足元はレンガで舗装してあり、ところどころに見たこともない赤紫色の小さな花が咲いている。
「ハインツ……ハインツ……一緒にくるのよ……」
誰かが呼びかけた。若い女性の声だ。
「誰だ?」
聞きながら首を左右に振ったものの、墓石ばかりが目に入る。
「ハインツ……怖くないから……」
「誰なんだ!」
「ご主人様……」
はっと目を覚ますと、バッハが自分を覗き込んでいた。
「バッハか」
「お休みのところ申し訳ありません。お父上のマクシミリアン様から、お父上のテントにくるようにとのご命令です」
そう告げたバッハの顔は少し強張っていた。ハインツは必ずしも父親に好意的ではないと本能で感じ取っていたからだ。
子爵からすれば、四男のハインツには土地を与えただけでも破格の好意としたものだし、それを口にするのもはばからなかった。
「わかった。馬の世話はすんだか?」
「はい」
馬にはブラシをかけ、筋肉をマッサージしてやらねばならない。一日だけのいくさとはいえ一時間はかかる。つまり、少なくともそれくらいの時間が過ぎたのだ。
「なら食事にしろ。終わっても俺が帰ってこないようなら休んでいていい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
ハインツは起きて鎖かたびらや他の防具を身につけ、父親のテントに向かった。
「お楽しみのところ失礼致します」
テントに入った途端、ワインの香りが濃い肉汁のそれに混じって鼻を訪れた。
ワインも肉汁もハインツがテントで食べたものなど比較にならないほど上等だ。
程々に広い室内には丸テーブルが置かれ、真っ青なロルフと真っ赤なゲルトがグラスを握りしめて向かい合っていた。
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