
彼の輝かしい実績の数々はまさに、林太郎のヒーローとしての素質が誰よりも優れていることを示している。
……わけではない。
林太郎は職務に極めて忠実である反面、正義のためならば手段をえらばない男であった。
煽動、拷問、闇討ちなど、その手段は多岐にわたり陰湿を極め、時には法に従事する身でありながら法とニアミスを起こすこともあった。
山に怪人が現れれば森を焼き。
川に怪人が現れれば高圧電流を流し。
街に怪人が現れればビルごと爆破解体し。
怪人が現れなければ怪人の息子を探し出して人質に取った。
敵のみならず味方からも恐れられる修羅。
正義に魂をボッタクリ価格で売りつけた悪徳ヒーロー。
人という文字を何度書かせてもけして支え合うことのない薄汚れた魂を持つ男。
平和のためならば平和さえも殺す男、その名は栗山林太郎。
ついたあだ名が“緑の断罪人”である。
そんな林太郎をヒーロー本部が捨て置くはずもなく。
「あば……網走支部?」
「そう、北海道の端っこのね。自然が豊かで空気が美味しいところらしいよ栗山くん。夏はとても涼しくて過ごしやすいそうだ」
「もう12月ですが」
「広がる一面の雪景色……羨ましいなあ。君には明日からそこでリーダーをやってもらうことになる。といってもメンバーは君一人だけど」
「つまり……左遷ということですか? 網走に?」
ここは日本中のヒーロー組織を統括するヒーロー本部。
正式名称“国家公安委員会局地的人的災害特務事例対策本部”は、警視庁とは皇居を挟んでちょうど反対側の千代田区神保町に本拠を構えている。
ちなみに北海道網走市までの直線距離はおよそ1000キロメートルである。
「栄転って言いなさいよ。あれ? ひょっとしてご納得いただけない感じ?」
「そりゃ納得いきませんよ! そもそもなぜ俺なんですか!?」
「そこなんだよね。君が優秀なのはよく知っているよ。君の活躍のおかげで、いまや東京23区じゃ怪人よりもサンタクロースを探す方が簡単なぐらいさ。今年度の最優秀ヒーロー賞は君で決まりだろう」
「過分な評価を頂戴しております。しかし……」
「しかし、お偉方は口を揃えてこう言っているんだよ、君以外の連中はみんな無能だってね。いかんせん役員というのは相対評価をしたがるものなのさ。君が嬉々として同僚を窓際へ追いやるというのであれば、我々としても指をくわえて見ているわけにはいかない」
話はそれで終わった。
林太郎は衝撃のあまり鼻までズレた眼鏡をかけ直すと、固く閉ざされた司令部の扉をキッと睨みつけた。
確かに手段に多少の問題こそあれ、林太郎は誰よりも結果を残してきた。
こんな人事は横暴だ、けして許されるはずがない。
だがきっと彼らならば。
苦楽を共にしたビクトレンジャーのメンバーならば一緒に声をあげてくれるはずだ。
レッド、ブルー、イエロー、ピンク。
ビクトグリーンこと栗山林太郎の、かけがえのない戦友たちならば。
ヒーロー本部の別室、ビクトレンジャー秘密基地。
「みんな聞いてくれ、今日付けでクリリンの網走行きが決まった!」
「ついにトバされてやんのクリリンの野郎! ざまあみやがれだぜ!」
「クリリンが消えれば、ようやくヒーロー本部にも平和が戻ってくるでごわすな」
「きゃー左遷とかクリリンマジかわいそー、ウケるー」
秘密基地の扉は、それはもう秘密とは無縁なほどに薄かった。
林太郎は無言でその扉を開いた。
「聞いたぞ、栄転だって? やったな、おめでとうクリ……グリーン!」
「リーダーに任命されたんだって? まったく、羨ましいぜクリ……グリーン!」
「うむ、網走の平和はおぬしに任せるでごわす、クリ……グリーン!」
「うええ~ん寂しいよう。北海道でも頑張ってねクリ……グリーンくん!」
その日、林太郎は一言も発することなく下宿で荷物をまとめた。
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