前回までのあらすじ!
私物が爆弾に魔改造されていたよ! おわり!
「もちろんひとつだけじゃないッスよ」
サメっちがクローゼットを開けると、そこにはぎっしりと見るからに怪しい箱が積み上げられていた。
「サメっち夜なべしていっぱい作ったッス」
「そんな千羽鶴みたいな感覚で爆弾いっぱい作っちゃったの?」
「アニキの作戦通り、爆弾で東京ごと残りのビクトレンジャーを吹っ飛ばすッス」
かわいい顔をして行政区規模の面制圧をやろうというのだ、このサメ怪人は。
「いやちょっと待ってくれ、俺そんなこと言ったっけ……?」
「だってだって! アニキ昨日『東京も見納めかあ……』って言ってたッス!」
「いや言ったよ、言ったけどそういう意味じゃないんだよ!」
「それにさっき『やるなら早いに越したことはねえ……いっちょやるか……』って笑いながらシャワー浴びてたッス!」
確かにその通りなのだがその通りではない。
林太郎の真意は語感を読み解かれるどころか、大人が本気で作ったミニ四駆なみに改変されていた。
「……さっきから気になってるんだけど、その“アニキ”ってのは俺のことなの?」
「もちろんッス! 頭のいいサメっちは確信したッス。アニキは絶対歴史に名を残す大怪人になるッス! だからサメっちはアニキの一番目の舎弟になるッス!」
ビクトグリーン、栗山林太郎、職業ヒーロー。
26歳にして怪人(ロリ)の舎弟ができました。
「ふふふ、心配ご無用ッス。サメっちこう見えてちょー有能ッス。実は脅迫状も昨日のうちに出しといたッス!」
「出しちゃったの!!?」
一方その頃――。
ヒーロー本部、正式名称“国家公安委員会局地的人的災害特務事例対策本部”は朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
眉間に険しく皺を寄せるのはヒーロー本部長官。
かつて日本初のヒーローチームでリーダーを務めた守國である。
「それで、情報はたったのこれだけか?」
「“東京をばくはする。デスグリーン”書かれているのはこれだけです。文面の内容から爆破予告である可能性が高いと推察されます」
「朝霞、このデスグリーンというのは何者なんだ?」
名を呼ばれた女性補佐官は、メガネをくいっと上げながら事務的に報告書を読み上げる。
「昨日、ビクトグリーンを殺害したとの声明を発表した地下組織、アークドミニオンの新たな怪人であると報告書には記載されています」
昨日の今日ということもあり、会議室の面々にとってはビクトグリーンの殉職そのものが初耳であった。
タバコの匂いで充満した会議室に激しい動揺が走る。
「そんなばかな! あの栗山が? 間違いはないのか!?」
「前年度の首席だぞ!? あの男が本当に殺されたっていうのか?」
「たしかにヤツは倫理というものを知らない真性の屑だが、そう簡単にやられるものか!」
「素行はさておき、実績は申し分ない男でしたからな……素行はさておき」
ざわつくヒーロー本部の幹部たちに向かって補佐官は報告を続ける。
「ビクトレンジャーのメンバーが受けた通信の内容証言とも一致します。またそれを裏付けるように昨日早朝、都内の駅を最後に栗山林太郎の消息は途絶えています。網走支部からも、まだ到着していないとの報告が」
「そんなバカな話があるか!!」
「残念ながら事実だ。今は議論を交わすべきことが他にある」
事前に報告を受けていた守國は一言で皆を黙らせると、朝霞補佐官に続きを促した。
「正体不明の怪人デスグリーンの脅迫文から具体的なことは推察できかねます。しかし既に栗山を手にかけている点から、愉快犯である可能性は低いかと」
「そいつが“東京を爆破する”と言っているわけか……」
「罠の可能性もありますが、なんにせよ情報が不足しています。東京全域が対象となると警察庁の力を借りてもカバーしきれません」
重い空気が会議室を包む。
守國長官はしばらく考え込むと、ひとつの結論を出した。
「やはりこの案件を解決できるのは彼らしかいない。勝利戦隊ビクトレンジャーに出動命令を出すのだ!」
………………。
…………。
……。
ヒーロー本部別室、ビクトレンジャー秘密基地ではメンバーが悲しみに暮れていた。
「うおおお! 礼服なんか持ってないぞ俺!」
「てか香典3000円って高くね? 1000円でいいっしょ」
「相場は5000円らしいでごわす」
「えー、じゃあ間取って3000円でよくなーい?」
誰ひとり、林太郎の死を疑う者はいなかった。
そこに司令官の大貫から緊急司令が下る。
“正体不明の怪人、デスグリーンの東京爆破作戦を阻止せよ”
その瞬間、ダラけきった空気がまるで幻だったかのように張り詰める。
「仕事だ、やるぞ!」
「「「了解!」」」
彼らが手にするビクトリー変身ギアにはVのエンブレムが光り輝く。
勝利のVであり、彼らが積み重ねてきた実績のVである。
“心がたぎる赤き光”
ビクトレッド――暮内烈人。
“悪を撃ちぬく青き光”
ビクトブルー――藍川ジョニー。
“パワーみなぎる黄の光”
ビクトイエロー――黄王丸。
“知性きらめくピンクの光”
ビクトピンク――桃島るる。
忘れてはならない。
彼らはヒーロー学校を首席で卒業した林太郎と同じ、東京本部付きのエリート。
全国に100以上の支部を持つ、日本のヒーロー組織の頂点に立つ最強の戦士たち。
勝利戦隊ビクトレンジャーである。
「「「「ビクトレンジャー出動!」」」」
彼らは武器保管ロッカーに手をかけた。
ロッカーは木工用ボンドでガチガチに封印されていた。
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