ヤブランの咲く墓場

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第四十一話 検証 五

公開日時: 2020年9月23日(水) 18:10
文字数:1,056

 黙って座っているのに耐えられなくなり、赤野は改めて銭居にメールを送った上で無名画家の『魔女狩り』展に入った。どうせなら自分も確かめるにしくはなかろう、くらいの気持ちだった。


 順路と書かれた矢印つきの案内板に沿って床を踏むと、通路を仕切る壁を兼ねたパネルに据えられた絵が順序良く目に入った。シャガールはともかくこちらは誰も見学者がいない。


 最初に、『憩い』と題された大人の上半身くらいのサイズの作品があった。古代ローマの円形闘技場かなにか……赤野の予備知識でもそれくらいは分かった……を背景に、一人の若い女性が石段に腰かけ、同い年くらいの一人の男性に膝枕をしている。


女性は豊満ではないが滑らかな身体つきをしており、裾も袖も長い白い服を身につけていた。袖口と襟元だけは赤い。男性は筋骨たくましく、半裸で、足元に円い盾と長い槍をたてかけていた。茶色い腰巻きを身につけ、足には同じ色のサンダルをはいている。


 次は『祈願』だった。石畳の上に正座に近い座り方をした人物……身体つきと服や装飾品で一枚目の女性とわかるが……が、石の祭壇の上に正対している。祭壇には牛の頭が据えられ、両脇に置いてある長い支柱の上には銀色の鉢から煙が一筋ずつ昇っている。


 三枚目は『異変』だった。緑がかった黄色の胸甲に脛当てをつけ、とさかのような羽根飾りをつけた兵士が二人がかりで最初の絵から登場している女性の髪と左腕をそれぞれ掴み、神殿の廃墟のような建物から引きずっている。もう一人の兵士が建物の出入口で牛の首を右手に下げていた。正確には頭から生えている角を握っていた。


 四枚目は『拷問』だ。薄暗く、赤茶色の闇の中でくだんの女性はあおむけの全裸になっていた。もっとも、胸と股間は隠してある。そして、横に寝かせて両端の支柱で床から浮かせた細い柱に横たわっていた。


柱の断面は三角形で、その頂点が背中に当たるようになっていた。彼女の両手両足は柱の下に回したロープでそれぞれくくりつけられており、口にはじょうごがあてがってある。


三角目出し頭巾をかぶった拷問係が、ひしゃくの水をじょうごに流し込んでいた。彼女の腹は妊婦さながらに膨れ上がっている。


 次第にグロテスクになっていく絵の内容に、さすがに足が止まった。赤野には拷問を眺めて楽しむような悪趣味はない。


「お待たせしました」


 小声で背後から銭居が呼びかけ、思わず叫び声が漏れるところだった。


「銭居さん、一体どこに……」

「ごめんなさい、馬場さんらしき方を見かけて追っていました。人違いでした」


 それなら理解出来なくもない。

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