ヤブランの咲く墓場

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第三十四話 忠告 三

公開日時: 2020年9月20日(日) 23:10
文字数:435

 赤野がなにか確かめようとした直前、給湯室から渕原が現れた。盆に急須と湯飲みを四つ乗せている。


「いいタイミングで戻られましたね」


 いかにも温和な様子で九里に声をかけつつ、渕原は盆をまず自分の机に置いた。急須を持ち、それぞれの湯飲みに順繰りに少しずつ茶を注ぐ。


「さ、どうぞ」


 赤野と銭居にまず湯飲みが出され、ついで九里に。最後に自分自身へ湯飲みを置いてから渕原は座った。


「ありがとうございます。頂きます」


 異口同音に赤野と銭居は感謝し、湯飲みを手にした。軽く吹いてから一口飲むと、ほのかな甘味がする。煎茶でも番茶でもなかった。


「お口に合いましたか? 実はこれ、野ぶどう茶なんですよ」


 渕原もまた一口すすった。


「美味しいです」


 素直に赤野は賞賛した。


「はい、とても」


 銭居も同意見だった。


「身体にもいいですよね」


 九里も上機嫌だ。


「聖書では、イエスは最後の晩餐を前にユダを裏切者と明かしましたね。そして、ワインを自分の血と思って飲みなさいと語りました」


 渕原が語った直後、風が荒れて窓が揺れた。

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