カトリック伯林教会で、その月のミサが終わった。博慈院の子供達は一生懸命覚えた聖歌を披露し、パイプオルガンの演奏が終わったテルカンプは満足げにうなずいた。
パイプオルガンと歌唱壇のある二階から、子供達と共に一階に降りると、博慈院の職員達が拍手しながら出迎えた。
「素晴らしい子供達ですね、赤野院長」
テルカンプは、はしゃいでまとわりつく子供達に囲まれながら絶賛した。
「恐れ入ります」
赤野もまたこぼれんばかりの笑顔だった。彼の前任である光川は、年齢を理由に引退している。聖書の研究やこうしたミサにつきあわされるのが嫌だったのだろうとテルカンプは見抜いていた。
「司祭様の伴奏がとても良かったからこそです」
「それはなににも勝る祝福ですな、銭居事務長」
待遇や経費の折衝にうんざりした渕原が退職し、美術商として教会に出入りのあった銭居が特別にテルカンプの頼みを受けて事務長に就任した。
ドイツ語講師や、絵に熱心だった院生がいたような気もする。いや、それは関係ない。現に存在しないのだから。
「で、いつ頃ですか?」
テルカンプは二人に尋ねた。
「はい、再来月の二十日、日曜日でいかがでしょう」
その日はなにも予定は入っていない。
赤野と銭居は結婚する。いうまでもなく式はこの教会で挙げる。記録動画は飛田という若者に頼んである。ユーチューブに溺れて正道を踏み外しかけていたのを、赤野が説得して特別に教会の召使いとして雇うことになったものだ。
結婚式では、説教壇の後ろにあるステンドグラスが大いに演出効果を高めるだろう。聖エリザ。愛を叶える守護聖人だ。再来月の二十日が楽しみでならない……誰にとっても。
終わり
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