ローテは馬に乗り、クリューガーが後ろについたのを確かめてからすぐに馬の脇腹を強く蹴った。
頼もしい速さで馬は二人をローテの自宅へと運んだ 。雹は相変わらず降り続けてはいたが、怪我らしい怪我もなく着けた。
まずクリューガーを玄関で降ろし、馬を厩に入れてからローテも玄関に行った。
「バッハ!」
ドアを開けるなりローテは叫んだ。
「はい、ご主人様。お怪我はございませんか?」
バッハが飛んできて真っ先にタオルを差し出した。
「俺はいい。客人の世話をしろ」
「はい、かしこまりました」
「申し訳ございませんがご厄介になります」
クリューガーはそう感謝しながら戸口をくぐりしなにタオルを受け取った。
「とりあえずワインとチーズを……」
と、指示しかけたローテの表情が一気に強張った。テーブルの上に花が一枝飾ってある。
「バッハ、その花をどこで 手に入れた」
「え、ああ、 庭先を掃除していて見つけたんです。見たこともない綺麗な花ですし、飾っておくと楽しい、かなぁーって!」
バッハの異常な態度に思わず押され、すぐに捨てろと命じるのが遅れてしまった。そして背後でドアがノックされた。
「誰だ?」
「ローテ様、御兄上の司祭様の使いで参りました」
よりにもよって。舌打ちしたいのを堪えてローテは 自らドアを開けた。
「お休みのところ申し訳ございません。司祭様は……」
そう言いかけた使いの顔が常軌を逸した驚きに歪んだ。口がぽかんと開き、手足から力が抜けかかっている。
ローテが振り向くと、バッハはテーブルに飾ってあったヤブランを花瓶から引き抜いて握りしめ、天井からあの納骨堂と同じ要領でぶら下がっていた。というよりは天地を逆にしてたっていた。
「魔女めが、その子から離れろ!」
クリューガーは叫んで、鞄から十字架を出した。それをバッハにつきつけると、バッハは顔を歪めて曲がった笑い顔をひきつらせた。
「そんな代物を怖がるほど僕は甘くないですよ。例えば、ほら!」
誰も手を触れてないのに窓が勝手に開き、雹が横殴りに振り込んできた。
「わーっ!」
ゲルトの使いは喉から叫び声を絞り出し、一目散に逃げ出した。
「ほらほら、そこの薄汚いお坊さんも出ていった方がいいですよ」
「お前のまやかしなどなんとも思わぬ」
クリューガーは吐き捨てるように告げて、ヤブランを挿す花瓶に十字架を捩じ込んだ。
途端に十字架と花瓶が砕け、ヤブランは枯れてぼろぼろになり、しまいにはなにか見えない力でもみしだかれたように粉々になってしまった。
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