赤野がなにか確かめようとした直前、給湯室から渕原が現れた。盆に急須と湯飲みを四つ乗せている。
「いいタイミングで戻られましたね」
いかにも温和な様子で九里に声をかけつつ、渕原は盆をまず自分の机に置いた。急須を持ち、それぞれの湯飲みに順繰りに少しずつ茶を注ぐ。
「さ、どうぞ」
赤野と銭居にまず湯飲みが出され、ついで九里に。最後に自分自身へ湯飲みを置いてから渕原は座った。
「ありがとうございます。頂きます」
異口同音に赤野と銭居は感謝し、湯飲みを手にした。軽く吹いてから一口飲むと、ほのかな甘味がする。煎茶でも番茶でもなかった。
「お口に合いましたか? 実はこれ、野ぶどう茶なんですよ」
渕原もまた一口すすった。
「美味しいです」
素直に赤野は賞賛した。
「はい、とても」
銭居も同意見だった。
「身体にもいいですよね」
九里も上機嫌だ。
「聖書では、イエスは最後の晩餐を前にユダを裏切者と明かしましたね。そして、ワインを自分の血と思って飲みなさいと語りました」
渕原が語った直後、風が荒れて窓が揺れた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!