ヤブランの咲く墓場

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第十話 混迷 五

公開日時: 2020年9月8日(火) 20:00
文字数:496

 彼女はどう見ても丸腰だし、背後の骸骨どもが襲ってくる気配はない。


 毛ほどの油断も示さず、ローテはバッハに近づいた。抜き身の剣をしっかり握りつつ、バッハの頭の傍にかがみ、もう一方の手をゆっくり伸ばす。


 その間ツェニーは微笑しながら黙って眺めていた。ローテの指先がバッハの肩にかかる直前、バッハはかっと目を見開いた。


 ローテは思わず手を引っ込めた。バッハはいきなり身体を起こし、納骨堂の壁まで歩いた。


 呆気に取られたローテを尻目に、バッハの足は全く止まらず、壁に足がかかったかと思うと……あたかもある種の羽虫のように……壁を廊下かなにかのように平然と歩いて登り始めた。


 そうして天井まで行き着くと、両足を天井につけたまま、逆立ちした姿になってローテを見下ろした。


「ご主人様、我が身の不運ばかり嘆かないで下さいよ。僕がついていますから」


 口が裂けても発するはずのない暴言を、バッハは平然と吐いた。余りにも突拍子がなく、ローテは文字通り言葉を失った。


「ご主人様、ローテ家は自分が当主にならないと滅亡するって……」

「いい加減にしろーっ!」


 本気で怒りを爆発させ、ローテは怒鳴りつけた。その途端、辺りの風景が一変した。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート