極悪怪人デスグリーン

~最凶ヒーロー、悪の組織で大歓迎される~
今井三太郎
今井三太郎

第六話「デスグリーンの東京爆破作戦」

公開日時: 2020年9月1日(火) 17:08
更新日時: 2020年11月30日(月) 18:52
文字数:2,194

 前回までのあらすじ!

 私物が爆弾に魔改造されていたよ! おわり!


「もちろんひとつだけじゃないッスよ」


 サメっちがクローゼットを開けると、そこにはぎっしりと見るからに怪しい箱が積み上げられていた。


「サメっち夜なべしていっぱい作ったッス」

「そんな千羽鶴みたいな感覚で爆弾いっぱい作っちゃったの?」

「アニキの作戦通り、爆弾で東京ごと残りのビクトレンジャーを吹っ飛ばすッス」


 かわいい顔をして行政区規模の面制圧をやろうというのだ、このサメ怪人は。


「いやちょっと待ってくれ、俺そんなこと言ったっけ……?」

「だってだって! アニキ昨日『東京も見納めかあ……』って言ってたッス!」

「いや言ったよ、言ったけどそういう意味じゃないんだよ!」

「それにさっき『やるなら早いに越したことはねえ……いっちょやるか……』って笑いながらシャワー浴びてたッス!」


 確かにその通りなのだがその通りではない。

 林太郎の真意は語感を読み解かれるどころか、大人が本気で作ったミニ四駆なみに改変されていた。


「……さっきから気になってるんだけど、その“アニキ”ってのは俺のことなの?」

「もちろんッス! 頭のいいサメっちは確信したッス。アニキは絶対歴史に名を残す大怪人になるッス! だからサメっちはアニキの一番目の舎弟になるッス!」


 ビクトグリーン、栗山林太郎、職業ヒーロー。

 26歳にして怪人(ロリ)の舎弟ができました。


「ふふふ、心配ご無用ッス。サメっちこう見えてちょー有能ッス。実は脅迫状も昨日のうちに出しといたッス!」

「出しちゃったの!!?」



 一方その頃――。

 ヒーロー本部、正式名称“国家公安委員会局地的人的災害特務事例対策本部”は朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。


 眉間に険しく皺を寄せるのはヒーロー本部長官。

 かつて日本初のヒーローチームでリーダーを務めた守國もりくにである。


「それで、情報はたったのこれだけか?」

「“東京をばくはする。デスグリーン”書かれているのはこれだけです。文面の内容から爆破予告である可能性が高いと推察されます」

「朝霞、このデスグリーンというのは何者なんだ?」


 名を呼ばれた女性補佐官は、メガネをくいっと上げながら事務的に報告書を読み上げる。


昨日さくじつ、ビクトグリーンを殺害したとの声明を発表した地下組織、アークドミニオンの新たな怪人であると報告書には記載されています」


 昨日の今日ということもあり、会議室の面々にとってはビクトグリーンの殉職そのものが初耳であった。

 タバコの匂いで充満した会議室に激しい動揺が走る。


「そんなばかな! あの栗山が? 間違いはないのか!?」

「前年度の首席だぞ!? あの男が本当に殺されたっていうのか?」

「たしかにヤツは倫理というものを知らない真性の屑だが、そう簡単にやられるものか!」

「素行はさておき、実績は申し分ない男でしたからな……素行はさておき」


 ざわつくヒーロー本部の幹部たちに向かって補佐官は報告を続ける。


「ビクトレンジャーのメンバーが受けた通信の内容証言とも一致します。またそれを裏付けるように昨日早朝、都内の駅を最後に栗山林太郎の消息は途絶えています。網走支部からも、まだ到着していないとの報告が」

「そんなバカな話があるか!!」

「残念ながら事実だ。今は議論を交わすべきことが他にある」


 事前に報告を受けていた守國は一言で皆を黙らせると、朝霞補佐官に続きを促した。


「正体不明の怪人デスグリーンの脅迫文から具体的なことは推察できかねます。しかし既に栗山を手にかけている点から、愉快犯である可能性は低いかと」

「そいつが“東京を爆破する”と言っているわけか……」

「罠の可能性もありますが、なんにせよ情報が不足しています。東京全域が対象となると警察庁の力を借りてもカバーしきれません」


 重い空気が会議室を包む。

 守國長官はしばらく考え込むと、ひとつの結論を出した。


「やはりこの案件を解決できるのは彼らしかいない。勝利戦隊ビクトレンジャーに出動命令を出すのだ!」




 ………………。


 …………。


 ……。




 ヒーロー本部別室、ビクトレンジャー秘密基地ではメンバーが悲しみに暮れていた。



「うおおお! 礼服なんか持ってないぞ俺!」

「てか香典3000円って高くね? 1000円でいいっしょ」

「相場は5000円らしいでごわす」

「えー、じゃあ間取って3000円でよくなーい?」


 誰ひとり、林太郎の死を疑う者はいなかった。

 そこに司令官の大貫から緊急司令が下る。


 “正体不明の怪人、デスグリーンの東京爆破作戦を阻止せよ”


 その瞬間、ダラけきった空気がまるで幻だったかのように張り詰める。


「仕事だ、やるぞ!」

「「「了解!」」」


 彼らが手にするビクトリー変身ギアにはVのエンブレムが光り輝く。

 勝利のVであり、彼らが積み重ねてきた実績のVである。


 “心がたぎる赤き光”

 ビクトレッド――暮内くれない烈人れっと


 “悪を撃ちぬく青き光”

 ビクトブルー――藍川あいかわジョニー。


 “パワーみなぎる黄の光”

 ビクトイエロー――黄王丸きおうまる


 “知性きらめくピンクの光”

 ビクトピンク――桃島ももしまるる。


 忘れてはならない。

 彼らはヒーロー学校を首席で卒業した林太郎と同じ、東京本部付きのエリート。

 全国に100以上の支部を持つ、日本のヒーロー組織の頂点に立つ最強の戦士たち。


 勝利戦隊ビクトレンジャーである。


「「「「ビクトレンジャー出動!」」」」


 彼らは武器保管ロッカーに手をかけた。

 ロッカーは木工用ボンドでガチガチに封印されていた。



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