街外れの孤児院とやらが次の目的地なのは良いとして、飛田の情報が正しいなら……彼が嘘をつく筋合いはない……赤野が得た『ビジョン』と馬場の体験は係わり合いがあるとしか思えない。
「孤児院……私が検索しましょうか?」
銭居が気を利かせた。
「赤野様?」
「あ、ああ、お願いします」
慌てて取り繕いつつ、赤野は銭居のほっそりした横顔をつと眺めた。
また雷が光り、銭居のそれこそ彫刻めいた美貌を浮き立たせた。同時に、馬場を含めた三者の中では一番発言権が高いはずの……なにしろ明確なる債権者である……自分が銭居の一挙一動を恐れもすれば期待もしているのを嫌でも思い知らされた。
「はっきりしました。大体車で十分くらいですね。すぐですよ」
「なら行きましょう」
とにかく、馬場に会いさえすれば全て明確になる。そもそも赤野の目的は家賃の取り立てなのだから。
「じゃあ駐車料金を精算してきますね」
銭居が一度車を出た。彼女の背中を眺めながら、ふと思った。
なるほど、法的には赤野の立場が一番強いかもしれない。しかし、馬場の絵を銭居が買わないことには……なおかつ一定の金額に達さなければ……結局は無意味だ。
では、銭居が一番強い立場なのか。その銭居の行動に大義名分を与えているのは赤野ではある。銭居からすれば取引のある画家は馬場だけでもないだろうに。
考えが乱反射してまとまらなくなった時、精算を終えた銭居が戻ってきた。
「それでは出発します」
「はい」
車輪がロック板を踏みつける感触を経て、赤野は銭居と共に教会を背にした。
「次に行く孤児院……さっきの教会が運営していますね」
車を運転しながら銭居は説明した。
「じゃあ、お祈りの時間なんかあるんですかね」
映画かなにかで知ったうろ覚えの知識を、呟くように赤野は返した。
「あるでしょうね。孤児院もピンキリですので、実際に伺わないと分からない事も多々あるでしょう」
「今度もアポはなしですか?」
赤野はテルカンプの冷ややかな対応を思い出していた。
「はい。馬場さんがいれば逃げられますし、いなければ手がかりだけ聞けば済みますし」
だからこれ以外の場所でも同じ要領を続けると言わんばかりの銭居だった。
雨は依然として激しく降っていた。教会と違い、郊外という点もあってか孤児院には駐車場があった。
『博慈院』なる木製の立て札が、子供向けのアニメキャラのようなオブジェに抱えられている。
ブロック塀に囲まれた建物は確かにさっきのカトリック伯林教会に似た造りで、三角形の屋根から駒形の張り出し窓が突き出ていた。日中だが雨なので屋外には人はいない。
「赤野様、インターホンで連絡を取って頂けませんか? 馬場さんを探している、とはっきり聞いて頂いて構いませんから」
「はい」
赤野は立て札の奥にあるインターホンのボタンを押した。
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