彼女はどう見ても丸腰だし、背後の骸骨どもが襲ってくる気配はない。
毛ほどの油断も示さず、ローテはバッハに近づいた。抜き身の剣をしっかり握りつつ、バッハの頭の傍にかがみ、もう一方の手をゆっくり伸ばす。
その間ツェニーは微笑しながら黙って眺めていた。ローテの指先がバッハの肩にかかる直前、バッハはかっと目を見開いた。
ローテは思わず手を引っ込めた。バッハはいきなり身体を起こし、納骨堂の壁まで歩いた。
呆気に取られたローテを尻目に、バッハの足は全く止まらず、壁に足がかかったかと思うと……あたかもある種の羽虫のように……壁を廊下かなにかのように平然と歩いて登り始めた。
そうして天井まで行き着くと、両足を天井につけたまま、逆立ちした姿になってローテを見下ろした。
「ご主人様、我が身の不運ばかり嘆かないで下さいよ。僕がついていますから」
口が裂けても発するはずのない暴言を、バッハは平然と吐いた。余りにも突拍子がなく、ローテは文字通り言葉を失った。
「ご主人様、ローテ家は自分が当主にならないと滅亡するって……」
「いい加減にしろーっ!」
本気で怒りを爆発させ、ローテは怒鳴りつけた。その途端、辺りの風景が一変した。
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